子宮全摘のリスク

生命に関わる子宮がんなどの悪性腫瘍に対して、そして子宮筋腫による重度な症状に対して、子宮全摘術は有効な治療法です。

子宮全摘後、術前の辛い症状から解放され、普通の生活を取り戻し、人生を楽しんでいる女性は大勢います。その時々の状況の中で最善の選択として子宮全摘術を受け、後悔することなく、前向きに生きています。こんなに楽になるのであれば、我慢せずにもっと早く手術を受ければよかったと言う方もいます。

その一方で、子宮全摘をひどく後悔している女性たちもいます。

不正出血を訴えていたある女性は、「子宮を全摘するか何の治療もしないかのどちらか。子供を産むのなら残す。子宮は赤ちゃんを入れておく袋だから、子供がもういらないのなら、悪性の疑いもあるし、ポリープは取ってもまたできる、いたちごっこだから全摘しましょう」と医師に言われ、腹腔鏡下膣式子宮全摘術(LAVH)を受けました。結果はポリープではなく、小さな粘膜下筋腫だったとのこと。術後3日目から耳鳴りが始まり、めまい、ふらつき、不眠症、過呼吸などの症状が日々に悪化し、手術から3年以上経過しても普通の生活もままならず、家族や周囲の誰にもそのつらさをわかってもらえずにいます。元々他の病気による症状もあったのですが、かろうじて保たれていた全身の微妙なバランスが、子宮摘出によって一気にくずれ、重度の更年期障害に陥ったようです。しかし、手術を受けた病院では対処してもらえず、他の病院に行っても「子宮を摘出する必要はなかった」と言われるだけで、終わりの見えないトンネルから抜け出せないでいるのです。

「女性にとって子宮と卵巣は、心臓のようなもの。子宮全摘と言われても、納得のいくまでセカンドオピニオンを得て、本当に必要になるまで手術を受けない方がいい。私の失敗は周りの人をみんな巻き込んで、毎日があまりにも辛すぎる。後悔しています・・・」(45歳)

また、子宮全摘後に身体的な異常はなくても、精神的に大きな影響を受けた女性もいます。

子作りは終えていたけれど、子宮全摘にはかなり抵抗がありました。しかし、当時はMRI検査がまだ一般的でなかったため自分の状態もよくわからず、他に選択肢もなく、やむを得ず子宮全摘を承諾しました。術後、子宮喪失感から鬱状態になり、家族や周囲にも理解してもらえず引きこもりがちになり、様々な活動や友人からも急に遠ざかってしまいました。2〜3年は鬱状態が続き、5年以上経ってからようやく手術のことを話せるようにはなったけれど、それでもまだ心の傷は癒されていません。(48歳)

痛みから解放されるために子宮全摘を受けたのに、解放されるどころか、術後も癒着やケロイドによる慢性的な痛みに苦しみ、その痛みを改善するためには、さらにもう一度手術を受けなければならないという矛盾を抱えている女性たちもいます。

子宮全摘後の経過が思わしくない女性のほとんどは、ひとりで悩み苦しみ、表にはなかなか出てこられないのが日本の現状です。インターネットの世界でも、アメリカの女性たちのように子宮全摘後の問題について声を大にして訴える方はいません。産婦人科医がどの程度まで術後の経過をフォローして把握しているのかは疑問でもあり、確率の低い合併症は特異な例として他の診療科で扱われるためか、手術と術後の症状との因果関係に関する研究や長期データもほとんどありません。そのため、子宮全摘後の後遺症に対する認識と理解が遅れているのではないかと思います。

子宮全摘術のデメリットとリスク

1. 外科的手術(開腹)によって死亡するリスク
2. 全身麻酔、硬膜外麻酔のリスク
3. 合併症: 尿管損傷、膀胱損傷、腸管損傷(1/1000人)
   感染、術後出血、癒着、腸閉塞、下肢静脈血栓症、肺塞栓症、
   腎不全、骨盤内臓器の脱下垂、性機能不全
4. 輸血の可能性
5. 卵巣機能不全(約15%)
6. 入院期間 10〜14日(開腹)
7. 回復期間 4〜6週間(開腹)
8. 術創の疼痛、痒み、ケロイド
9. 早期閉経の場合、心臓疾患、骨粗鬆症、尿失禁などの
   確率が高くなる
10. 妊よう能を温存できない
11. 喪失感

子宮全摘と卵巣機能

「子宮を取ったら卵巣はどうなりますか」という質問に対して、「子宮を取ったからといって、卵巣の働きが弱くなるようなことはありません」「子宮をとった人は更年期障害が早まるといわれていますが、それもデータがあるわけではありません」というような説明を本で読んだり、産婦人科医から聞いたりして、手術にのぞまれた方も多いでしょう。

しかし実際には、子宮摘出後の卵巣機能不全については多くの報告があります。それらを見ると、早期卵巣機能不全が生じる確率は16.7−57.3%(平均23.5%±5.3%)というデータが示されていますが、著者たちはなぜか「子宮摘出は卵巣機能に影響しない」と結論づけています。しかし、約1/4の患者に卵巣機能不全が生じるのであれば、「影響はある」と言えるのではないでしょうか?これらのデータが報告されてから医療は進歩していますが、子宮全摘の1年以内に約15%の確率で卵巣機能不全が生じる可能性があることは、アメリカではよく知られている事実です。

子宮全摘が卵巣機能に影響する理由として、卵巣への血流の低下があげられます。子宮と卵巣は完全に独立した臓器ではなく、子宮動脈と卵巣動脈との間には吻合(ふんごう)があります。吻合とは、「2つの血管またはその他の小管構造物間の直接あるいは間接の自然の連絡」ですが、吻合の場所によって、子宮が卵巣動脈から血流を得ている場合、逆に卵巣が子宮動脈から血流を得ている場合、また吻合はあるけれど各臓器の血流に関与していない場合など、様々なパターンがあります。そのため、子宮摘出の際に子宮動脈を切断することによってある一定の確率で卵巣機能が弱まる可能性があるのです。

UAEの場合も数パーセントの確率で卵巣機能不全が生じることがありますが、その原因の1つとして子宮動脈と卵巣動脈との吻合があると言われています。

<子宮動脈と卵巣動脈の吻合を示すイラスト>


ホルモン補充療法

たとえ子宮全摘後の卵巣機能不全が生じたとしても、そして子宮と共に卵巣も摘出したとしても、ホルモン補充療法を受けることができるから大丈夫と思われるかもしれません。しかし、ホルモン補充療法は、卵巣から分泌される自然のホルモンとは同じものではなく、また、一人一人にとって女性ホルモンの適正量は異なるため、同じような働きをするとは限らないのです。

2002年7月、米国立衛生研究所(NIH)は、心臓病などの予防を目的に、閉経後の女性に2種類のホルモンを投与するホルモン補充療法の大規模臨床試験を中止すると発表しました。長期にホルモン補充療法を受けた女性は、擬薬投与者に比べて、乳がんの発生率が26%、血管系心臓疾患が29%、脳卒中が41%も増えたことが明らかになり、ホルモン投与による害が効果を上回ると判断したのです。

これは子宮がある女性に対するホルモン補充療法についての調査結果ですが、それに続いて、子宮を摘出した女性に対するエストロゲン単独のホルモン補充療法の長期投与によって、卵巣がんのリスクが高まることが発表されました。

更年期症状に対する女性ホルモンの短期投与は、いずれもメリットがデメリットを上回るとしていますが、長期投与はデメリットの方が大きいことが明らかになってきています。


<参考>

子宮全摘に関するRAND 報告書(必見!
特に第4章のComplications(合併症)では20ページにわたって、子宮全摘の死亡リスク、感染症・合併症に関するあらゆる文献データをまとめてあります。
Hysterectomy: A Review of the Literature on Indications, Effectiveness, and Risks
http://www.rand.org/publications/MR/MR592.2/

米国立衛生研究所のホルモン補充療法研究に関する報告
http://www.nhlbi.nih.gov/health/women/index.htm
http://www.nhlbi.nih.gov/public/sept02/feature.htm#tablereturn

「ホルモン補充療法に関する見解」
http://www.jsog.or.jp/kaiin/html/hrt_2sep2002.html


"Misinformed Consent - 13 Women Share Their Stories About Unnecessary Hysterectomy," Lise Cloutier-Steele, Stoddart, 2002.
http://www.misinformedconsent.com/