退任のあいさつ

Medical Malpractice Information Center


加藤 良夫
かとう よしお
(名古屋弁護士会)
 弁護士となって10年位経った頃、私はある先輩から「後継者を育てることを考えなさい」と言われました。当時は、「未だ自分が育ってもいないのに後継者を育てるなどといえる状況ではない」というのが率直な感想でありました。しかし、その後「後継者を育てる」ということの大切さ、そのことの持つ意味等を認識できるようになり、センターの事務局が現在の場所に移転する頃にはすでにバトンタッチをすべきタイミングを考えておりました。

 「医療過誤事件の被害者救済」や「患者の人権の確立」そして「医療の質の向上・安全な医療の確立」というテーマは、どんなに頑張ってみたところで一人の力でなし得ることではありません。多くの被害者を迅速・的確に救済し、再発防止を図り医療の質の向上を実現していくためには、組織的に取り組むことが不可欠ですし、一つの良いシステムが構築され機能しはじめた時には、それが果たす役割・効果は実に大きなものです。

 私が「医療事故情報センター構想」をまとめて公表したのは、1987年のことです。3年間の準備期間を経て、1990年12月にセンターが正式発足しました。発足当時111名であった正会員の数は今では485名となり、スタッフ、設備、協力者の輪のいずれも充実してきました。昨年11月からは、嘱託弁護士を置くことができるようになりました。

 この10年程の間に、各地には医療過誤事件に取り組む弁護士のグループが増大するとともに、「医療過誤原告の会」「患者の権利法をつくる会」「医療事故調査会」「医療の安全に関する研究会」等がそれぞれ発足し活動を行うようになっています。これらの内外の活動の広がりを基礎として、2年毎に行ってきた全国一斉相談受付などの影響も加わり、医療訴訟の新受件数や、原告勝訴率も近時向上してきました。

 昨年11月には、名古屋でセンター発足10周年の記念行事が実施されました。この記念行事を企画実行したのは、「次世代」の人達でした。私はフロアからシンポジウムを聞きながら、多くの若くて優秀な「次世代」が着実に育ってきていることをあらためて実感することができ、じんわりと涙の滲む思いになりました。 「医療事故情報センター」は、すでに数年前から私が力一杯牽引していかなくても「次世代」によって十分に機能するようになっています。今般私は理事長を退任し、当面は、常任理事の一人として、柴田理事長を中心とする体制をサポートしていくつもりです。

 今後私は個別事件へのウェイトを徐々に減少させつつ、医療の質・医療の安全性を高めていくための新しいシステムの構築や、患者の人権を中心に置いた医療改革に向けて人的つながりを一層発展させていく方向にエネルギーを費やしていこうと思います。そして、当面の具体的課題としては、1997年に公表した「医療被害防止・救済センター構想」の実現のために誠実に取り組んでいきたいと思っています。この構想への取り組みは、「医療事故情報センター」の設立趣旨・目的とも決して矛盾するものではなく、センターをより一層発展させていくという面もあわせてもっていることを確信しています。

 私は、「医療事故情報センター」の活動を通して、多くの仲間と協力し合って一つのものごとを成し遂げていくという改革・創造のロマンとダイナミズムを体感することができました。このような感動は人生の中で何度も味わえるものではありません。本当にありがとうございました。ご協力戴いた多くの皆様方に深く感謝すると共に新しい体制に温かいご支援ご協力を賜りますよう心からお願い申し上げて退任のあいさつとさせて頂きます。
2001.5.26
加 藤 良 夫




1990年12月1日創立総会 写真提供 朝日新聞社



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