木村義雄厚生労働副大臣の発言に対する意見書

2003(平成15)年 5月24日
内閣総理大臣 小泉純一郎 殿
厚生労働大臣 坂口  力 殿
文部科学大臣 遠山 敦子 殿
法務大臣 森山 真弓 殿
 
名古屋市東区泉1−1−35 ハイエスト久屋6階
 電話 052-951-1731 FAX 052-951-1732
 医 療 事 故 情 報 セ ン タ ー
   理事長 弁護士   柴 田 義 朗
第1 意見の趣旨
木村義雄厚生労働副大臣を解任せよ。
国は、医療事故被害者の実態を正確に把握した上で、患者の視点に立って医療安全対策を推進せよ。
第2 意見の理由
1 医療事故情報センターについて
 当センターは、医療過誤訴訟の患者側代理人として活動する全国の弁護士530名(4月末現在)が正会員として加盟する団体です。
 当センターは、1990(平成2)年の発足以後10年以上にわたって、医療における人権確立、医療制度の改善、診療レベルの向上、医療事故の再発防止、医療被害者の救済等のため、医療事故に関する情報を集め、とりわけ医療過誤裁判を患者側で担当する弁護士のための便宜を図り、弁護士相互の連絡を密にし、各地の協力医を含むヒューマン・ネットワークづくりを通して、医療過誤裁判の困難な壁を克服することを目的として、積極的な活動を展開しています(沿革や活動内容等は当センターホームページ http://www3.ocn.ne.jp/~mmic/ をご覧下さい)。
2 木村副大臣の発言内容について
 報道によれば、木村副大臣は本年4月18日、厚労省の「臨床研修制度と地域医療に関する懇談会」において
「(略)そもそも臨床研修はなぜやるのかという中で、もちろん人格的な医師を養成するということがありますが、一方で司法改革も行われていまして、弁護士がどんどん養成されようとしています。つまり、アメリカのように医療をネタにして稼いでやろうという、非常におかしな人たちがこれからどんどん増えてくると。これは非常に問題のある発言ですが、あえて言わせていただくと、そういう場面も予想されるわけで、こういう問題点にしっかり対応するためには、臨床研修の場というのは、大変大事な場ではないか。(略)何かあったらすぐに弁護士から訴えられるような日本の医療にしてはならないと、そういう思いでいっぱいであるから、あえて発言させていただいた次第です。(略)」
と発言しました(毎日新聞2003年4月26日付報道より引用。以下「木村発言」といいます)。
3 木村副大臣の解任について
 このような発言をする木村副大臣は、厚生行政を担当する資質を欠いています。理由は次のとおりです。

1)  木村発言の内容から明らかなとおり、木村副大臣は、臨床研修制度改革の目的を単なる「訴訟対策」と認識しており、臨床研修現場における安全性欠如の現状に対する真摯な反省に基づいて改革を行おうとする見識を全く欠いています。木村発言は、日本における医療事故の推定件数や医療過誤訴訟の実数等について理解した上でのものとは到底考えられません。
 このように、木村副大臣には、患者の視点から医療安全を実現しようとする発想が全く欠落しています。
2)  木村発言は、医療過誤訴訟に対する偏見に満ちています。木村発言は、一見弁護士に対して攻撃するかのように見えますが、その背後には医療過誤訴訟を提起する原告があたかも金儲けを目的に訴訟を起こしているかの如き偏見に満ちており、泣き寝入りすることなく必死の思いでようやく提訴にたどり着いた原告を攻撃する意図にあふれています。
 このように木村副大臣は、医療事故被害者の置かれた厳しい現状を全く認識しておらず、医療事故被害者の心情に思いを馳せるだけの能力を欠いています。
3)  木村副大臣は、政府が推進する司法制度改革についても全く理解を欠いていると言わざるを得ません。
4)  「あえて発言させていただいた次第です」との言辞からも明らかなとおり、木村発言は確信的信念に基づいた発言であり、単なる一過性の失言ではありません。木村発言は木村副大臣の能力、資質及び人格と密接に結びついており、木村副大臣が厚生行政を担当し続ける限り、この問題が解決されることはありません。即ち、本件を発言の撤回や釈明で解決することは不可能であり、解決するためには木村副大臣の解任が必須です。
4 医療事故被害者の実態把握の欠如
 木村発言に関する問題は、単に木村副大臣を解任することだけで解決に至るものではありません。
 過去、国は、厚生行政を通じて医療を監督する立場にあるにも関わらず、また、国立大学医学部附属病院や国立病院・国立療養所を開設して医療の直接の提供者という立場にあるにも関わらず、長期にわたって医療の安全性の問題に関心を持とうとせずに、医療事故防止対策のみならず、対策内容の検討の基礎となるべき医療事故の実態の調査そのものを怠ってきました。
 そもそも国が医療事故被害者の存在に目をつぶることなく、医療事故の実態調査を行い、医療の安全を客観的に議論しうるだけの基礎となる調査等を行っていれば、木村発言のような憶測と偏見に満ちた無理解な発言がなされる余地はありえなかったはずです。
 木村発言は、医療事故被害の実態を明らかにしようとしてこなかった厚生行政の怠慢に乗じて、医療に関係する特定の立場の者の意見のみを代弁しようと意図してなされた発言です。
 国は、木村発言問題を木村副大臣個人の問題に矮小化することなく、木村発言を招く背景となった過去の行政上の怠慢を真摯に反省すべきです。
5 患者の視点に基づいた厚生行政を
 そもそも国は、国民に対し、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を確保すべき義務があり、厚生行政も、当然、この目的達成のために実施されるべきものです。国民、すなわち医療を受ける側=患者の視点に立たずして、厚生行政が適切に遂行されるはずがありません。また、良質かつ適切な医療を受けられずに被害に遭われた方=医療事故被害者の実態の正しい把握なくしては、良質かつ適切な医療を効率的に提供することを実現できるはずはありません。
 患者の視点を無視した木村発言は、これまでの厚生行政が、ともすれば国民=患者の視点を忘れ、医療事故被害者の実態を正しく理解しようとしてこなかった事を背景としてなされたものです。
 今回の発言を機に、厚生行政に関与するすべての者が、これまでの厚生労働行政のあり方を猛省するとともに、国民=患者のために厚生労働行政が存在するという極めて当たり前のことを再認識し、大規模な実態調査等を通じて医療事故被害者の実態を正確に認識した上で、医療安全対策を推進するよう、強く求めます。
6 結論
 以上から、当センターは、木村副大臣の任免について申出権者である坂口力厚生労働大臣と任免権者である内閣の代表たる小泉純一郎総理大臣に対し、木村義雄厚生労働副大臣の解任を要求するとともに、大学病院を通じて医師の臨床研修に関わる遠山敦子文部科学大臣及び司法制度改革を主管する森山真弓法務大臣に対し、臨床研修制度改革及び司法制度改革に対する理解を欠く木村副大臣の解任を内閣内部において求めるよう、要求します。
 また、当センターは、厚生行政を含む国務を総理する小泉総理大臣、厚生行政の責任者であり国立病院・療養所等の運営をも所管する坂口厚生労働大臣、医療従事者の養成と国立大学医学部附属病院等の運営を所管する遠山文部大臣及び国の開設する医療機関における医療事故についての裁判上の手続を担当する森山法務大臣に対し、国が医療事故被害者の実態を正しく認識し、国民=患者の視点から医療安全対策を推進するよう、申し入れます。
以 上


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