世界の軍備を全廃して人類を絶滅の危機より脱せ締めよ。
井上 魯堂(健太郎)
皆さんこれを私の夢だと思われぬように。
人類が、ことにその指導層が無自覚で過ごしている間に、天(真理)は原水爆という一大鉄槌を人類の面前に示し、もし人類が自覚しないならば一挙にこれを爆発させ人類をこの地球上から抹殺するが、世界の指導者よそれでもよいか、と吾々に迫っている。指導層の皆さんはこの姿がおわかりであろうか。
英国の哲学者バートランド・ラッセルは次のような言葉を吾々に残した。「人類は科学的には全く驚嘆に値する進歩を遂げたが、精神的には原始時代を去ること遠くない」と。この言葉には吾々が沈思すべき多くの示唆を内包している。けれども精神的進歩が全くなかったかとい うと必ずしもそうではないという気がしないでもないのである。
日本に例をとってみても、徳川時代までは内乱(国内戦争)に明け暮れたのである。しかし 徳川が天下を統一し、内乱を押さえて以来、明治を過ぎ今日に到るまで国内の戦争は終息した。 そして再び起こることはおそらくないであろう。世界の趨勢もごく局地的な小ぜり合いは別として、文明国であれば大体日本と同様と見てよいと思う。これはラッセルの言にも拘わらず一つの精神的進歩である。唯、科学的進歩に較べて精神的進歩は確かに遅い。これはラッセルの 言う通りである。これからはこの遅れを取り戻す努力が少なくも文明国の指導者の間でなされなければならないであろう。
さきにも云ったように文明国は国内戦争に終止符を打った。そうしたら次の進歩の目標は何か? それは国際戦争に終止符を打つことではないのか。最も多くの人類に最も大きな幸福を齎らすものがそれではないのか。
紙面の余裕がないからその具体的方策を箇条書きにしてみる。ご判読を願いたい。
世界の各国は次の内容の条約を結ぶ。そのイニシャティヴは戦争の放棄を世界に宣言した日本がとる責務がある。それは必ずしも政府を宛にする必要はない。
1.一切の国際紛争は絶対に戦争に訴えず、新たに設立される国際裁判所に提訴する。
2.紛争国は裁判所の判決に従う義務を負う。
3.裁判所の判事は国籍を離脱して裁判の公正を期する。
4.判事は首相あるいは大統領相当の礼遇を受ける。
5.退職した判事はその自由意志によって取得すべき国籍を決定することができ、その国はこれを受け入れる義務がある。
6.判事は終身の名誉称号と生活の保障とを国連より受けるものとする。
7.職業軍人は自国および国際連合で世界的視野から転職の斡旋をはかる。
8.軍需工場は同じく自国および国際連合で世界的視野から転換を図る。
上記二項目は現に敗戦を喫した日本の終戦処理において見事にその目的を達したのだから決してできないことではない。
以上が軍備全廃の構想であるが、これを実施するのに二つの方法がある。
1.段階的方法
先ず原爆を廃止、廃棄、次にその他の武器を廃棄する。原爆の単独廃止は目下世界的にその要望が高まりつつあるが、この単独廃止は不可能か或いは不徹底に終わる恐れがある。何故な ら、原爆だけを廃止して他の武器を残すことは他日、戦争の火種を温存するわけだから、仮に 原爆廃止の約束をしても地下隠匿などの方法により、開戦時の有利性を残そうとするので、不徹底に終わると思われる。だから軍備全廃を前提としてことを進める必要がある。
2.一挙全廃的方法
真の平和を目的とするなら、この方法によらないと徹底しない。
次に実施手段であるが、
1.従来のような多衆集合によるデモはそのときばかりのことで効果はない。
2.国連の場に問題を提起して進行をはかる。
この方法は一見効果的に見えるが国家は軍備全廃どころか逆に軍備拡張の方向にすら向かっているように見える。そうした国家で構成する国連が軍備全廃のイニシャティヴがとれるよう なはずはない。
3.国際赤十字社という組織にイニシャティヴをとらせてこの問題を推進させる。
元来赤十字社は戦争に傷ついた人達の看護や治療をする目的で設立された国際的慈善機関であって、ルーツは人類愛である。そうだとすれば、その目的を更に徹底させて、人間同志が初 めから殺されたり、傷ついたりしないようにする。言葉を換えれば戦争をしないようにするところまで徹底しないと赤十字の進歩はないであろう。しかもこの機関は一応国家から独立し、 都合のよいことに世界的な組織を持っている。まさにあつらえ向きの実施機関ではないか。
だったらどこが発議をするか。それには最適な機関として日本赤十字社がある。日本は偶然にも憲法で世界に不戦を宣言した。だから日本政府はこの不戦措置をバックアップする義務がある。こうして正に天(真理)は日本赤十字社をして世界に軍備全廃のイニシャティヴをとるべくその使命を附託したのである。静かに禅定に入るとその天の声が強く厳めしく私の魂をゆ さぶってやまない。
しかしこの措置は世界中で最も価値あることでありながら他面最も困難なことである。もし人類が少しでも精神的進歩を遂げるものとしたら、その証はこの軍備全廃として現れざるをえないであろう。
人類の幸福に最も大きく貢献するこの発議を日本赤十字社がとってくれたら、社長は「人類 の父」として永遠にその得を世界の人々から仰がれ、そして語り継がれていくことであろう。
※ これは、昭和58年2月28日(1983年)の観照会の機関紙に掲載されたものです。
