| 版 画 の 知 識 |
| 「版画」の歴史は、「宗教」、「美術」、「印刷」、「書籍 ( 本 )」の歴史などとも深く関わる大変広く、深く、永いものですが、末尾の文献を参考または引用させて頂き、「版画」の知識を整理致しました。 これからも折にふれ研究を深め、知識を充実させてゆきたいと思っております。青木美術のホームページをよりよくご理解頂くのに、このページの内容がお役にたてれば幸いです。 | |||
| 1. オリジナル版画 | 2. パントル・グラヴール | 3.複製版画 | 4. エディション |
| 5. E.A. | 6. H.C. | 7. サイン | 8. マージン |
| 9. ステート | 10. ボナ・ティレ | 11. レイエ | 12. アルシュ |
| 13. ウォターマーク | 14. カーボランダム | 15. 版画のかけ方 | 16. 版画の保存 |
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(1) 「オリジナル版画」 -- ORIGINAL PRINT 「オリジナル版画」の定義については、第3回国際造形芸術会議( 1960年ウィーン )、プリント・カウンシル( アメリカ、ニューヨーク )、フランス国民版画委員会( 1965年 )などで、国際的に議論されてきました。 「オリジナル版画」の定義は、「版画」を観賞、購入、コレクションする際に、大変重要なことがらです。 青木美術では、「オリジナル版画」を次のように考えています。 「画家が版表現の意図をもって、画家が下絵、製版、摺刷を自らまたは画家が責任をもって工房の版画職人と共同制作 ( 製版、摺刷 ) する版画で、普通版面右下のマージンにサイン、左下に限定番号が記載されています。 ( ただし、1930年以前に制作された版画には、この定義は適用されません。)」 (2) 「パントル・グラヴール」 -- PEINTRE-GRAVEUR 「パントル・グラヴール」とは、フランス語で「画家にして版画家」をいいます。即ち、画家であって、オリジナル版画をも制作できる芸術家をいいます。graveur ( グラヴール ) とは、模刻( 複製 ) 銅板彫版師のことで、木版彫版師は、graveur sur bois と呼ばれ、そして、創作版画家を peintre-graveur と呼びます。 残念ながら、日本では、こうした考え方が明確に定着していません。版画の購入、観賞に際しては、版画家即ち「オリジナル版画」家の版画作品であるかどうかを峻別する見識が是非とも必要です。 (3) 「複製版画」 -- REPRODUCTION PRINT 画家が版表現の意図をもたず、工房の版画職人が画家の油彩画、日本画などを写真製版して複製制作した版画で、それ自身自立した芸術性を有さない複製画をいい、芸術作品とはいえません。「複製版画」を出版する側( エディター )は、出版に際して、@「複製版画」であることA原画に関する情報 ( タイトル、年記、技法、サイズ、所蔵者 ) Bエディター名、工房名 ( 刷師名 ) C出版の年記などを明記すべきでしょう。デュフィの「複製版画」には、こうした情報が、裏に印刷されています。 また、画家はサインを控え、刷師がサインすべきであると思います。残念ながら、こうした慣習は日本では定着しておりません。従って、「オリジナル版画」と「複製版画」とは、見た目で区別することはできませんので、「版画」の購入、観賞に際しては、「オリジナル版画」と「複製版画」とをきちんと峻別する見識が是非とも必要です。 なお、エスタンプ ( estampe ) は、本来、「版画」を意味するフランス語ですが、日本では「複製版画」を意味する言葉として用いられています。 (4) 「エディション」 -- EDITION エディション( edition ) は、本来「版」の意味ですが、版画の場合は、版の芸術的耐久力、芸術性の保持、版画の市場価値の観点から、限定版あるいは限定部数 ( limited edition ) という意味付けがされています。 版画の「エディション」制を慣習として定着させたのは、フランスの画商であったアンブロワーズ・ヴォラールです。今日のオリジナル版画の限定部数は、200〜300部が慣習化しています。限定部数に、EA、HCの部数は入りません。従って、限定部数にEA、HCの部数を加えたものが、総発行部数になります。限定部数が慣習化された200〜300部を超える場合は、「ラージエディション」といいます。「ラージエディション」の場合は、「エディション」が10,000ということもあります。「サイン」は「版上サイン ( Signed on Plate ) で、価格も著しく低くなりますが、「オリジナル版画」の定義に合致した版画であれば、「オリジナル版画」として扱われます。なお、類似の作品が、サイズ違い ( 大版、中版、小版 ) や形状違い ( タテ版、ヨコ版 ) でそれぞれ200〜300部刷られた場合などは、事実上の「ラージエディション」といえるでしょう。 (5) 「E.A.」 -- EPREUVE D'ARTISTE 本摺りの一定部数のほかに作家用という名目で作家がその品質を保証して別に一定の枚数を摺る場合に画面の左下に記入される文字。「E.A.」は、フランス語の Epreuve d'artiste ( Epreuve d'A ) の略。日本では、普通「イーエー」と発音しますが、「エーアー」が正しい発音です。英語では、A.P.で Artist's proof といいます。 epreuve は、英語では proof で、試摺り( しずり )の意味で、本来、「E.A.」は、作家の校正摺りに記入される文字です。「E.A.」の枚数は、限定部数の5〜10%が常識です。「E.A.」の枚数があまり多くなると、限定部数の意味が薄れてきますし、市場の信頼を損なうおそれが出てきます。「E.A.」の表記には、一連番号が記入されない場合も多くありますが、、総発行部数の確認や市場の信頼獲得の意味から、「E.A.」にも一連番号を「アラビア数字」ではなく、「ローマ数字」で記入するのが望ましいと思われます。 「E.A.」は、作家の保存・贈呈用ですが、作品のクォリティに差はないため、エディションナンバー ( 限定番号 ) 入りの作品と同じ価格で流通しています。 (6) 「H.C.」 -- HORS COMMERCE 本摺りの一定部数のほかに美術館などへの商品見本として、別に一定の枚数を摺る場合に画面の左下に記入される文字。「H.C.( アッシュ・セー )」は、フランス語の Hors Commerce( オル・コメルス )の略で非売品の意味です。日本では、「エッチ・シー」と発音します。「H.C.」の枚数や表記方法は、「E.A.」と同じです。総発行部数の確認や市場の信頼獲得の意味から、「H.C.」にも一連番号を記入するのが望ましいのは、「E.A.」と同じです。 「H.C.」は、本来非売品ですが、作品のクォリティに差はないため「E.A.」と同じように、エディションナンバー ( 限定番号 ) 入りの作品と同じ価格で流通しています。 (7) 「サイン」 -- SIGN 署名。現在、画家は自ら制作した「オリジナル版画」の画面右下の余白に「サイン」をし、左下の余白にエディションナンバーをいずれも黒色鉛筆で記入します。この二つが記入された作品をサインド・アンド・ナンバード( signed and numbered )といいます。1960年9月、ウイーン第3回国際造形芸術会議で「オリジナル版画」と認められるためには、各作品に「サイン」とエディションナンバーが付けられなければならないとする宣言が採択されました。歴史的には、15世紀末頃からモノグラムが用いられるようになり、16、7世紀になってモノグラムは「サイン」に移行し、画家は原版に「サイン」をいれるようになりました。しかし、版上サインでは、悪用されるおそれがあり、次第に摺刷された作品一枚一枚への「サイン」によって、その版画が間違いなく画家の手を経たものであるという権威づけをするようになりました。なお、「サイン」には、次のような種類があります。 (1)モノグラム ( monogram ) 画家の頭文字などの組み合わせ文字。A の下に D を配したアルブレヒト・デューラーのモノグラムは有名です。 (2)版上サイン ( signed on plate ) 原版に入れられた「サイン」。原版の管理の問題や刷師や工房のモラルの問題があり、画家の関知しない作品が摺刷されるおそれがあります。 (3)インクサイン ( ink sign ) インクの「サイン」は歴史的に珍しくはありませんが、時間の経過とともに、退色する欠点があり、現在では、鉛筆でサインを入れる習慣が定着しています。 (8) 「マージン」 -- MARGIN 版画(イメージ)のまわりの余白。「マージン」は普通1インチ( 2.54cm )以上とります。現在、「マージン」は、サインやナンバーを入れるためと保存・観賞のためにとられています。 なお、フルマージンは、「マージン」が完全なものの意味です。額装のために切り取るのは、好ましくありません。また、ノーマージンは、「マージン」のない版画作品のことです。「マージン」は不要だという考え方もありますが、版画作品の保護や額装の観点から、「マージン」がある方が望ましいと思われます。 歴史的には、銅版画の画材としての銅が高価で、紙が安価であったため、版を小さく、紙を大きく とったため、「マージン」が発生したとのことです。木版画では、版材としての木が安価であったため、木版画では、「マージン」はなかったようです。 (9) 「ステート」 -- STATE 「ステート」とは、版画家あるいは第三者がすでに彫版または描画の終わっている原版の画面を修正することによって生ずるイメージ( 画 ) の変更の段階をいいます。17世紀頃のエッチング ( レンブラントやピラネーシ ) には、いくつかの「ステート」があります。最初の摺りは、1st state ( 1ere etat - 仏 ) 修正や補筆などをほどこした次の摺りは、2nd state ( 2e etat - 仏 ) といいます。 (10) 「ボナ・ティレ」 -- BON A' TIRER B.A.T.と略され、画面の左下に記載されます。B.A.T.とは、最終校正版のことで、作家が立会い、この言葉を記入します。エディション ( 版画 ) を摺刷する基準となります。B.A.Tは、記録として保存され、売却されないのが本来ですが、市場で見かけることがあります。残念ながら、B.A.T.がどのように管理されているのか、詳しいことはわかりません。 (11) 「レイエ」 -- RAYER 総発行部数を摺り終えた原版に×印などの線を入れ、原版を廃棄することをいいます。「消印」ビフェ( biffe )ともいいます。工房は、×印などの線のはいった版画を一枚刷り、刷了した日付、部数などを付記して管理し、いつでも公表できるようにしておくべきでしょう。「レイエ」は、版の管理上きわめて重要なことですが、現在、「レイエ」がどの程度、厳格に行われているのかは、はっきりしません。なお、リトグラフと銅板の場合は、カタログレゾネに、次のように記載されます。 (1)リトグラフの場合 pierre effacee -- 石版石は消された。 (2)銅板の場合 Cuivre raye apres triage -- 銅板は摺刷後レイエされた。 なお、原版廃棄の習慣( 「レイエ」) が定着する以前に、廃棄されなかった「オリジナル版画」の原版から、正規の限定部数が摺刷された後に、ご遺族の方や関係者などの正規の管理と責任のもとに、刷り増しされことがあります。これを後刷り ( posthumous edition ) といいます。後刷りは、正規の限定部数作品に比べて、はるかに低く評価されます。 (注)1. リストライク ( restrikes ) オリジナルエディションが完成・終了した後、原版からリプリントもしくは摺刷された版画をいいます。日本では、特にオールドマスターの原版から摺った版画を対象にしています。 (注)2. リプリント ( reprint ) 作家以外の手で加筆・補筆もしくは修正された原版から摺刷された版画をいいます。 (12) 「アルシュ」 -- ARCHES フランス製の水彩画用紙。軟らかく、インキの吸収性がよく、リトグラフや銅版画に多く使われています。フランス版画 ( リトグラフ ) の多くは、「アルシュ」が使われています。 (13) 「ウォターマーク」 -- WATERMARK 紙の透かしを「ウォターマーク」といいます。「ウォターマーク」は、製造元や商標権を表示することなどを目的として、発生したと考えられています。「ウォターマーク」によって、紙の製造年代を知ることができるので、古い版画の制作年代を知る手がかりとなります。代表的版画用紙である「アルシュ」には、'ARCHES FRANCE' という「ウォターマーク」が入っています。紙は何かを書かれたり印刷されたりするので、透かしで製造元や商標権を表示することになったのでしょう。 最初に紙に「ウォターマーク」を入れたのは、イタリアのファブリアーノ製紙工場だといわれています。1282年頃のものと推定されるギリシャ十字架 ( 腕木の4本が同じ長さの十字架 ) に似た形の「ウォターマーク」をブリケという人が発見し、これが最古の「ウォターマーク」とされています。 なお、ブリケは、1282−1600年の間にヨーロッパで製造された「ウォターマーク」16,112種を ( 図版を掲載して ) 紹介し、その製造年代を明らかにしています。「ウォターマーク」の「カタログレゾネ」といったところです。 (14) 「カーボランダム」-- CARBORUNDUM アンリ・ゲッツ ( Henri Goetz 1909 - 1989 ) が1960年代に完成させた版画の技法です。 カーボランダム ( 炭化珪素 ) にレジン ( マツヤニ ) 、ニカワ、砂などを混ぜ、キャンバスに向かうように直接銅板にペインティングし、バーナーで焼き付けて凹凸のある版を作り、プレスによって、湿潤化した厚い紙に、インクを刷り込みます。線を描く、塗り込む、削り取るといった創作のプロセスがそのままレリーフになり、パターンになって作品に表れます。コワニャール、コタボ、パパートなどがこの技法による作品を多く残しています。 (15) 「版画のかけ方」-- HOW TO HANG GRAPHIC WORK (1)模様の少ない壁( 無地 )の方が、「版画」の独立性を確保する意味で、「版画」をかけるのに適しています。 (2)できるだけ目線が「版画」の中心になるよう、「版画」をかける高さを調節しましょう。座って見るところでは、立った時の目線より幾分低くします。 (3)複数の「版画」を同じ部屋にかける場合は、できるだけ額の種類を統一し、それぞれの額の上端を揃えるようにしましょう。 (4)年に2〜3度かけ替えすれば、季節感や模様替えの効果を楽しむことができます。「版画」の保存にも効果的です。 (16) 「版画の保存」-- PRESERVATION OF GRAPHIC WORK 日本では、高温多湿のため、シミ( foxing ) が出やすいですし、あまり長期間飾りっぱなしにしておきますと、光線により、版画が変色や褪色( 色落ち )してしまいます。次のような点に注意するのがよいでしょう。 (1)温度と湿度 温度20度、湿度55%が美術品の保存によいとされています。特に6〜9月は注意が必要です。シートを出し入れされる場合もこの時期は避けたほうがよいでしょう。シートで保存されている場合は、シートが温度や湿度の影響を受けやすいので、特に注意が必要です。 (2)版画のかけ替え はっきりした年数はわかりませんが、できるだけ版画を休ませる心がけが大切です。数年〜10年以上も飾りっぱなしにされるのは避け、1年に一度ぐらいはかけ替えた方が版画を長持ちさせることができます。 |
| 参考文献 |
<おことわり>
青木美術は、このページの内容につきまして、できるかぎり正確に記述するよう努力致しておりますが、学術的あるいは実務的に確認できていない箇所も多々ございますので、このページの内容につきまして、いかなる責任も負いません。
なお、このページの記載内容に誤りがございましたら、ご指摘、ご指導賜りたくよろしくお願い致します。
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