松山 健弁護士
情報センター日誌

松山 健 (愛知県弁護士会)
まつやま けん
1971年 石川県生まれ
1994年 中央大学法学部卒業
2003年 司法修習終了
同 年 弁護士登録
2010年 医療事故情報センター嘱託就任
「嘱託日誌」をリニューアルし「情報センター日誌」といたしました。 ◆情報センター日誌執筆者
 堀康司(常任理事)
 園田理(常任理事)
 松山健(嘱託)

<目次>
日誌その14 2012年5月 死因究明2法案、今国会で成立の見込み
日誌その13 2012年3月 薬事法等制度改革についてのとりまとめ
〜第三者組織が骨抜きの危機
日誌その12 2012年1月 「特定看護師」法制化、混迷のまま議論は政治の場へ
日誌その11 2011年11月 専門医の在り方、見直しへ
日誌その10 2011年9月 死因究明制度に関するワーキングチーム検討開始
日誌その9 2011年7月 消費者庁、事故調査機関設置へ
日誌その8 2011年5月 医療事故無過失補償制度、検討開始が決定
日誌その7 2011年3月 外貌障害等級、見直しされる 〜違憲判決を踏まえて
日誌その6 2011年1月 Ai活用に関する検討会 〜年明けに報告書とりまとめ
日誌その5 2010年11月 事故報告制度 〜平成22年度上半期の概況
日誌その4 2010年9月 介護職の医行為一部容認で法制化の方向へ
日誌その3 2010年6月 消費者庁、医療事故情報を公表!
日誌その2 2010年4月 「医療事故における責任問題検討委員会」(日医)の答申公表
〜事故調、議論再開のきざし
日誌その1 2010年2月 どうぞよろしくお願いいたします

情報センター日誌 その14
死因究明2法案、今国会で成立の見込み
●法案提出へ
 政府の犯罪対策閣僚会議に設置された「死因究明制度に関するワーキングチーム」が平成23年8月から死因究明制度の創設に向けた検討を開始したことは、同年9月の本稿でご報告しました。
 その後、平成24年2月末から自民・公明・民主3党実務者協議が4回開催され、環境整備について大枠を定める自・公案(「死因究明推進法案」以下「推進法案」)、具体的な死因究明手続について定める民主案(「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律案」以下「死因・身元調査法案」)のそれぞれにつき、衆院法制局を交えて、身元確認の取扱い・法医学研究所の整備等の論点について議論・検討し、実務者協議レベルにおいて法案要綱内容について合意に至り、今国会での成立を目指して、議員立法として法案提出されることとなりました(平成24年4月中旬現在、すでに推進法案は提出済み)。

●推進法案
 推進法案は、基本理念、国の責務、基本方針等の大枠を定める2年間の時限立法で、解剖のための専門機関の整備や解剖医の育成等の具体策は盛り込まれず、政府は、死因究明推進会議を置いて、法制度や財源などについての推進計画を2年以内に作るとします。

●死因・身元調査法案
(1)遺族の承諾なく解剖可能
 死因・身元調査法案では、自然死以外の遺体の死因・身元の究明を警察署長の責務と明記し、事件性の有無が判然としない遺体について、警察は医師に依頼して、注射器などで薬毒物検査のために体液や尿を採取できるほか、CT検査もできるとし、簡易薬毒物検査は警察官でも行えるとします。
 こうした検査でも死因が分からない場合は、法医学者など専門家の意見を踏まえ、遺族の承諾なくして法医解剖ができるとされます。
(2)情報開示が不十分
 解剖の必要性について、所在不明の場合を除き遺族への説明が必要とされるものの、「死因そのほか参考となるべき事項の説明」のみであり、その説明に遺族が不審を持っても、疑義解消の手続は用意されず、解剖所見や遺体画像診断(CTやMRI等を活用した死亡時画像診断(Ai)などによる医学的知見は開示されません。したがって第三者による検証も不可能です。

●まとめ
 本来、すり合わせの上で一つの法案として提出されるべきところであり、実務者協議でも当初、衆院法制局が一本化した修正法案を準備したものの、どうしても木に竹を接ぐような形となってまとまらないため、自・公案と民主案を別々のまま2本立てで提出されるに至ったものです。
 実務者協議では、医療事故に関しては、厚労省で議論が再開している事故調査制度の議論に譲り、基本的に別建てとする前提で、「医療の提供に関連する死体」について別途検討する旨の記載の追加も検討されたようですが、実際に提出された法案には、このような断り書きは入っていません。将来的に、両者のカバー範囲の調整をどう図るかは依然として課題として残ります。厚労省の検討部会と併せて見守っていく必要があります。
(2012年5月 センターニュース290号掲載)
情報センター日誌 その13
薬事法等制度改革についてのとりまとめ 〜第三者組織が骨抜きの危機
●最終提言から本とりまとめまで
 薬害肝炎事件を踏まえ、二度と薬害を起こさないことを課題とし、平成20年5月に厚労省に設置された「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」は、約2年の議論の末、平成22年4月に「最終提言」を出しています。
 厚生科学審議会は、平成23年2月に「医薬品等制度改正検討部会」を設置し、「最終提言」を踏まえた制度改革について10回に及ぶ議論を重ね、本年1月末に「薬事法等制度改革についてのとりまとめ」を公表しました。
 とりまとめは、市販後安全対策、添付文書の位置づけの見直し等多岐にわたりますが、紙面の関係上、最終提言での安全対策の肝ともいえる医薬品監視・評価組織の設置に絞ってご紹介します。

●最終提言の求める第三者組織
 「最終提言」では、薬害再発防止と医薬品行政への信頼回復には、規制実施当局や医薬品企業からの「独立性」、医薬品の安全性を独自に評価できる「専門性」、迅速かつ適切な対応・意思決定をなし得る「機動性」を具備する第三者組織により評価・監視をする仕組みの構築が重要とします。
 そして、最終提言は、この趣旨からすれば、「庁」と同格の独立性を持つ、いわゆる「三条委員会」(国家行政組織法第3条)として設置するのが望ましいが、審議会等は原則として新設しないこととするとした閣議決定(「審議会等の整理合理化に関する基本的計画(平成11年4月27日閣議決定)」)があるため、所轄官庁に従属する「八条委員会」とせざるを得ない場合もあり得るが、その場合でも、厚労省「外」の省庁たとえば内閣府に設置するのが望ましいとしています。

●検討部会の結論は?
 これに対して、とりまとめでは、最終提言の示すような第三者組織を設置するべきとするだけで、最終提言の示す検討課題についてなんら踏み込んだ結論も議論状況も示すに至っていません。実際の審議では議論はしていたのに、これでは全く意味がないように見えます。

●なぜ?〜厚労省の抵抗
 この点、事務局作成の当初のとりまとめ案では、評価・監視組織に関する案として「厚生労働省の厚生科学審議会に部会を新設する方向で検討する案が、評価・監視組織を一刻も早く設置するための案として示された。」との記載がありました。これについては、委員からの提案として出た議論ではない事務局意見を、あたかも委員からの提案のごとく記載するもので、従来の審議内容を歪曲した恣意的なものだとの指摘が委員からあり、後に削除、修正された経緯があります。このように瀬戸際で厚労省側の意向に沿った形での公表が回避された面があり、とりまとめにおいて、最終提言の具体化について一切結論を示さない報告となったことには、最終提言から後退する結論を公的に示すことを避け、前進はしないが後退もしない姿勢を保った点では全く意義がないとはいえません。

●まとめ
 議事録その他の公表資料からは、こと本検討部会においては、事務局作成資料等によって厚労省側ができる限り議論の方向性をミスリードしようとする姿勢が窺われます(薬害被害者の委員から最終提言から離れた議論が多い等、会のあり方と進行の改善を求める意見書が出されるなどもしています)。
 厚労省は、政権交代前の閣議決定を強調して、厚生科学審議会の下に部会を新設する方向に導こうとしていますが、閣議決定後にも、消費者庁や消費者委員会が創設されているのであり、閣議決定を持ち出すのは、外部からのチェックを望まない厚労省の建前上の理由と評価すべきでしょう。
 このままでは形ばかりの監視・評価組織ができて、最終提言の趣旨が没却される危険があり、今後の成り行きを厳しく見守っていく必要があります。
(2012年3月 センターニュース288号掲載)
情報センター日誌 その12
「特定看護師」法制化、混迷のまま議論は政治の場へ
●看護師特定能力認証制度
 厚労省のチーム医療推進会議は、看護業務検討ワーキンググループ(WG) を設置し、チーム医療の推進において重要な要素となる看護業務について検討してきました。関連する「特定看護師(仮称)養成調査試行事業」(平成22年度開始。以下、「養成試行事業」)及び「特定看護師(仮称)業務試行事業」(平成23年度開始。以下「業務試行事業」)が現在も進行中です。 平成23年12月7日の第10回会議では、11月7日の前回会議でWGから提示された「看護師特定能力認証制度骨子(案)」に対する意見書が取りまとめられました。

●背景及び目的
 現在、看護師が行っている医行為の中には「診療の補助」に含まれるか否か明確ではない、高度な知識・判断が必要とされるものが相当の範囲で存在します。米国では、医師の監督の下に処方や手術の補助を含む医行為を行うことができるPA(フィジシャン・アシスタント、医師助手)、医師の指示なくして初期診療と処方が一定範囲で認められるNP(ナース・プラクティショナー、診療看護師)という中間的な資格がありますが、これらを参考に、個々の医行為のうち、特定の医行為(特定行為)について、診療の補助の範囲に含まれることを明確にするとともに、その実施方法を看護師の能力に応じて定めることにより、医療安全を確保しつつ、適切かつ効率的な看護業務の展開を図ろうというのが制度趣旨です。以下、WGの示す制度骨子(案)を紹介します。

●制度骨子(案)
 1) 特定行為
 骨子(案)は、特定行為を「医師又は歯科医師の指示の下、臨床に係る実践的かつ高度な理解力、思考力、判断力その他の能力をもって行わなければ、衛生上危害を生ずるおそれのある行為」とし、特定行為に関する規定を保健師助産師看護師法に置き、具体的内容(診療の補助の範囲内)については下位法令で規定する予定とします。
【WGの示す 医行為4分類イメージ図】
   ==============================================
 ↑ |B1:特定行為                            |A:絶対的医行為
  侵|例:褥瘡の壊死組織のデブリードマン 等            |例:手術執刀、処方 等
  襲|→医師の包括的指示の下、認証を受けた看護師が実施   |→医師のみが実施
の性 =============================================
難 ・ |C:一般の医行為                          |B2:特定行為
易行|例:尿道カテーテル挿入 等                      |例:脱水の判断と補正(点滴)等
度為|→看護師一般が実施                         |→医師の具体的指示の下、安全管理体制整備
                                             の上、看護師一般が実施
    ==============================================
                                指示の包括性・判断の難易度→
 2)特定能力認証
 厚生労働大臣は、以下の要件を満たす看護師に対し、「特定能力認証証」を交付するとします。従来仮称されていた「特定看護師」との名称は用いられていません。
===========================
@ 看護師の免許を有すること
A 看護師の実務経験が5年以上であること
B 厚生労働大臣の指定を受けたカリキュラムを修了すること
C 厚生労働大臣の実施する試験に合格すること
===========================
  カリキュラム及び試験の具体的な内容については、看護の基盤強化と医学的知識を学ぶための大学院修士課程相当(2年間)程度及び8ヶ月程度の2つの修業期間のカリキュラムを念頭に置き、専門分野を通じた教育を含め養成試行事業の実施状況等も踏まえ引き続き検討するとします。

3)特定行為の実施要件
================================================
(1) 厚生労働大臣から能力の認証を受けた看護師が、能力認証の範囲に応じた特定行為について、医師の指示を受けて実施する場合  (B1の類型)
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 この場合には、医師による包括的指示(医師が患者の病態の変化を予測し、その範囲内で看護師が実施すべき行為をプロトコールを用いる等により事前に指示すること)があれば足りるとされます。
================================================
(2) 看護師が、特定行為を実施しても衛生上危害を生ずるおそれのない業務実施体制で、医師の具体的な指示を受けて実施する場合 (B2の類型)
================================================
  行為のマニュアルを整備すること、特定行為それぞれに対する講習、技術トレーニング等を実施すること等が求められるものの、この場合、一般の看護師も特定行為を実施できるとされます。
 「衛生上危害を生ずるおそれのない業務実施体制」の具体例については、業務試行事業の実施状況等も踏まえ、引き続き検討するとされます。

●骨子(案)に対する意見
 12月7日の会議での意見のとりまとめでは、現在の看護業務の中に、診療の補助に含まれるか不明確で、高度な知識や判断が要求される医行為があり、医療安全の観点から教育が必要との認識で一致することを確認するとともに、特定行為の明確化と実施する看護師の条件(教育や安全管理体制)を法制化することについては、賛成意見だけでなく、特定行為を法令で規定することで一般の看護師が行う業務ではないと誤認され、現在行われている行為が事実上実施されなくなる等現場に混乱をもたらしかねない、医師と看護師の責任関係が曖昧化する懸念がある等慎重意見も併記される内容となりました。

●今後
 チーム医療推進会議の翌日の12月8日、社会保障審議会医療部会で検討がなされましたが、 骨子(案)が大筋で了承されました。厚労省は来年3月の法案提出を目指しており、今後、法制化の議論は政治の場に移ることになります。
 日本医師会が指摘するように、本制度は、介護職のたんの吸引等医行為の一部容認(2010年9月本欄)のように患者・家族ら国民から求められて出てきた議論ではなく、チーム医療推進に名を借りた医師不足対策との評価もあります。国民の生命に関わる重大な問題だけに、今後の慎重な国民的議論が望まれます。
(2012年1月 センターニュース286号掲載)
情報センター日誌 その11
専門医の在り方、見直しへ
●厚労省検討会初会合
 厚労省は、「専門医の在り方に関する検討会」の初会合を平成23年10月13日に開催しました。検討会は、従来から指摘されていた専門医の質担保だけでなく、医師の偏在是正や総合医のあり方なども含めて幅広く議論し、来年夏頃に中間取りまとめをし、来年度中には最終報告書を取りまとめる方針が示されています。

●専門医制度の現状
 専門医制度の意義としては、医療の質の向上、患者への情報提供、病診連携推進が指摘されます。
 我国の専門医制度の歴史は、昭和37年の麻酔科学会の指導医制度に始まり、その後、各学会が相次いで専門医制度の実施を始めますが、個々の学会がそれぞれ独自に認定を行い、統一的な基準が存在しないため、社会的な認知が得られないなどして、昭和56年、各学会が共同で、学会認定医制協議会(その後、専門医認定制協議会、現在、社団法人日本専門医制評価・認定機構に組織変更)を発足させ、現在も専門医のあり方が模索されている状況です。

●患者の抱くイメージとの乖離
 検討会では、平成18年度の意識調査結果が事務局提出資料として出されています。一般人の専門医に対するイメージでの上位回答は、上から順に、「テレビなどで取り上げられているスーパードクター」「重傷・難病の患者を治療している医師」「医学系学会などで認定された医師」「大学・研究所などで研究している医師」、また、専門医に対しての期待については、上位から順に「疾患(病気)に対する知識」「診断の正確さ」「治療法(薬物療法・手技)への精通」「医師としての能力」があがっており、「専門医」との表示に対する一般人の抱く信頼感・期待には高いものがあることがわかります。
 それだけに、認定基準にばらつきがあり、その質が必ずしも担保されているとは言い難い現状(特に技術的な担保が必須と考えられる外科系でも、必ずしも全ての学会専門医が技術的な認定を受けているとは限らない点は問題点として指摘されるところです。)の専門医制度が、患者側の抱く信頼・期待と大きくかけ離れたものになっていると言わざるを得ず、従来から、問題点として指摘されているところです。

●広告について
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厚労省外形基準
1 法人格具備
2 会員数1000名以上、正会員の8割が医師、歯 科医師
3 5年の活動実績
4 外部からの問い合わせに対応できる体制整備
5 取得要件の公表
6 5年以上の研修受講を要件とすること
7 試験実施
8 5年に1度の更新
9 会員・専門医名簿の公表
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 患者の信頼・期待は「専門医」との広告によって増幅されます。従来、専門医の広告は禁じられてきましたが、平成14年に厚労省は外形基準を規定し、これをクリアする学会の認定する専門医である旨の広告は解禁されるようになっています。現在、外形基準により厚労省が広告を認めるのは57学会の55資格です。
 もっとも、厚労省の外形基準は主に認定団体に関する基準で、認定基準については大枠を示すのみで、具体的な認定基準自体は個々の学会毎に委ねられており、多様なままです。広告解禁によって、雨後の筍のように、新たな専門医が続々と誕生していますが、外形基準は患者が医師を選ぶ際のクオリティ・シグナルとしては満足に機能しないため、以前にも増して質担保の実現が要請されているのが現状です。

●論 点
 その他、専門医制度の問題点は極めて多岐に亘り、本稿では到底紹介し切れませんが、指摘される論点の主立ったものを以下にまとめておきます。
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・認定基準の標準化をどう行うか
・認定は第三者機関によるべきか
・プライマリケアを行う総合医(家庭医、かかりつけ医)の専門医資格の創設と、プライマリケアから個別領域の専門医への病診連携の確立の要否
・患者が最初に訪問する診療科(基本領域)の「認定医」と専門分化した診療科(subspecialty領域)の「専門医」の二段階制を設けるべきか
・質だけでなく、量(診療科・地域毎の専門医数)のコントロールを行うべきか
・専門医に至る教育・研修プログラム(現在の臨床研修制度の改革を含む)
・専門医制度に法的裏付けを与えるべきか
・専門医に対する医師技術料(ドクターフィー)の診療報酬上の加算を認めるべきか
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●専門弁護士制度
 上記の意識調査結果では「専門医・認定医の資格を取りたいと思いますか」との問いに対する2年次研修医の「そう思う」との回答は90.9%と医学博士号の35.3%に比して高い取得意欲が認められます。このような個々の医師の意欲に見合う制度設計が望まれます。
 さて、実は、専門認定制度は弁護士にとっても他人事ではありません。日弁連の業務改革委員会は、プロジェクトチームを立ち上げて、専門弁護士制度創設を検討し、将来的な専門弁護士認定制度導入を目指しつつ、当面、専門分野登録弁護士制度を発足させる計画を進めており、すでに提案について執行部の承認を得て、この秋に各単位会等に意見照会を行います(この制度の専門登録分野につき当初導入されるパイロット5分野の一つとして医療過誤が入っております。)。
 専門弁護士制度も、専門医制度と同じように多くの問題を有する制度であり、医療界と同じ轍を踏むことのないよう、目を光らせていく必要があります。医療過誤問題研究会(愛知県)では、先般横浜で開催された全国交流集会で、専門弁護士制度についての研究発表を行いました。集会の報告書が完成した際には、ご一読ください。
(2011年11月 センターニュース284号掲載)
情報センター日誌 その10
死因究明制度に関するワーキングチーム検討開始
●犯罪対策閣僚会議にワーキングチーム設置
 平成23年4月23日に警察庁の「犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度の在り方に関する研究会」が、報告書を発表し、これを受け、政府の犯罪対策閣僚会議は7月26日、警察庁、法務省、文部科学省、厚生労働省、海上保安庁の局長級幹部らで構成される「死因究明制度に関するワーキングチーム」(WT)の設置を決めました。このWTの第1回が8月4日に仙谷内閣官房副長官を議長として開催されましたので、WTの検討事項の核となる「法医解剖制度」(仮称)とそれを担う「法医学研究所」(仮称)についてご報告します。

●議論の背景
 平成19年の時津風部屋事件を契機として犯罪死の見逃しに対する社会的関心が高まり、死因究明に関する我国の検視・死体検分、検案及び解剖の制度的不備が指摘され、警察庁は平成22年1月から研究会での検討を開始しました。

●現在の解剖制度
(司法解剖)
 現行制度の下では、不自然な死亡を遂げた死体については、警察がまず検視・死体見分を行うとともに、検案を行う医師の助言を得て犯罪死か否かを判断します。犯罪死の疑いが認められる場合、捜査の必要性から死因等を特定するために刑事訴訟法225条に基づく鑑定処分許可状により、各大学法医学教室の教授等に鑑定を嘱託して「司法解剖」が実施されます。
(行政解剖)
 また、犯罪性がないと認められる死体であっても、公衆衛生上の目的から死因を特定するなどの必要がある場合には、監察医の置かれている地域では、死体解剖保存法8条に基づいて遺族の承諾や裁判官の令状がなくとも、監察医が「監察医解剖」を実施し、監察医の置かれていない地域では、同法7条に基づいて、遺族の承諾を得て各大学法医学教室の教授等が「承諾解剖」を実施しています(両者を合わせて「行政解剖」と呼ばれます)。

●解剖数・率
 解剖に付された死体数は、平成22年中の場合、死体取扱総数17万1,025体のうち、司法解剖が8,014体(約4.7%)、行政解剖が1万1,069体(約6.4%)、合計1万9,083体と全体の約11.2%にとどまっており、国際的な水準である50%の解剖率(スウェーデンやフィンランドでは80〜90%)を大きく下回ります。
 これが犯罪死見逃しの大きな要因であるとの分析のもと、報告書は、監察医務院が設置される東京都23区の解剖率20%まで全国の解剖率を引き上げることを当面(5年内)の目標とし、将来的には、国際的な50%に引き上げることを目標とするとし、現在、170名の解剖医を、当面は2倍の340名、将来的には5倍の850名に増員することが望ましいとします。

●法医解剖制度
令状 承諾 目的
司法解剖 不要 犯罪捜査
行政解剖 監察医解剖 不要 不要 公衆衛生
承諾解剖 不要 公衆衛生
法医解剖 不要 不要 犯罪見逃し防止

 新たに創設が検討される「法医解剖制度」は「犯罪死の見逃し防止を主たる目的として、警察署長が・・・法医学研究所の長と協議した上で解剖の要否を決定し、遺族の承諾がない場合でも解剖を実施できる新しい行政解剖制度」(報告書)と定義されます。
 犯罪による死亡か分からない遺体が対象となる点及び令状審査を要しない点で司法解剖と異なり、また、遺族の承諾を不要とする点で、承諾解剖とも異なります。解剖目的を公衆衛生向上から犯罪死見逃し防止に変えた、監察医解剖に似た行政解剖ということができます。

●法医学研究所
 報告書では、この法医解剖を担う専門機関として、将来的に各都道府県に「法医学研究所」を設置し、全国的に同一水準で整備すべく国の機関として位置づけ、犯罪死の見逃し防止と公衆衛生の向上を目的とする解剖を併せて行う機関として、警察庁と厚労省の共管とするのが妥当とします。当面は、監察医制度に基づく機関や大学法医学教室を法医学研究所として国が指定し、機能を併存させることが考えられています。

●診療関連死の扱いは?
 平成19年に廃案になった民主党の死因究明2法案(細川現厚労大臣が筆頭法案提出者の議員立法)では、当時議論がまだ活発であった医療版事故調との関係で、診療関連死につき別途法律で定めるとされていました。
 この点、犯罪死の見逃しに遺漏がないようにするには、異状死全般を対象とすることが必要であるところ、研究会の報告書では、あえて診療関連死の扱いに言及することはしていません。政府の犯罪対策閣僚会議に設置され、警察視点での提言を検討の出発点とするWTですが、その名称は「犯罪死の見逃し防止に資する」との目的を冠することなく、単に「死因究明制度に関するワーキングチーム」となっています。医療版事故調について先行き不透明な現状において、諸外国の制度に倣って、新制度が異状死全般に関する死因究明制度として構築され、診療関連死は別扱いとされない可能性も残ります。
(2011年9月 センターニュース282号掲載)
報センター日誌 その9
消費者庁、事故調査機関設置へ
●検討会の議論とりまとめ
 消費者庁「事故調査の在り方に関する検討会」は消費者事故に関する「消費者事故等調査機関」(仮称)の在り方についての検討を重ね、平成23年5月31日の第14回で「取りまとめ」を公表しました。本年度中に政府の「消費者基本計画」の見直しに反映させ、早ければ2012年度の設置を目指します。「取りまとめ」40頁弱、「取りまとめ(概要)」6頁で要点が簡潔に整理されているので、詳細は、消費者庁のHPに譲り、本稿では、医療事故に関連する検討状況に絞ってご報告します。

●制度創設の背景
 現行制度下では、航空機、鉄道事故等については、既存の常設事故調査機関が存在しますが、エレベータ事故やこんにゃくゼリー事故等、所管が一義的に明確でない分野の事故(すき間事故)への対処が不十分であり、他方、刑事手続のみによっては、事故の予防・再発防止には不十分です。また、常設的事故調査では、被害者・遺族は調査の客体とされがちで、事故における重要な当事者として遇する配慮に欠ける嫌いがありました。そこで、各省庁の縦割り行政による弊害を解消し、消費者の権利を尊重し自立を支援するため一元的な司令塔となることを理念に設置された消費者庁のもとに調査機関を設置することが検討されることになりました。

●既存制度との関係
 検討会では、調査機関の在り方について、「パーティー・システム」(調査機関自体に完全な専門性を持たせるのではなく、支援機関を活用する形態を取ること)の活用等によって、既存の専門的事故調査制度(将来設置される医療事故調査機関を含む)を包摂、統括し、ゆくゆくは一元的に統合するのか、それとも既存の制度と並存し、消費者被害、製品事故の分野や、すき間事故の分野を担当する新たな一事故調査制度として位置づけるのかという点について、大きな対立がありました。結局、取りまとめでも、結論は出ず、将来の課題とし、当面のところ、「消費者事故等調査機関」(仮称)は、消費者安全法にいう生命・身体被害に関する「消費者事故等」(=「事業者が供給等する製品・食品・施設・役務等を消費者が使用等することに伴って生じた事故・事態」)の調査を実施し、別途、「消費者事故等調査評価会議」(仮称)を設置して、複数の調査機関や関連機関の調整・連携を図る体制を整備するとしています。
 
●事故調査の対象〜医療事故は含まれるか
 取りまとめは、上記のように、調査対象は「消費者事故等」の定義通りとするので、医療行為に関する事故も「消費者事故等」に含まれ得るとしますが、手術対象の左右を取り間違えたり、薬剤の使用方法や分量が違ったりといった事案を除き、いわゆる医療の不確実性に起因する事案は、「消費者事故等」に該当しないとします。もっとも、医療の不確実性に起因する事案か否かは高い専門性を有する機関による調査・分析を必用とします。
 つまり、医療事故については、他の消費者事故等とは違って、調査すべき事故なのかそうでないのかをまず専門的に判断しなければならないということです。
 
●まとめ
 検討会は、医療事故に強い関心を持ち、日本医療機能評価機構、モデル事業、医療被害者等多くの関係者からのヒアリング等を行い、医療版事故調の議論を踏まえて、慎重に議論し、医療事故を調査対象から外すことも検討しましたが、結論としては、調査対象から医療事故を完全には除外しないことになりました。制度発足後の運用次第では、医療に関連する事故についても調査が行われる場面が出てくることも考えられます。
 美容、エステ、いわゆる自由診療型被害(美容整形、インプラント、レーシック、レーザー椎間板治療)等、類似事故の多発性と消費者自身による回避可能性の認められる類型、また、類似した名称の医薬品の取り違えや医療機器の誤使用等予防策の周知による効果が期待できる類型などでは、医療専門の事故調査機関とは違った機能を発揮して相互補完できる可能性もあり、今後を見守っていく必要があります。
(2011年7月 センターニュース280号掲載)
情報センター日誌 その8
医療事故無過失補償制度、検討開始が決定
●行政刷新会議
 平成23年4月8日、内閣府行政刷新会議「規制・制度改革に関する分科会」の3つのWG(医療分野:ライフイノベーションWG。以下「WG」)が検討を行ってきた国の規制・制度の見直し対象のうち、次の医療事故無過失補償制度の導入を含む135項目についての「規制・制度改革に係る方針」が閣議決定されました。

【ライフイノベーション3】
[改革事項]医療行為の無過失補償制度の導入

[規制・制度改革の概要](1)誰にでも起こりうる医療行為による有害事象に対する補償を医療の受益者である社会全体が薄く広く負担をするため、保険診療全般を対象とする無過失補償制度の課題等を整理し、検討を開始する。
<平成23年度検討開始>
(2)また、同制度により補償を受けた際の免責制度の課題等を整理し、検討を開始する。
<平成23年度検討開始>

[所管省庁]厚生労働省、法務省


 WGの照会に対する厚労省の回答が、制度導入にあたっての論点を的確に指摘しており、参考になりますので、ご紹介します。

●厚労省の見解
[無過失補償制度について]
(1)平成21年から無過失補償制度である産科医療補償制度が開始されており、補償対象を含めた制度の在り方につき、制度開始5年後を目処に見直すこととしている。まずは産科医療補償制度の運用状況と課題を十分に把握・分析することが必要である。

(2)医療全般の無過失補償制度については、補償対象・補償水準、それを賄う巨額の財源をどうするのか、審査・認定を行う機関はどうするのか、国民的合意をいかに形成するのか等の課題がある。

(3)患者からの無制限な補償請求が生じたり、医療提供者においても、医療行為による有害事象が補償されることで注意が散漫になり、かえって事故の発生確率が高まる場合がある等、医療現場に大きな混乱が生じる恐れがある。

[免責制度について]
(1)免責が、刑事、民事、行政上いずれの免責であるのか判然としないが、本来いずれの責任にも問われない無過失の場合の無過失補償制度と、いずれかの責任が問われる有過失の場合に議論となる免責制度は、別々に論ずべきものである。

(2)(刑事免責とする場合)様々な様態・分野のものがあり得る業務上過失致死傷罪の中で、医療事故のみ適用対象から除外することにつき、現段階で国民全般の理解を得ることは困難ではないか。


●無過失補償と免責の組み合わせ
 本制度案の最大の問題点は、単なる無過失補償ではなく、免責との組合せが考えられている点です。WGが想定する免責制度は、公表資料を見る限り、民事上のもので、被害者が訴訟と補償制度の選択権を持ち、補償を受けた場合に損害賠償請求の訴権を制限する方式のようです。これは、同じ無過失補償制度である労災補償(含保険)制度や産科医療補償制度には、(損害賠償との調整は予定されてはいても、)訴権制限はなく、補償額を超える損害賠償を認める並存方式が採られていることと大きく異なる点です。
 WGは、完全に訴権制限して無過失補償制度に一本化するのではない選択方式なので、「国民にとっては選択肢が増える」との考えを示します。しかし、被害に直面して窮迫状態にある多くの被害者が、あえて時間と労力と費用をかけて、結果の保証のない提訴リスクを取るよりも、目の前の補償金を選択してしまうであろうことからすれば、選択権はあっても実質的には訴権を奪われるに等しいといえます。選択方式は裁判を受ける権利に関する憲法問題回避のための逃げ道にすぎないというべきでしょう。

●真の被害回復につながるか?
 無過失補償制度では、事故原因や過失の有無を問わず等しく補償されるため、もともと反省や謝罪機会の喪失の契機を内包しているところ、これに免責がセットになれば、さらにそのリスクは高まります。それだけに、補償の適否の判断を越えて、事故原因を究明して、再発防止策を策定し、広く医療現場に還元する仕組みがなければ、場当たり的な金銭的補償だけに終わりかねません(その補償も、大量の案件処理の必要上、個人的事情を捨象した支給基準の定額化は避け難いところです)。結局、真相究明、再発防止、金銭的補償等のいずれの面でも中途半端な結論に終わりかねないばかりか、厚労省の指摘するように、かえって事故の発生率が高まる危険まで付いてくるということになってきます。やはり、無過失補償制度は、労災補償や(無過失補償制度とは別ですが)自賠責保険のように、被害回復の最低ラインとして、損害賠償制度と併存して、相互補完的に機能するのが適当ではないかと思われます。

●まとめ
 閣議決定された方針はもちろん、中間とりまとめ等に示されたWGの基本的考え方からも、補償と事故調査とを関連付ける発想が欠落し、原因分析→再発防止という従来の医療安全に関する取り組みとの異質性が見てとれます。特に、免責制度と抱合せとするあたり、萎縮医療解消の方に力点があることが窺われます。産科医療補償制度の検証もこれからという段階で、国民的議論不在のまま導入されるには、あまりに大きな問題であり、本年度内にスタートする検討会の動きに注目していく必要があります。
(2011年5月 センターニュース278号掲載)
情報センター日誌 その7
外貌障害等級、見直しされる 〜違憲判決を踏まえて
●外貌醜状障害
 外貌(頭部、顔面部、頸部のごとく、上肢及び下肢以外の日常露出する部分。以下、出典の表記に従って「外貌」、「外ぼう」の表記が区々となります。)の醜状障害に関して、従来、障害等級表では、「外貌に著しい醜状を残すもの」は、女性は7級、 男性は12級、「外貌に醜状を残すもの」は、女性は12級、男性は14級とされてきました。

●違憲判決に基づく見直し
 この点、京都地判平成22年5月27日(判タ2093号72頁 )は、労災による男性の著しい外貌の醜状障害につき、女性の7級に対して12級と定める労災保険法の「障害等級表」 は憲法第14条に反すると判断し、判決は国の控訴断念を受けて6月に確定しました。
 この判決の趣旨を踏まえて、厚労省は、平成22年8月、「外ぼう障害に係る障害等級の見直しに関する専門検討会」を設置し、労災保険の障害等級の外貌の醜状に係る男女差の見直しについて全3回にわたって検討会を開催し、平成22年12月1日、報告書が公表されました。

●検討会の議論
 検討会では、判決の趣旨の検討、男女差を残すべきやむを得ない事情の存否、男女差を解消する方向での障害等級設定のあり方の観点から検討を行い、・男女別になっている外貌障害に係る障害等級の規定を改め、性別に関わりない規定とすること、・現行の女性の等級を基本として改正すること、・その上、外貌障害に係る医療技術の進展を踏まえ、醜状の程度を相当程度軽減できるとされる障害(面的な広がりを持たない醜状、特に線状痕については医療技術の向上が見られるとの検討がされています。)については、新たに設定する中間的な障害等級により評価することを内容とする障害等級表見直し案を提案し、これを受けて、次のような内容で障害等級表と認定基準が改正され、平成23年2月1日から施行となっています。

●新しい障害等級表及び認定基準(斜体部が変更点)

[等級表] 
改正後 現 行
障害等級 身体障害 障害等級 身体障害
第7級 12 外貌に著しい醜状を残すもの 第7級 女性の外貌に著しい醜状を残すもの
第9級 11の2 外貌に相当程度の醜状を残すもの(新設) 第9級 なし
第12級 13 削除
14 外貌に醜状を残すもの
第12級 13 男性の外貌に著しい醜状を残すもの
14 女性の外貌に醜状を残すもの
第14級 10 (削除) 第14級 10 男性の外貌に醜状を残すもの

[障害等級認定基準]
○障害等級第9級の11の2「外貌に相当程度の醜状を残すもの」とは、原則として、顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度のものをいう

●まとめ
 今回の改正のポイントをまとめると次の通りです。
1)男女の区別は解消
2)外貌醜状の等級は12級以上となる
3)「著しい醜状」、「相当程度の醜状」、「醜状」の3段階評価となった
4)従来7級評価された程度の醜状であっても、医学的に醜状を相当程度軽減できるとされる障害については新設9級と評価される可能性がある

 以上は、労災保険の分野に関する改正ですが、検討会では自賠責等他分野への影響も配慮した検討を行っており、今後、自賠責等、労災以外の分野でも等級表の見直しが進められていく見込みです。医療事故においても、外貌醜状が残った事例では、損害論において以上の趣旨を踏まえた主張を検討することになります。
(2011年3月 センターニュース276号掲載)
情報センター日誌 その6
Ai活用に関する検討会 〜年明けに報告書とりまとめ
●厚労省Ai活用検討会
 異状死や診療行為に関連した死亡の死因究明のための死亡時画像診断(Ai:Autopsy=解剖 Imaging=画像診断。CTやMRIで死体の内部の器質的病変を調べて死因究明を行う手法)の活用方法などについて検討する厚労省の「死因究明に資する死亡時画像診断の活用に関する検討会」(第1回平成22年6月)の第8回会合が12月17日に開かれました。検討会では、当初、年内の報告書とりまとめを目途に論点整理が進められてきましたが、年明けの会議まで持ち越しとなりました。以下、議論の背景と検討会での議論の概要をお伝えします。

●背 景
 死亡時の原因検索手段としては、司法解剖、行政解剖及び病理解剖がありますが、日本では、検視官や法医・病理解剖専門医の不足、5大都市にしか監察医制度がないこと、遺族の心理的抵抗から病理解剖の承諾が得られにくいことなど複合的な要因により、年間110万人の死亡者数に対し、解剖率は3%に満たないと報告されています。これに対して、Aiは、解剖に比較して人的負担および経済的負担が小さく、遺族の承諾を得やすい面があり、犯罪死の見逃し防止や正確な死因究明のために活用できるとして注目されてきました。このような背景のもと、すでにAiを実施している病院は35.8%に上るとの日医のアンケート結果が公表されています。

●論 点
 検討会の論点整理は次の通りです。
1.Aiの意義(【1】有用性と限界及び位置づけ、【2】対象となる遺体、【3】応用範囲)
2.実施体制等の整備(【4】施設・設備の要件、【5】人的要件、【6】医療機関内外の連携、【7】全国的な体制、【8】専門家育成、【9】運用基準)
3.その他(【10】資料保存と情報公開、【11】遺族への説明、【12】費用負担のあり方)
 論点が多岐に亘るため、紙面の関係で、1.Aiの意義のみに絞って議論状況をご紹介します。詳しくは、厚労省のWebで議事録等が公表されていますのでご確認ください。

●Aiの意義
【1】有用性と限界及び位置づけ
 検討会は、当面、Aiに用いる機器としては、MRIの有用性は否定しないとしつつも、現在、全国の多くの医療機関に設置され一般化しているCTを用いることを想定していますが、Aiは体表面のみの観察よりも多くの情報が得られるため、解剖が許可されていない部位から一定の情報が得られるなど有用性が認められるとします。もっとも、臓器・組織や疾患の種類の違いや撮影・読影技術の違いによって診断精度に差が生じることもあり得るなどの限界があることに留意する必要があり、Aiのみで死因究明ができるわけでなく、病理解剖や体液分析、生前のモニタリング情報などと組み合わせて総合的な死因把握を行うための一手段として、解剖の代替ではない別次元の検査との位置づけをすべきとしています。
【2】対象となる遺体
 そして、Aiを活用すべき対象としては、原則として自然死以外の死因が明らかになっていない遺体とします。導入に際しては、対象となる遺体によって実施場所を監察医務院などの専門施設に限定して行うことが望ましく、一線病院でのAiは、院内における病理解剖不承諾例や異状死、救急搬送時または搬送直後の死亡などの院内死亡を原則とするように対象を絞っておかないと臨床機能を損なう恐れがあるのではないかとの議論がなされています。
【3】応 用
 診療行為関連死の死因解明への応用については、研究課題テーマとして試験的な運用を行って問題点等の検討を行うのが妥当ではないかとします。
 また、異状死の死因究明に関する応用については、小児虐待に関して、骨幹端骨折は剖検では絶対に診断できないが画像では判明しうるものがあるなど、Aiの応用領域といえるが、適応や施行のガイドラインの未整備による混乱や小児画像専門医の圧倒的不足等が検討課題とされています。

●まとめ
 従来、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」とは積極的に関連付けない議論であったところ、12月17日に資料として公表された事務局作成の報告書骨子(案)は、12月7日にモデル事業運営委員会が示した、今後Aiを実施して解剖の参考にするとの新たな運用案に平仄を合わせるように、モデル事業での活用について積極的に触れている点等について、委員から異論が出されるなどしており、年明けの最終的な報告書の公表を見守る必要があります。
(2011年1月 センターニュース274号掲載)
情報センター日誌 その5
事故報告制度 〜平成22年度上半期の概況
(財)日本医療機能評価機構(評価機構)は、10月13日、四半期毎に公表している「医療事故情報収集等事業 第22回報告書」を公表しました。

●任意参加機関の増加
 先月号も含めて、本欄でも度々取り上げている評価機構の医療事故情報収集事業ですが、この事業において医療事故情報の報告を行う医療機関を再確認しておきますと、平成16年の厚生労働省令第133号で医療事故事例の報告を義務付けられた報告義務対象医療機関(・国立高度専門医療センター及び国立ハンセン病療養所、・独立行政法人国立病院機構の開設する病院、・学校教育法に基づく大学の附属施設である病院(病院分院を除く)、・特定機能病院)と、報告義務対象医療機関以外に任意で登録を経て本事業に参加している参加登録申請医療機関の2つに分かれます。
 報告義務対象医療機関の数は、平成16年10月の事業開始当時から270台を推移し、平成22年6月30日現在で272施設と、ほぼ変動はありません。これに対して、参加登録申請医療機関は、事業開始後数カ月で250施設に達した後は250〜300の間で変動を続け、本欄でも頭打ち状態で伸び悩みを見せていた状況をご報告したことがありましたが、平成21年の4〜6月の間にそれまでの260台から420台に、その後平成22年1月にさらに530台に急増し、その後も漸増し6月30日現在で554施設となっています。

●任意参加機関からの報告件数の伸び
 本年1月から6月までの月別報告件数の合計は、報告義務対象医療機関は1,005件で、年間報告件数が1,895件と事業開始後最多だった昨年の同時期の945件をすでに上回っています。また、参加登録申請医療機関では、231件で、昨年同時期の66件を大きく超えるばかりか昨年の年間合計169件をもすでに上回っています。参加登録申請医療機関からの報告件数の伸びについて、報告書では、参加医療機関の増加が一因であるとの推測及び事業開始後5年を経て事故報告が次第に定着してきたとの認識が示されています。

●Webでの情報提供
 報告書は、Web(http://www.med-safe.jp/)にてダウンロードできますが、本年7月に公表された第21回報告書からは、効率的な情報提供を実現すべく、報告書とWebの役割分担が行われ、第20回以前の報告書と比べて、第21回、第22回報告書はいずれも約140頁と、従来よりも100頁以上スリム化され、その分、Web上の情報掲載量が増やされています。具体的には、報告書には主要な図表やテーマ分析の結果を掲載することとし、Webにはそれらの図表も再掲するとともに、さらに詳細な図表や報告項目の一覧、参加医療機関一覧等の情報が掲載されています。また、Web上に報告事例のデータベースを開設し、本年1月以降に報告された全ての事例が検索、閲覧できるようになっています。

●報告義務の履行確保
 前号の本欄で、8月31日に評価機構が、医療事故情報収集事業の平成21年年報を公表したことをお伝えし、平成21年は報告義務対象医療機関のうち、ゼロ報告の医療機関が273施設中61施設(22.3%)と相当数に上っており、報告義務の履行確保が望まれる旨お伝えしました。この点について、厚労省は、本年5月17日付で、各自治体の長に対して、報告義務対象医療機関に対して評価機構に対する事故事例報告が適切になされるよう確認、指導を行うよう医療機関への立ち入り検査にあたっての留意事項として医政局長通知を発する形で対処しているようです。この通知の効果のほどは、本年下半期の報告の公表を待って確認するほかありませんが、依然として評価機構や事故報告義務を負う医療機関には、医療事故情報収集事業の趣旨を無にしない真剣な取り組みが求められるところです。
(2010年11月 センターニュース272号掲載)
情報センター日誌 その4
介護職の医行為一部容認で法制化の方向へ
 厚労省の「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」は、本年7月から8月まで全4回の検討会を開催し、たん吸引など一部の医療行為について、一定の研修を受けた介護職員に認める制度を創設する方針を決め、本年10月を目途にモデル事業を開始し、来年の通常国会には必要な改正法案の提出を目指すとの結論を出しました。

●検討の趣旨
 医師、看護師の免許を有さない者による医業は、医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条によって禁止されます。「医業」とは、「当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことであると解されており、たんの吸引及び経管栄養は「医行為」に整理されるため、本来、介護職員には禁止される違法行為となります。
 しかし、介護現場で、たんが絡んで危険な状態となっている被介護者を前にして、介護職員が医師や看護師の到着まで何もできないというのはあまりに硬直すぎ、かえって利用者の利益を損ないかねません。そこで、従来は、当面のやむを得ず必要な措置(実質的違法性阻却)として、通知・通達により、介護職員等がたんの吸引・経管栄養のうちの一定の行為を一定の条件下で実施することが容認されてきました(本年3月末にも、平成21年9月から同年12月まで全国125施設でモデル事業が実施された特別養護老人ホームに関して介護職員にたんの吸引等を許容する厚労省医政局長からの通知がなされています。)。
 もっとも、こうした運用については、安全面でのリスクを利用者に課し、研修制度も未確立なまま許容される対象行為の範囲や要件の具備の判断を現場に押し付ける結果となり、現場の介護職員に不安・負担を与え、また、法と実態の乖離について社会的な視点からも納得が得難いのではないかという問題意識から、検討会は、モデル事業実施後の法制化を検討し、次のような試案をまとめました。

●検討会の試案
1)実施できる医行為
「たんの吸引(口腔内と鼻腔内、気管カニューレ内部。口腔内は、咽頭の手前まで)」と「胃ろう・腸ろう・経鼻の経管栄養」とされます。ただし、胃ろう等の状態確認や経管栄養のチューブ挿入状態の確認は看護職員が行うとしています。
2)実施できる介護職員
 一定の追加的研修を修了した介護職員等(介護福祉士、訪問介護員等)とされます。モデル事業で予定されている研修は次のような内容です。
 指導者講習(本年10月目途)を受けた医師・看護師を指導者として、50時間の講義と、救急蘇生(1回以上)、たんの吸引及び経管栄養(それぞれ5回以上)の演習を内容とする基本研修(平成22年11月目途に120人程度)が行われ、看護師の指導を受けながら所定の実習を行う実地研修(平成23年1月目途に全国40カ所程度で)が実施されます。
3)実施できる施設
 介護関係施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、グループホーム、有料老人ホーム等)、障害者支援施設等(通所支援施設及びケアホームを含み、医療機関は除く)、特別支援学校(検討継続)、訪問介護事業所による在宅について、いずれも、医療職と介護職等の適切な連携・協働が可能な場合に認めるとされています。 

●法制度のあり方
 救命救急の分野では、かつて救急隊員の医行為が一切認められなかったところ、救命救急士法が制定され、医行為の一部である特定行為(心肺停止状態の傷病者に対して行う除細動・気管挿管・薬剤投与等の救急救命処置)を医師の指示のもとに行うことができる国家資格(救命救急士)を設け、特定行為の範囲が拡大してきた経緯があります。
 介護の分野では、現在、研修制度が未確立なまま、ニーズに押し切られる形で介護職員による医行為が容認される状態となっており、かつての救命救急と類似する状況が認められます。
 検討会では、医行為の範囲を明確化して、たんの吸引等を医行為から外す議論もなされましたが、結論は出ず、医行為該当を前提に、将来的な実施できる行為の範囲の拡大の余地を留保することとなりました。
 実際の介護現場では、たんの吸引等のみでなく、点滴の抜針やインスリン注射等も行われている例もあるようです。無資格者の医行為は、知識不足や技術の稚拙さによって、重大な事故を招くおそれがあるばかりか、実際に事故が発生した場合に、介護事故賠償責任保険上、保険事故と認められないこともあり、被害回復に問題を生ずる場合も起こり得ます。
 ニーズに押されて、なし崩し的に拡大しかねない介護現場での医行為を枠にはめていく方向づけ自体は必要であり、今後は、モデル事業からのフィードバックをもとに、介護現場に不安を与えず、かつ、安全で利用者のためになる制度とされることが望まれます。
(2010年9月 センターニュース270号掲載)
情報センター日誌 その3
 消費者庁、医療事故情報を公表!
●消費者庁が医療事故情報を公表
 本年1月の情報センター日誌 その34で、消費者庁が厚生労働省から通知された医療事故を一切公表しておらず、原則非公表の運用が判明した旨をお伝えし、早期の公表が望まれる旨お話ししました。
4月30日、消費者庁は「消費者事故情報公表の法的論点の整理(役務分野に係る生命・身体被害事案に関する事故情報の特性を踏まえた留意点について)」と題する文書とともに厚生労働省から昨年9月以降に通知されていた15件の医療事故を含む消費者安全法に基づく通知事案に関する資料を公表しました(内訳は、院内感染が推定される事故や手術中に容体が急変した事故など死亡事故8件、残り7件はリハビリ中に骨折した事故等の重傷事故でした)。
 消費者庁は、今後も3カ月に1回程度、記者発表やホームページで公表していく予定とのことです。

●医療安全のための情報となるか
 もっとも、今回の公表資料の掲載情報は、被害者や医療機関、疾患名、事故態様等の具体的な情報がすべて捨象された抽象的なもので、リハビリ中に骨折したという結果はわかるが、何がいけなかったのか、今後どう注意をすれば、同種事故が避けられるのか等、医療機関が教訓としてフィードバックしたり、患者側が、医療サービスを受ける際に、どう注意をすればよいのか参考にするための情報としては不十分であり、より具体的な情報提供が望まれます。

●消費者庁だからこそ果たし得る役割とは
 この点、医療安全に関する情報については、財団法人日本医療機能評価機構が「報告書」、「年報」、「医療安全情報」を公表し、また、この4月から「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を引き継いだ一般社団法人日本医療安全調査機構は、調査報告書の要点をまとめた「評価結果報告書概要」を公表しています。いずれも専門家等による原因分析を経て改善方策を含めた情報となっていますが、事例の収集母体が、かなり限定されることや一般消費者向けではないことなどから、万全の情報提供がなされているとはいえない状況です。
 かといって、多様な消費者被害の一分野にすぎない医療事故を専門的に分析・評価・対策を行うことは、消費者庁には期待すべきではないでしょう。消費者の視点から横断的に司令塔として消費者被害を防止することを期待される消費者庁には、むしろ医療事故を医療サービスに関する消費者被害の一分野として捉え、消費者の視点での素人感覚を徹底することが求められるところです。

●公表基準〜医療事故の特性〜
 消費者庁も、自らの役割を検討し、発表文書では、そもそも医療を含む対人サービスに係る被害は製品等に関連する事故に比較して、個別性が高く汎用性が低い点、医療関係事案は、因果関係の判断につき高度の専門性を要する場合がある点、患者にとっては自らの生命・身体を維持・回復するためにサービスを受けるという一般の消費活動とは異なる非日常的な条件を伴う点等の特徴を有するとして、事故情報の公表には特に慎重な考慮を要するとします。
 その上で、・因果関係の判断に高度の専門性を要する場合は、消費者庁が広く消費者に向けて情報を公表しても事故の発生及び被害拡大の防止を実現できる可能性は低いとして、単に事故発生情報の公表にとどめ、具体的な情報提供に関しては、既存の日本医療機能評価機構等の専門機関の情報提供制度に明示的に結び付ける中継局的な公表のあり方も検討したいとします。
 他方で、・役務提供と被害発生の結びつきが比較的単純な場合や、患者取り違えのように役務提供者が注意を欠き、そのことが医療行為の専門性とは必ずしも連関せず消費者にも比較的容易に理解できるような場合等、因果関係の判断が比較的容易な場合や、・レーシック施術に際しての不衛生事案等、因果関係の判断の難易に関わらず、被害の再発・拡大防止の観点から、事故概要等を迅速に公表することが望ましい場合については、公表により消費者事故の発生・拡大の防止に寄与する可能性が高いとして、消費者事故情報として積極的に公表することが望ましいとします。

●今後の運用に期待
 紛争化しない段階での事故情報も対象となる以上、医療機関の信用や患者のプライバシー等への慎重な配慮が必要であるため、上記のような基準で公表を行うことはやむを得ないところですが、美容、エステ、いわゆる自由診療型被害(レーシック、レーザー椎間板治療、包茎手術など美容整形)への対処については、比較的前向きの姿勢を示しているといえます。医療事故と消費者問題のはざまのケースは、患者側代理人としても、個別には解決できても、営業が続いて同種被害は発生し続けるというように根本的には手を付けられないままとなりがちで、対応に苦慮するところです。消費者庁が独自の役割を果たし得るか今後の運用を見守っていく必要があります。
(2010年6月 センターニュース267号掲載)
情報センター日誌 その2 
 「医療事故における責任問題検討委員会」(日医)の答申公表 〜事故調、議論再開のきざし
●日医の答申の公表
3月、日本医師会は、「医療事故における責任問題検討委員会」(委員長=樋口範雄・東大大学院法学政治学研究科教授)の「医療事故による死亡に対する責任のあり方について−制裁型の刑事責任を改め再教育を中心とした行政処分へ−」と題する答申を公表しました。
 今回の答申は、日医会長の「医療事故による死亡に対する刑事責任・民事責任・行政処分の関係の整理、並びに今後のあり方に関する提言」に関する諮問を受け、約1年間、10回の委員会の議論に基づくものです。

●提言の要点
 答申は、つぎの3つの属性を備えた新たなシステムの構築を提言しています。
1.目的…制裁ではなく、医療事故の原因究明と再発防止を目的とすること
2.手段…事故調査の第三者機関と刑事処分の後追いでない行政処分の新システムを車の両輪とすること
3.主体…医療者が中心となる自律的システムとするとともに、国民に開かれた透明性を確保すること
 以下、順番に要旨をご報告します。

●1.目的:原因究明・再発防止
 答申は、制裁型の責任追及システムは、委縮医療を招くとし、医師に対する行政処分は、本来、免許を与えた国が医師の質の保証を図る制度であり、単なる制裁型の責任追及から原因究明と再発防止につなげることを第一義とすべきとします。

●2.手段:第三者機関による事故調査と刑事の後追いでない行政処分勧告システム
 原因究明と再発防止の方策として、答申は、まず、原因分析のための事故調査に関しては、院内調査委員会がまず役割を果たすべきとする一方、すべての医療機関に設置することは困難として、社会の安全弁として第三者機関を設置する必要性を指摘します。
 つぎに、答申では、医療事故後に刑事処分や行政処分が行われた5つの具体的事例を検討し、現行制度下の行政処分の最大の問題点は、行政処分が刑事処分の後追いになっている点にあるとします。
 そのため、本来、速やかに免許取り消しを受けるべき医師や業務停止等の処分により再教育を受けるべき医師がそのまま医業継続が可能となるほか、刑事判決依存型の運用により、本来、行政処分がなされてしかるべき事案について行政処分が行われない、事故から処分まで長期間を経ることによる制裁としての感銘力の低下等の諸々の問題が生じていると指摘します。
 この問題について、答申は、現在の医道審議会の答申を受けて厚労大臣が処分を行う仕組みを前提に、「医療事故については、医道審議会に対し、医療専門家の立場から助言を与える、いわば『医師による医師の再生のための行政処分の調査勧告システム』を構築する必要がある」と述べます。
 以上の事故調査の第三者機関と、刑事処分の後追いでない新しい行政処分勧告システムを医療安全のための車の両輪とすべきとします。

●3.主体:医療専門家の自律性
 答申は、同じ専門職である弁護士についての弁護士会の懲戒処分との対比、米国(ニューヨーク州)の医師に対する行政処分のヒアリングを踏まえ、国民の代表も取り込み透明性を確保して医療への信頼を高めつつも、医療事故の教訓を医療安全につなげる上では、医療専門家の自律的取り組みは欠かせないとし、事故調査に関する第三者機関及び行政処分を勧告するシステムは、いずれも医療者が自律的な責任を果たすシステムとして構想すべきとします。

●答申の位置づけ
 医療事故調査制度に関しては、2月23日の衆院予算委員会で、足立信也政務官が、大綱案について、「そのまま成案になるということはないと考えている。来年度中に方向性を出したい。」と見直しに着手する考えを示し、約1年半ストップしていた議論が再開しようというタイミングです。
 もっとも、従来の民主党案は院内事故調偏重と読める内容であり、足立政務官は、昨年末のシンポジウムで、大綱案につき「事実上、厚労省案として推奨していない」との考えを示しており、民主党に事故調査を行う第三者機関を作る気があるのかどうか、よくわからないというのが実情です。
 その中で、日医が第三者機関の必要性に言及したことは、(手放しで賛成できるわけではありませんが、)やはり第三者機関創設を含む形でのシステム構築の必要性を再認識させるものということができるといえるでしょう。
(2010年4月 センターニュース265号掲載)
情報センター日誌 その1 どうぞよろしくお願いいたします
 年初より、医療事故情報センターの嘱託として業務を開始させていただいております松山健と申します。司法修習は56期で弁護士6年目になります。

 嘱託弁護士はこれまで2000年から初代の堀先生、2004年から園田先生が加わられて二人体制で進んできました。このお二人の先輩の働きが素晴らしいものであったことは皆様ご存じの通りです。いきなり同じレベルをこなそうと気負っても空回りするだけだと思いますので、初心を忘れずに亀のようにコツコツと進んでまいりたいと思います。

 私が医療事件に関心を持ったのは、司法修習生のころでした。弁護修習(会員の池田伸之先生の所でした)が始まってすぐに妹が悪性リンパ腫に罹っていることが分かりました。その数ヶ月前に胸が痛いということで、総合病院の救急外来で診てもらった際のレントゲンに写っていた影の見落としのため、ほかの病院に診察に行っても、付き添った母親が総合病院でレントゲンはとってもらっていると医師に言うため、レントゲンをとるチャンスがなく、再度、同じ総合病院で検査入院したときには手遅れに近いほどまでに腫瘍が大きくなってしまっていました。また、病名告知の際の患者や家族への配慮のない対応など、病院に対する不信感を持つ場面が多々ありました。そういう状況で、池田先生の扱われる医療事件に接し、患者や家族の人たちの気持ちが自分のことのように感じられ、医療事件に関わりたいという気持ちが生まれてきました。

 その後、同じ病院の血液免疫内科の先生に力を注いでもらって、妹は寛解状態になり、退院でき、すでに5年以上が経過して完治となっています。結局、最初に誤診したのも、治してくれたのも、医師は別ですが、同じ総合病院でした。妹のほかにも、弟がクローン病、父が胃がん等々、家族に大病を患う者が多く、ときに医療に対する不信感を味わうこともありながらも、最終的には医師や看護師の皆さんに助けていただいており、医療関係者に対しては常々深い感謝と尊敬の念を抱いております。

 他方で、患者さんや家族が、医師に命を預ける際の心細い不安な気持ちや医師からの説明が不十分であったり、誤診の疑いを持ったとき、あるいは、たくさんいる患者の一人として機械的に扱われているように感じたときに、頼りにしているだけに残念な気持ちを持つことは実感としてよくわかります(このことは、弁護士として依頼者の方と接する際にも意識することです)。

 そのため、私は、医療側代理人ではなく、患者側代理人として、医療に対する恩返しをしたいと思っています。自分の痛いところを突いてくれる存在というものは煙たいものですが、なくてはならないものです。患者側代理人の立場に立つ弁護士の多くと同じく、私も、患者の立場で医療側に外側から働きかけることで、よりよい医療の実現を願っています。

 さて、今年はちょうど情報センター発足20周年の節目の年にあたります。10年前に発行された記念誌を読むと、この10年間で、医療事故をとりまく状況が大きく変わったことを感じます。医療過誤冬の時代といわれる現在ですが、会員数は着実に増加しており、これからも患者側弁護士のネットワークとしての情報センターに寄せられる期待と果たすべき役割はますます大きくなっていくものと思います。
 会員の皆様から情報センターにどのようなサービスの提供が求められているのか意識し、情報センターがさらに役割を果たしていけるように微力ながら尽力したいと思っております。

 何とぞ、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
(2010年2月 センターニュース263号掲載)


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