園田 理弁護士
情報センター日誌

園田 理 (愛知県弁護士会)
そのだ まさし
1970年 愛知県生まれ
1993年 東京大学法学部卒業
1995年 司法修習終了
同 年 弁護士登録
2004年 医療事故情報センター嘱託就任
2010年 医療事故情報センター常任理事就任
「嘱託日誌」をリニューアルし「情報センター日誌」といたしました。
◆情報センター日誌執筆者
 堀康司(常任理事)
 園田理(常任理事)
 松山健(嘱託)

<目次>
日誌その40 2012年2月 まずは事故発生等の実情把握に重点を!
〜無過失補償検討会の検討方針について
日誌その39 2011年10月 6年間の事故報告状況は?
〜平成22年年報公表を受けて
日誌その38 2011年6月 これまでの調査分析は中止?!
〜モデル事業、存亡の危機
日誌その37 2011年2月 中立・公正な死因究明は大丈夫?
〜新モデル事業:院内事故調査レビューモデルの試行へ
日誌その36 2010年10月 事故報告義務の無視とその履行確保は?
〜評価機構公表の平成21年年報を踏まえ
日誌その35 2010年5月 モデル事業、5年間の総括と今後の課題
日誌その34 2010年1月 消費者庁が医療事故を非公表?!
日誌その33 2009年11月 医療の透明性確保を
〜男児遺体長期安置事件を機に
日誌その32 2009年9月 脳性麻痺の回避可能性への言及は避ける?
〜産科医療補償制度の原因分析報告
日誌その31 2009年7月 判決の勝訴率が大幅に低下
〜平成20年最高裁医事関係訴訟統計より
日誌その30 2009年5月 死因調査分析モデル事業の現状と問題点
日誌その29 2009年3月 中立性や公平性、透明性の確保された院内事故調査を
〜院内事故調査委員会の運営指針の 開発に関する厚生労働科学研究
日誌その28 2009年1月 公的資金で損保会社が潤う?
〜産科医療補償制度の収支
日誌その27 2008年11月 動き始めた産科医療補償制度
〜果たして原因分析のあり方は?
日誌その26 2008年9月 第三次試案からさらに後退?
〜医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案の問題点
日誌その25 2008年7月 法案大綱案、公表される
〜医療死亡事故の原因究明・再発防止制度
日誌その24 2008年5月 評価機構内に運営組織発足
〜産科医療無過失補償制度
日誌その23 2008年3月 産科医療無過失補償制度の骨格まとまる
−準備委員会報告書の概要−
日誌その22 2008年1月 医療事故全国一斉相談受付について
日誌その21 2007年11月 ADRでの医療紛争解決
−その現状と今後の課題−
日誌その20 2007年8月 診療関連死の死因究明のあり方
−厚労省検討会での検討進む−
日誌その19 2007年6月 平成18年の医療過誤訴訟の概況
〜最高裁の統計より
日誌その18 2007年4月 診療関連死の死因究明のあり方
−厚労省がパブリックコメントの募集を開始−
日誌その17 2007年2月 真に患者のための制度を
−「産科医療における無過失補償 制度」に関する意見書を提出−
日誌その16 2006年12月 予防的手術実施に当たっての説明義務−最高裁平成18年10月27日判決
日誌その15 2006年10月 看護師による助産行為問題の新たな動向について
日誌その14 2006年9月 和解条項アンケートの結果報告
日誌その13 2006年6月 平成17年の医療過誤訴訟の概況
〜最高裁の統計より
日誌その12 2006年4月 医療過誤に対する行政処分の動向
−民事訴訟判決に基づく処分数は増えず−
日誌その11 2006年2月 医療法改正の動向
日誌その10 2005年12月 厚労省検討会へ意見書提出
−看護師助産問題の動向−
日誌その9 2005年10月 義務的報告制度、第2回報告の内容
日誌その8 2005年8月 医事関係訴訟委員会の答申内容は不十分
日誌その7 2005年6月 医療事故調査の在り方について
日誌その6 2005年4月 医療過誤に対する行政処分の動向
−民事訴訟判決に基づく処分と処分された医師に対する再教育−
日誌その5 2005年2月 不当な開示拒否がなされないよう監視を!
−個人情報保護法による診療情報開示−
日誌その4 2004年12月 より多く、より良質な情報を −医療に関する広告・広報の現状−
日誌その3 2004年10月 医療関連死の死因究明を行うモデル事業実施へ
−厚労省平成17年度予算概算要求−
日誌その2 2004年8月 手術症例数情報の公開−平成16年度社会保険診療報酬等の改定−
日誌その1 2004年6月 どうぞよろしくお願い致します

嘱託日誌 その40 まずは事故発生等の実情把握に重点を!〜無過失補償検討会の検討方針について
●医療事故発生等の実情把握は未だなされず
 昨年12月の本欄でご紹介した厚労省の無過失補償検討会(正式名称は、医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会)の第4回会合が、昨年12月22日に開催されました。当日の議題や配布資料が厚労省のHP上で公表されています。
 12月の本欄で、医療事故の無過失補償制度を検討していくに当たっては、医療事故の発生件数や、医療事故の賠償責任保険での保険給付額等の実情を把握する必要がある、実情把握のためには、賠償責任保険の財政規模、保険金の支払状況等の情報収集が必要だ、と述べさせていただいていました。
 しかし、公表されている配布資料を見る限り、厚労省が日本医師会や損害保険会社、金融庁等に対して照会をなし、上述のような情報を収集した様子は見られません。残念です。

●事故原因究明・再発防止のあり方について検討
 部会設置へ
 第4回会合の議題には、検討会の今後の進め方が挙げられ、配布資料には、設置する「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」の開催要綱(案)等が入っています。
 医療事故の原因調査や再発防止のための仕組みのあり方については、今後、検討会内に、別途検討部会を設置して、検討を進めて行く方向で議論されているようです。

●事務局による論点整理案提示
 第4回会合の配布資料には、今後検討が必要な論点(案)も入っています。事務局が今後検討会や部会で検討を進めていく論点案を整理したものだと思われます。
 第4回会合では、そのような論点案に沿って今後の検討を行っていくことについても議論されたようです。

●まずは医療事故発生等の実情把握に重点を!
 医療事故発生等の実情を窺い知ることのできる資料として第4回会合までに配布されているのは、医療事故情報収集等事業における事故報告件数の資料と、医療事故の全国的発生頻度や発生件数の推計に関する研究結果の資料程度です。
 医療事故情報収集等事業における事故報告は、本欄で何度か取り上げて来たとおり、事故報告義務の履行が十分になされているとは到底言えず、医療事故発生等の実情を反映したものとは到底言えません。医療事故の発生頻度や発生件数の推計に関する研究結果も、真に事故発生の実情を反映した推計と言えるのか、疑問なしとしません。
 また、仮に無過失補償の申請を、産科医療補償制度と同様、医療機関を通じて行う制度として構築する場合、現在の医療事故情報等収集等事業における事故報告状況のように、医療機関ごとに申請状況が区々になるような制度設計がなされてしまうと、公正な被害救済がなされないこととなってしまいます。
 無過失補償制度の設計に当たっては、医療事故発生等の実情をきちんと把握した上、その実情を踏まえた適正かつ公正な制度として制度設計を進めていく必要があります。そのためには、医療機関による医療事故の報告や抽出のあり方それ自体を重点的に検討すべき論点として明確に掲げ、今後検討会や部会において十分に検討していく必要があります。公表されている論点案にも、この点は含まれていると考えられますが、より明確に論点として掲げ、重点的に議論が行われるべきです。
 果たして医療事故発生等の実情把握がどこまできちんとなされるのか。
 検討会での議論状況に引き続き注目していきたいと思います。
(2012年2月 センターニュース287号掲載)
嘱託日誌 その39 6年間の事故報告状況は?〜平成22年年報公表を受けて
●この6年間の事故報告状況は?
 去る8月30日、(財)日本医療機能評価機構(評価機構)が、医療事故情報収集事業の平成22年年報を公表しました。
 本欄では、これまで、事故報告義務を負っているにもかかわらず、年間事故報告件数がゼロの医療機関数が相当数に上っており、それら医療機関で事故報告義務が無視されているのではないか、との問題提起をしてきました。
 そこで、この問題意識の下、平成17年から平成22年までの6年分の年報データを基にグラフ化し、この6年間の事故報告状況を概観してみます。

●依然4分の1近くが事故報告ゼロ
 「報告件数毎の割合」グラフは、事故報告義務を負う医療機関の中で、どれくらいの割合の医療機関が年間何件くらい事故報告しているかをグラフ化したものです。
 年間10件を超えて事故報告する医療機関の割合が徐々に増えて来ているものの、未だ大多数の医療機関が年間10件以下の事故報告に止まっており、年間事故報告ゼロの医療機関も、未だ4分の1近くあります。

●病床数1000以上でも年間事故報告ゼロが15%前後
 「報告ゼロの割合推移(病床数毎)」グラフは、事故報告義務を負う医療機関を病床数毎に区分し、それぞれの区分で年間事故報告ゼロの医療機関の割合がどうか、その割合がこの6年でどう推移してきているかをグラフ化したものです。
 病床数が少なければ報告すべき医療事故が年間ゼロということも想定されなくはありませんが、病床数が1000以上の医療機関でも15%前後が年間1件も医療事故を報告していないという実情があります。病床数800以上1000未満の医療機関よりも病床数1000以上の医療機関の方が事故報告ゼロの割合が多いことからすると、病床数1000以上の医療機関の中に医療事故情報収集事業の趣旨を理解されない医療機関の割合が多いのかもしれません。病床数の比較的多い医療機関で平成22年に事故報告ゼロの割合が増えているのも気になります。

●学校法人開設の医療機関で4割前後が事故報告ゼロ
 「報告ゼロの割合推移(開設者毎)」グラフは、事故報告義務を負う医療機関を開設者毎に分け、それぞれ年間事故報告ゼロの医療機関の割合がどうか、その割合がこの6年でどう推移してきているかをグラフ化したものです。
 国や自治体が開設した医療機関に比べ、学校法人開設の医療機関においては、年間1件も事故報告がなされない割合が明らかに多いことが分かります。その割合は、4割前後にも達しています。国の指導等が徹底されにくいのかもしれません。

●事故情報収集に一層の努力を
徐々に事故報告件数が増えつつあるものの、年間事故報告ゼロの医療機関が依然として4分の1近くあるなど、事故報告義務の履行が十分になされているとは未だ到底言えません。
 医療安全に有用な情報を広く収集し医療機関や国民と共有するためにも、年間事故報告ゼロの医療機関に対しては、誠実な事故報告義務の履行を、それ以外の医療機関や評価機構には、事故情報の収集により一層の努力を、それぞれ要望したいと思います。

※グラフはPDFをご参照ください
(2011年10月 センターニュース283号掲載)
嘱託日誌 その38 これまでの調査分析は中止?!〜モデル事業、存亡の危機
●これまでの調査分析は中止?!
 日本医療安全調査機構の下で継続実施されている「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」では、去る4月22日、平成23年度第1回運営委員会が開催されました。
 同委員会では、それに先立って開催された理事会で、補助金の執行が東日本大震災の影響により不確実であることから、今後の事業運営方針として、
1) 前年度受け付けた事例は、本年11月末を目途に速やかに終了させ、
2) これまでの調査分析モデルでの事例受付は中止し、
3) 新たな調査分析協働モデルを東京・北海道地域で年度内に10例程度試行し、
4) 法制化の実現に際し、東京に新体制の事務局を設置する、
との方針が決定された旨報告がなされたようです(配布資料3)。

●運営委員会からの再考依頼
 公表されている運営委員会の配布資料の末尾に、運営委員会委員長を務める樋口範雄氏から機構ないし理事会に対する再考依頼書が添付されています。
 樋口委員長は、再考依頼書の中で、この理事会決定について、次のような疑問を呈して、運営委員会の意見を聞くことなどを要請しています。
1) 医学界(医学会)が、事故分析と再発防止を図ることのできる仕組みが患者のためにも医師のためにも必要だと考えるに至り、日本医学会加盟の主要 19 学会が、平成16年9月に、「医療の安全と信頼の向上のためには、予期しない患者死亡が発生した場合や、診療行為に関連して患者死亡が発生したすべての場合について、中立的専門機関に届出を行なう制度を可及的速やかに確立すべきである。われわれは、…在るべき『医療関連死』届出制度と中立的専門機関の創設を速やかに実現するため結集して努力する決意である。」との共同声明を出した「原点」に立ち返る必要がある。もはや中立的専門機関の創設に向けて努力する必要はなくなったのか。
2) これまでモデル事業の意義も困難もじかに感じてきており、将来第三者機関ができることがあった場合に実際に中心になって働くはずの地域代表者らに、一切相談もせず、新たな方向性を打ち出し、彼らを「切る」のは適切か。
3) 通常、苦しい時代には、新たな試みは控えるのが賢明なのに、むしろ従来型をやめようとするのは、これに乗じてモデル事業自体を縮小させ、第三者機関の実現をあきらめたりやめようとしたりしているのではないか。
4) 予算執行の確証がなくとも、もう少し時期を見てから判断するのが通常の対処。予算面を国だけに頼ったモデル事業のあり方自体を考え直す契機にすることも考えられる。しかし、今回の理事会決定がそのどちらでもないのは疑問。
 開催された運営委員会においても、多くの運営委員から、理事会決定に対する異論が続出し、その結果、運営委員会として、理事会に対し決定の再考を求め、その結論が出るまではこれまでの調査分析モデルでの事例受付を継続する、ということで議論が取り纏められたようです。

●果たして理事会の再考結果は?
 樋口委員長が指摘されたとおり、日本医学会加盟の主要 19 学会が出した、平成16年9月の共同声明で、「医療の過程において予期しない患者死亡が発生した場合や、診療行為に関連して患者死亡が発生した場合に、異状死届出制度とは異なる何らかの届出が行われ、臨床専門医、病理医及び法医の連携の下に死体解剖が行われ、適切な医療評価が行われる制度があることが望ましいと考える。…届出制度を統括するのは、…第三者から構成される中立的専門機関が相応しいと考えられる。このような機関は、死体解剖を含めた諸々の分析方法を駆使し、診療経過の全般にわたり検証する機能を備えた機関であることが必要である。」と述べられていた中立的専門機関のモデルとして、平成17年9月、モデル事業が開始されました。
 未だ中立的専門機関創設の目途が立っていない状況で、事例受付を中止してしまうことは、医療界が中立的専門機関創設へ向けての努力を放棄し、「原点」を葬り去ることに他なりません。
 また、「運営委員会では、本モデル事業の運営方法等の検討を行う」(厚労省HP)とされていましたが、理事会が運営委員会に事前に諮問等することなく事例受付中止を独断で決定してしまうのは、運営委員会の役割を無視するものと言うべきです。
 運営委員会の意見を踏まえ、理事会がどのような再考結果を出すのか、注目されます。
(2011年6月 センターニュース279号掲載)
日誌 その37 中立・公正な死因究明は大丈夫?〜新モデル事業:院内事故調査レビューモデルの試行へ
●新モデル事業:院内事故調査レビューモデルの試行へ
 日本医療安全調査機構の下で継続実施されている「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」(新モデル事業)では、昨年12月7日、第3回運営委員会が開催され、本年4月から、調査依頼医療機関の院内事故調査委員会が作成した報告書をレビューするモデルを試行していくことが決められました(ホームページで公表されている議事録3頁〜10頁、配付資料3の(1)、資料3−1を参照ください)。
 これまでのモデル事業受付事案でも、調査依頼医療機関では院内事故調査委員会が開催され、そこで内部的に死因の究明、再発防止策の検討がなされて、その結果が報告書として評価委員会に提出されていました。しかし、これまでは、モデル事業の評価委員会が、そのような報告書を検討材料にしつつ、最終的な死因の究明や再発防止策の提言、評価結果報告書の作成を責任をもって行っていました。
 これに対し、このレビューモデルでは、あくまでも死因の究明や再発防止策の策定自体は、医療事故が発生した医療機関の院内事故調査委員会がなすことになり、その調査結果を評価委員会がレビュー(評価)だけすることになるようです。

●レビューモデルが試行される医療機関は?
 レビューモデルを試行するのは、医療安全管理体制が整備されている中規模以上の病院が対象とされています。
 そして、当該医療機関のみでは中立性や透明性の確保が困難な中規模病院の場合は、モデル事業側で院内事故調査委員会に外部委員を派遣するなどして院内事故調査を支援しつつ報告書をレビューする、過去に外部委員参加型の院内事故調査委員会を組織して院内事故調査を行った実績のある大規模病院の場合は、単に報告書をレビューする、とされています。

●院内事故調査は軌道に乗ってきた?
 このようなレビューモデル試行の背景には、多くの病院で院内事故調査委員会の活動が軌道に乗ってきており、とりわけ大学病院のような大規模病院では、院内事故調査委員会による調査に対してモデル事業側がどうこう言う必要がなくなってきている、との認識が前提にあるようです(第1回運営委員会議事録12頁)。
 しかし、第3回運営委員会では、このような前提認識に疑問を呈するような次のような意見も出されていました。
・やはり第三者機関が少し関わらないと、出て来た最後のペーパーを見るだけでは、社会的にどうかと思う。
・大学病院の院内事故調査委員会の報告書にもあまり評価のよくないのがあった。大学病院の院内事故調査だからといって必ずしも評価委員会で評価されていたとも思えない。
・国立の病院でもひどい報告書を出してきた事例もあるので、すべての病院が既に院内事故調査委員会が完成しているとはとても思えない。現実は、そういうひどいところがあることをご理解いただきたいと思う。

●中立・公正な死因究明は大丈夫?
 中立な第三者機関が、診療関連死の死因を究明し、再発防止策を策定することで、医療の透明性を高めるとともに、医療事故の再発防止を図ろうというのが、モデル事業の目的です。
 ところが、運営委員会で上述のような意見も出されている状況の中、医療安全管理体制の整備状況や、院内事故調査委員会の構成、調査手順等につき緩やかな条件で安易にレビューモデル試行がなされてしまえば、院内事故調査委員会の不公正・不透明な調査結果をモデル事業側が追認するだけに終わってしまうおそれがあります。中立・公正な死因究明により医療の透明性を高めようとするモデル事業の目的は到底達成できません。
 患医連(患者の視点で医療安全を考える連絡協議会)は、本年1月20日、日本医療安全調査機構に対し、上述のようなレビューモデルの試行に反対し、医療事故被害者の意見聴取などを求める要望書を提出しました。このような患者・医療事故被害者からの意見聴取などを踏まえ慎重に制度設計がなされるべきです。
 レビューモデル試行の対象医療機関となるための具体的な条件など細部の詰めは本年4月までになされるようです。新モデル事業の動向を注視していく必要があります。
(2011年2月 センターニュース275号掲載)
日誌 その36 事故報告義務の無視とその履行確保は? 〜評価機構公表の平成21年年報を踏まえ
●2割を超える医療機関が報告「ゼロ」
 去る8月31日、(財)日本医療機能評価機構(評価機構)が、医療事故情報収集事業の平成21年年報を公表しました。
 この事業については本欄でも何度か取り上げて来ており、事故報告義務を負っているにもかかわらず、年間事故報告がゼロの医療機関の数が相当数に上っていることをお伝えしてきました。
 平成20年10月号では、平成19年年報で、事故報告義務を負う医療機関273施設のうち約3割に当たる80施設が年間事故報告がゼロであったと報告されており、厚労省が平成20年9月1日付けで事故報告義務を負う医療機関に宛て、報告すべき事案等の周知とその報告を要請する通知を発したことを紹介したところでした。
 しかしながら、この度公表された平成21年年報でも、各医療機関が厚労省からの通知を受領した後の平成21年の1年間に、273施設中61施設(22.3%)が、依然として事故報告ゼロでした。
 事業が開始されて4年余り経過した平成21年においても、なお2割を超える医療機関が、事故報告義務を負っているにもかかわらず、年間事故報告ゼロのままということです。

●年間「ゼロ」は明らかに報告義務の無視
 事故報告義務を負っているのは、特定機能病院(病床数400以上)や国立病院、大学病院など、非常に多くの患者に診療を行っている医療機関です。400床の病院で平均在院日数を約34日とし、常時満床だと仮定すれば、年間延べ4,300人ほどの入院患者の診療に当たることになります。
400×(365÷34)≒4,294
 本年8月号の本欄でご紹介したとおり、入院患者の6.8%程度の割合で有害事象が発生しているとの調査報告があります。有害事象には、院内感染や不可避の合併症なども含まれ、医療事故よりやや広い意味を有する概念だとのことですが、そのうち、明らかに誤った医療行為や管理上の問題が認められたものと、医療行為や管理上の問題が原因となった可能性が高い(50%以上)ものとに限定したとしても、なおそのような事故が3.6%発生しているとのことです。年間延べ4,300人の入院患者の診療に当たる医療機関であれば、年間約150人にそのような事故が発生することになりますし、年間28人の入院患者しか診療しない医療機関でも年間1人に事故が発生する計算になります。
 平成21年年報によれば、事故報告義務を負う医療機関273施設は、少ないところでも20床以上で、169施設が病床数400以上です。
 にもかかわらず61施設で年間事故報告がゼロ、その61施設のうち24施設が病床数400以上というのは、おかしいと言わざるを得ません(ちなみに、平成20年年報によれば、平成16年10月から平成20年12月までの4年3ヶ月間に事故報告を1度もしなかった医療機関が24施設もあります)。
 事故報告義務の履行が明らかに懈怠され無視されている疑いが極めて濃厚です。

●評価機構・医療機関は真剣な取り組みを
 医療機関から事故報告をさせ、それにより収集した事故情報を分析し提供することで、広く医療安全対策に有用な情報を医療機関相互に共有するとともに、国民にも情報提供して医療安全対策の一層の推進を図る…
 この医療事故情報収集事業の趣旨が、相当数の医療機関に無視されているのが現状だと言わざるを得ません。厚労省の通知もまた無視されています。このまま手をこまねいて放置しておくべきではありません。
 評価機構は、事業の実施主体として事故情報収集を適正に行う責務があり(医療法施行規則12条の4・・)、事故報告義務が尽くされていない疑いのある医療機関に対しては、報告を求めたり訪問調査をしたりなどして義務履行を求め、その医療機関が病院機能評価認定を受けながら事故報告義務を怠っているような場合は、法令違反があるとして、是正措置等を求め、その対応次第で、認定証の返還を求めたり、認定を取り消したりなどすることも視野に入れ、法令に基づく事故報告義務の履行を求めていく必要があります。
 それでも改善されない場合には、厚労省が、評価機構に、事故等分析事業の事務の状況に関する報告(医療法施行規則12条の15)として各医療機関からの事故報告状況を報告させ、事故報告義務の不履行が疑われる医療機関に必要な報告を命じる(医療法25条3項)などの措置を講じることとなりますが、そのような事態にならないよう、今、医療事故情報収集事業の趣旨を無にしない真剣な取り組みが、評価機構や事故報告義務を負う医療機関に求められています。
(2010年10月 センターニュース271号掲載)
日誌 その35 モデル事業、5年間の総括と今後の課題
●モデル事業、実施主体を代えて継続
 診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業(「モデル事業」)が、平成17年9月より行われてきました。実施主体はこれまで日本内科学会でしたが、昨年度末で一旦終了し、本年度から実施主体を一般社団法人日本医療安全調査機構に代えて、引き続き厚労省補助事業として継続されることになりました。
 5年弱にわたり日本内科学会で実施されてきたモデル事業の総括と今後に向けての提言内容が、本年3月24日に開催された第24回運営委員会で資料として配布され、委員や地域代表の意見も掲載されています。以下、概要をご紹介します(詳細はモデル事業のホームページを参照ください)。

●少ない受付件数
 モデル事業の受付件数は、5年弱の間に105件に止まりました。当初、年間200件程度が想定されていたようですが、予想を大幅に下回りました。
 その要因として、解剖への遺族の同意が得られない、医師法21条に基づく届出事例がただちに対象とならない、モデル事業について周知が不十分、24時間受付体制でない、といったことが挙げられています。
 今後に向けては、医師法21条に基づく届出事例についてもモデル事業で受け付けうるよう厚労省は警察庁・法務省と調整すべし、一般国民や医師の解剖への理解を深める取組みを行う、解剖への同意が得られやすい解剖環境の整備を行う、解剖への同意が得られない事例の調査分析についても前向きに検討する、患者側から調査依頼があった場合にモデル事業側が医療機関を説得する、等が提言されています。

●地域間の差、不統一
 モデル事業の実施地域毎に、事例受付の基準や調査手順等に差異があったと指摘されています。実際、人口100万人当たりの月間受付件数が最も少なかった愛知と最も多かった札幌とで8倍もの格差がありました。
 臨床評価のレベル、視点も、必ずしも全国的に統一されていなかったとの指摘もあります。
 今後は、調査手順等の全国的な標準化や簡素化、事例評価手法の標準化が課題・テーマであるようです。

●再発防止提言は不十分
 再発防止に関しては、各事例ごとの再発防止提言の内容が不統一、事例ごとの知見を集積・統合し、広く社会に再発防止策を提言することが十分出来てない、との指摘がなされています。
 今後に向け、これまでの事例ごとの再発防止提言をレビューし、(財)日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業とも連携しつつ、広く社会に再発防止策を勧告・建議していく検討が必要、としています。

●遺族や医療機関からは好評価
 参加した遺族や医療機関からのモデル事業に対する評価は、アンケート結果で、遺族側も、医療機関側も、8割が「参加して良かった」との回答だったとのことです。
 理由として遺族側は、「医療行為と死亡との関連が分かった」「死因が分かった」「死者のために最善を尽くせた」などを挙げ、医療機関側は、評価内容についての満足・納得を挙げているようです。

●新制度創設へ向けて
 モデル事業は、医療事故の原因究明・再発防止を担う中立的第三者機関の創設を念頭に開始されたものの、この5年、周知が不十分で低調に終わり、未だ課題山積の状態と言えます。
 その間、厚労省において第三者機関の創設へ向け新制度法制化への取組みがなされましたが、昨年8月の政権交代以降、国としての方針が不明確化し、モデル事業関係者にも混乱が広がっているのが現状のようです。
 医療事故の原因究明・再発防止を図り、医療の透明性・安全性を高めていくというモデル事業や第三者機関創設の趣旨・目的は重要です。引き続きモデル事業が継続されるのはその意味で歓迎すべきことです。
 第三者機関創設に向け、国には早期に方針・方向性を明らかにしていただき、継続されるモデル事業には、より一層の広報周知と、この5年の課題を踏まえた充実した取組みを期待したいと思います。
(2010年5月 センターニュース266号掲載)
日誌 その34 消費者庁が医療事故を非公表?!
●消費者庁が医療事故を非公表?!
 消費者庁が消費者安全法に基づき厚生労働省から通知された医療事故を一切公表していないことがわかった、との新聞報道がありました。
 昨年9月、内閣府の外局として消費者庁が設置されるとともに、消費者安全法が施行されています。
 この法律では、行政機関の長などは、消費者事故が発生したとの情報を得た場合、それが重大事故のときは、直ちに内閣総理大臣にその事故の日時・場所、態様、被害状況などを通知しなければならない、と定められています(12条1項、同法施行規則9条2号)。
 ここで重大事故というのは、消費者が死亡したり、一定以上の重篤な後遺症を残したり、治療に30日以上要する傷病を負ったりした場合のことを指します(同法施行令4条)。
 内閣総理大臣は、このように事故通知を受けた場合、当該消費者事故と同種・類似の消費者事故の発生の防止を図るため消費者の注意を喚起する必要があると認めるときは、当該消費者事故の態様、被害状況その他の消費者被害の発生防止に資する情報を公表するものとされています(15条1項)。
 このような消費者安全法の規定に基づいて厚生労働省から昨年9月以降に12月半ばまで医療事故が20件近く通知されていたのに、一切公表されていないという報道でした。

●なぜ非公表?
 なぜ非公表なのでしょうか?
 報道によれば、消費者庁消費者安全課は、患者の個人情報保護の観点や、因果関係の判断が難しいため、原則非公表としてきたと説明しているようです。
 しかし、事故に遭った患者が誰なのかを特定されないように配慮しながら、事故態様や被害状況を公表することは可能なはずです。
 また、消費者安全法でも、事業者がその事業として提供する役務を消費者が利用したことに伴い生じた事故で、消費者の生命・身体に被害が発生したものは、原則として消費者事故に当たるとしています。例外的に、役務が通常有すべき安全性を欠くことによって被害が生じたのではないことが明らかな場合に限り消費者事故には当たらないとしています(2条5項1号)。つまり、消費者安全法自体が、役務の利用と被害発生との間に因果関係がない、ということが明らかでなければ、広く消費者事故に当たるとし、特に重大事故については必ず通知させ、それを公表することにより、同種・類似の消費者事故の発生防止を図ろうとしているのです。役務の利用と被害発生との間の因果関係判断が難しいとの理由で医療事故を原則非公表とするのは、法律の趣旨に反します。
 消費者庁が医療事故に限って原則非公表としてきた理由は、全く理解できません。

●医療安全のために是非公表を!
 医療事故に関する情報は、同種・類似の医療事故発生を防止するための貴重な教訓が含まれています。医療の安全性を高めていくのに有用な情報です。患者の個人情報保護に配慮しつつも、これを埋もれさせることなく広く公表し、医療機関や患者に提供していくべきです。
 現在、特定機能病院や大学病院、国立病院などで起きた医療事故については、医療法施行規則で事故報告が義務づけられ、財団法人日本医療機能評価機構によって事故情報が公表されています。しかし、まだ、ごく一部の大規模医療機関での事故情報に限られています。
 報道によれば、消費者担当大臣が医療事故の公表について前向きな考えを示し、消費者庁も公表に向けた検討を始めたとのこと。公表の早期実施を期待したいと思います。
(2010年1月 センターニュース262号掲載)
日誌 その33 医療の透明性確保を 〜男児遺体長期安置事件を機に
●男児遺体長期安置事件が話題に
 マスコミ報道で、名古屋大学医学部付属病院にて手術を受けた後に死亡した男児の遺体が、2ヶ月以上も院内の霊安室に安置されたままになっていたことが、話題になりました。
 報道された内容によりますと、おおよそ次のような事実経過だったようです。
H21.3
 男児が入院し肺高血圧症との診断を受ける。
H21.7.13
 男児が腹腔鏡手術を受ける。
H21.7.15
 男児の容体が急変し死亡。
 病院側は遺族に対し院内での病理解剖に同意を求めたが、病院での診療に不審を抱く遺族が第三者機関による解剖を希望。病院側がそれはできないとして議論が平行線に。
H21.9.7
 病院の代理人弁護士が遺族に対し、遺体引取りを求め、引き取らない場合は1日当たり2万円を請求するとの内容の内容証明郵便を発送する。
H21.10.2
 病院が遺族に、県内の別の大学病院での病理解剖を提案し、それまでの対応を謝罪する。
H21.10.6
 病院が記者会見で、遺族に改めて謝罪し、外部委員による調査委員会設置を表明する。

●剖検システムのルール明確化、周知徹底を
 この件では、愛知県内の4大学病院が月ごとに当番となり、県内の他の医療機関からの依頼を受けて病理解剖を行うという、愛知県医師会の剖検システムが、どこまで利用できるかが問題となっていました。
 名大病院は、当初、この剖検システムは、自ら解剖を実施できない医療機関による利用を念頭に置いた制度で、4大学病院は対象外だとの認識だったようです。そのため、遺族の、中立な第三者機関で病理解剖を、という希望を受け付けず、議論が平行線を辿り、遺体の長期安置につながりました。
 しかし、実際には、この剖検システムを利用できる医療機関に制限は設けられておらず、10年ほど前には藤田保健衛生大病院の依頼で名大病院が病理解剖を実施した実例もあったようです。
4大学病院の一つである名大病院が、なぜこのような剖検システムの運用の実情を知らなかったのか。詳細は調査委員会で調査されることになるかと思いますが、その原因の一つには、剖検システムがあまり活用されておらず、その運用ルールも明確化されていなかったことが背景事情としてあるのではないか、と推測されます。
 ご遺族が、「子どもに何が起きたのかを知りたい」と願い、中立な第三者機関での病理解剖を希望されたのは、ごく自然で、切実な思いです。医療機関は、このようなご遺族の思いをできる限り尊重すべきです。
 剖検システムの運用ルール明確化や、同システムの周知徹底など、中立な第三者機関での病理解剖が円滑に実施されるような医療界の取組みが望まれます。

●モデル事業の積極活用を
 また、愛知県では、厚労省補助事業として、診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業が行われていますが、今回、このモデル事業は利用されませんでした。モデル事業では解剖が実施され、原則として患者が亡くなった医療機関以外で行われることになっています。
 この点につき、愛知県では事件性をうかがわせると医療機関が判断した場合に限定した受付運用がなされており、名大病院が医療事故ではないと判断したため、モデル事業が利用されなかった、との報道がなされていました。
 モデル事業は、診療関連死の原因に関する評価結果を遺族に提供することで医療の透明性を確保することも目的とされています。当該医療機関が過失や事件性を認めなかったとしても、遺族が不審を抱き、中立な第三者機関での解剖などを望んでいるような場合には、医療の透明性確保の必要性が強く認められます。死因を中立な第三者機関で専門的、学際的に検討し究明するのがまさに適当だと言うべきです。
 愛知県は、モデル事業の受付事例数、総相談事例数とも、全国の中で最も少なく、他地域と大きな格差が生じていることが明らかになっています(本年2月号・5月号の本欄参照)。今回の事例を通じて、調査受付窓口の受付姿勢やモデル事業の利用に対する医療機関の姿勢の違いが地域ごとの格差の原因となっているのではないかと推察されます。
 医療の透明性を確保し、信頼を得ていくためにも、モデル事業を積極活用していく医療界の取組みを切に望みます。
(2009年11月 センターニュース260号掲載)
日誌 その32 脳性麻痺の回避可能性への言及は避ける? 〜産科医療補償制度の原因分析報告
●原因分析委員会での検討進む
 本年7月から、産科医療補償制度による補償認定の申請が可能な時期になってきました。
 本年2月に、同制度運営部内に事故原因の分析を行う原因分析委員会が設けられ、7月から補償認定申請がなされうることを念頭に原因分析を円滑に実施していけるよう準備すべく、2月以降概ね毎月1回のペースで委員会が開催されてきています。
 委員会では、仮想事例を基にして原因分析報告書にどのような記載をなすべきかなどの原因分析のシミュレーションを行い、報告書作成マニュアルの作成が進められています(委員会での議論状況は、同制度のホームページ上に委員会の会議録や配付資料が公表されています。ご参照ください)。

●家族に分かりやすく、疑問に答える記載に
 委員会が作成する報告書は、補償対象となった児の家族に渡されることが予定されています。家族にとっては、その報告書を読んで事故の原因が理解でき、疑問が解消されるようなものであることが望まれます。
 そのような観点から、本年5月19日に開催された第4回委員会では、仮想事例1に関する原因分析報告書の原案について、委員会で、次のような議論がなされていました。
〇全体的に言葉が難しく一般の人だとほとんど分からない。特に「事例の概要」は家族に理解してもらい、その上で意見を出してもらうので、表現を平易にすべき。
〇医学的な一般論や論理を前提に読まないと理解できない箇所は、そのような点の説明を追加すべき。
〇家族はもっと早く対応していれば脳性麻痺は防げたのではないかと疑問を持っている。その疑問に対し答える姿勢を示し、できる限り詳しく論述すべき。
 このような議論を経て、第6回委員会配付資料中の報告書修正案では、事例の概要の表現がより一層平易化が図られ、医学用語の解説もかなり補充されるとともに、なぜ脳性麻痺発症の原因が常位胎盤早期剥離と考えられるのか、なぜ医療機関の対応が適切と判断されるのか、などについて、かなり詳細な説明がなされるようになっています。

●脳性麻痺の回避可能性への言及は避ける?
 次いで本年6月9日に開催された第5回委員会では、仮想事例2に関する原因分析報告書の原案について議論がなされました。
 原案では、レトロスペクティブな視点からの診療行為についての改善事項として「午前5時10分、もしくは…午前5時30分以前に速やかに帝王切開によって児が娩出されていたら、脳性まひは回避出来た可能性があると考えられる」との言及がなされていましたが、委員会では、委員長を中心に次のような意見が出されました。
〇この点に言及すると、法的責任追及につながりやすい。報告書は、責任追及のためのものではなく、法的な判断をするものでもない。そのような表現は避けるべき。
 その結果、第6回委員会配付資料中の報告書修正案では、どうしていれば脳性麻痺を防ぐことができたか、という点についての言及が省略されてしまっています。
 しかし、この点については、委員からは次のような反対意見が出ていました。
〇脳性麻痺が防げたのか否かは再発防止策にとって極めて重要である。結果に関連のあった原因と、関連のなかった原因は意識して書き分けるべきで、結果に関連のあった原因について優先して対策を取らなければならない。結果との関連性を敢えてぼかして複数の再発防止策を同列に論じるのは説得力を欠く。
 もっともな意見です。どうしていたら脳性麻痺を避けることができたのか、それはどの程度の可能性なのか、という点は、再発防止策の優先度・重要度に関わるだけでなく、家族にとっても大きな関心事です。そのような点につき全く言及しないのは、家族に対する事故原因の説明という意味でも不十分です。今後の委員会での議論状況に引き続き注目していきたいと思います。
(2009年9月 センターニュース258号掲載)
日誌 その31 判決の勝訴率が大幅に低下 〜平成20年最高裁医事関係訴訟統計より
●最高裁が速報値を公表
 最高裁が平成20年の医事関係訴訟統計の速報値を公表しました。裁判所HPの「公表資料」→「医事関係訴訟委員会について」とたどると、一覧表が掲載されています。

●提訴件数は再び減少へ
 平成20年の新受件数(地裁で新たに提訴された件数)は877件。
 新受件数は、平成16年をピークに2年連続で減少し、平成19年には微増したものの、平成20年は再び減少に転じ800件台となりました(グラフ1)。

●平均審理期間の短縮に歯止め
 平成20年の既済事件の平均審理期間は24.0ヶ月。
 平均審理期間は、平成12年以降、期間短縮が続き、平成19年は2年をわずかながら切りましたが、平成20年は期間短縮に歯止めがかかりちょうど2年になりました(グラフ2)。 

●和解が減り判決が増える傾向
 平成20年の既済事件の終局区分のうち判決は37.6%、和解は50.0%。
 判決と和解の比率は、平成18年までは判決が減り和解が増える傾向が続いていましたが、その後ここ2年は和解が減り判決が増える傾向を示しています(グラフ3)。

●判決の勝訴率が大幅に低下
 判決の勝訴率(一部認容を含む)は26.7%。
 判決の勝訴率は、平成15年から徐々に低下していき、平成19年に若干上昇して持ち直したものの、平成20年は10ポイント余りも低下して30%を切り、ここ10年間で最低水準となりました(グラフ4)。
 なお、グラフ4には、医事関係訴訟の既済事件のうち勝訴的な終局をしたもの(一部認容判決や和解を含む)の割合の推移グラフも重ねて表示してみました。このように和解で終局したものも考慮に入れた勝訴的終局率で見ても、平成20年は60.0%と過去10年で2番目に低い数値となっています。

PDF(グラフ付)
(2009年7月 センターニュース256号掲載)
日誌 その30 死因調査分析モデル事業の現状と問題点
●モデル事業の公表資料
 診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業(「モデル事業」)が、厚労省補助事業として平成17年9月より行われています。
 モデル事業の実施状況については、厚労省の第17回死因究明等検討会(平成20年12月1日開催)で報告された平成20年11月17日現在の状況を、当ニュース本年2月号の本欄で紹介したところですが、その後の平成21年2月16日現在の状況が、同月24日に開催されたモデル事業の第20回運営委員会で資料として配布されています(詳細はモデル事業のホームページを参照ください)。

●受付事例数
 配布資料によりますと、平成17年9月1日から平成21年2月16日までの3年5ヶ月余りの間にモデル事業が受け付けた事例数、受付に至らなかった相談事例数は以下のとおりです(括弧内は受付に至らなかった相談事例数の中で占める割合(%))。
 平成20年11月以降、平成21年2月までの3ヶ月間では、全国10地域で、受付事例数がわずか3件、受付に至らなかった相談事例数もわずかに4件。依然、事例数が非常に少ない状況です。いかに遺族の同意や医療機関の協力を得て事例数を増やしていくかが課題です。

●事例数の地域格差
 また、配布資料の中の「地域別受付件数の概況」を基に、当ニュース本年2月号の本欄掲載の表と同様の計算方法により、人口100万人当たりの1ヶ月間の受付事例数や総相談事例数(受付事例数と受付に至らなかった相談事例数の合計数)を計算することができます。計算すると下記のような結果となります(受付事例数、総相談事例数とも、人口100万人当たりで1ヶ月当たりの数値。括弧内は愛知の値を1とした場合のその他地域の倍率。モデル事業が開始されて間もなく、受付事例等のない宮城と岡山を除く)。
 受付事例数、総相談事例数とも、愛知が最も少なく、受付事例数について札幌との間で7.4倍の格差が、総相談事例数について兵庫との間で17.9倍の格差が、それぞれあります。このような地域格差が生じる原因も究明する必要があります。

●説明会後の遺族の状況
 モデル事業では、診療行為と死亡との因果関係について地域評価委員会が作成した評価結果報告書の内容に関し、遺族と医療機関に対し説明会が行われます。この説明会を終了した事例の遺族のその後の状況を調査した結果も、前記配布資料中に含まれています。
 配布資料によれば、説明会を終えた60事例のうち調査できた55事例の状況は次のとおりとのことです(+は診療行為に不満ある状態、−は不満のない状態)。
 また、説明会後に+(不満あり)の上記27事例は、次のような状況とのことです。
 説明会後に不満を残しても、トラブルが民事裁判にまで発展するケース(発展可能性あるもの含む)は14%に止まり、その多くはトラブル等に発展しないか、示談・和解が成立して紛争解決に至っています。ただ、説明会後に遺族の不満が解消される割合が半数に満たず38%程度に止まっているのは、遺族への対応や説明に不十分な点があるのではないかと思います。より一層の配慮が求められます。
(2009年5月 センターニュース254号掲載)
日誌 その29 中立性や公平性、透明性の確保された院内事故調査を
              〜院内事故調査委員会の運営指針の 開発に関する厚生労働科学研究
●院内事故調査委員会の運営指針に関する厚生労働科学研究
 平成20年4月から、厚生労働科学研究補助金による研究として、「院内事故調査委員会の運営指針の開発に関する研究」が実施されています(主任研究者は、名古屋大学医学部附属病院医療の質・安全管理部准教授相馬孝博氏)。
 去る平成21年1月24日、同研究の中間成果報告会が東京都内で開催されました。そこで、研究班としてまとめたものではないとしながら、院内医療事故調査委員会運営指針案第1版(以下「第1試案」)が示されました。

●第1試案の概要
・医療における予期しない死亡や重篤な後遺障害の事例を、原則として、院内事故調査委員会を設置する対象事例とし、通常は通常型委員会を設け、「特に外部視点により医療事故を分析する必要がある場合」に限り特別型委員会を設ける。
・通常型委員会では、必要な専門家の人員が医療機関内に充分に存在しない場合に限り、医療専門家の外部委員の派遣を求め任命する(医療機関内に専門家人員が足りていれば外部委員を任命しない)。
・特別型委員会が設置される場合は、委員長を含んで3〜6名の医療専門家たる外部委員と、1〜2名の内部委員とで構成するものとし、医療専門家たる外部委員の他に、医療機関の管理者が指名した法曹と地域住民代表を外部委員に加えることができるとする。

●第1試案への疑問
 本研究について、厚生労働省から求められている重要な課題は、「中立性、公平性、透明性の確保の方策や外部の調査組織との連携の在り方についての提言を含める」という点にあります。第1試案が、かかる方策を示していると理解できるでしょうか。
 第1試案では、通常型委員会は、原則として内部委員のみで構成されるとされています。この点は、現に一部の医療機関内で実施されているM&M(病因死因)検討会やCPC(臨床病理検討会)の在り方とほとんど変わるところがなく、中立性や公平性、透明性がいかなる方策をもって確保されているのか、疑問があります。
 また、第1試案で特別型委員会を設けるとされているのは、医療安全管理者らが、「特に外部視点により医療事故を分析する必要がある場合」と判断した場合です。この基準が、具体的にどのような場合なのか不明確であり、医療機関だけの判断で、特別型委員会は設置されない傾向にならないかと危惧されます。さらに特別型委員会での外部委員にも、非専門家を加えることができるに過ぎず、非専門家の位置づけについて、疑問を感じます。
 なお、第1試案では、「予見可能性、予見義務、回避可能性、回避義務等の法的評価を行う場合には必ず、裁判官又は検察官経験者である法曹を外部委員として加える」としています。第1試案でも、事故調査委員会の目的は、原因究明と医療の質・安全の向上のための改善提案であるとして、「個人の責任を追及する場としない」とされています(この点は、異論のないことです)が、他方で、同時に、上記のような記述があることは、明らかに自己撞着に陥っています。委員会の設置目的について、研究班内での理解がすすんでいるのかという心配すら抱かされます。

●今後の研究推移にも要注目
 本研究は平成20年4月から2年の計画で進められ、約1年後に最終的な報告書が作成・提出される見込みとのことです。上記のように厚生労働省が示した課題に対して、実証的研究を積み重ねられ、慎重な検討のうえで、しかるべき提言を示していただきたいと思います。わたしたちも今後の研究動向に注目していく必要があります。
(2009年3月 センターニュース252号掲載)
日誌 その28 動き始めた産科医療補償制度 〜果たして原因分析のあり方は?
●補償開始に伴い出産育児一時金が増額される
 いよいよ、平成21年1月1日以降に出生した児から、産科医療補償制度による補償が開始されます。
 この補償制度の補償開始に伴い、健康保険や国民健康保険に基づく保険給付として支給されてきた出産育児一時金の額が、平成21年1月1日より3万円増額されます(これまでは35万円であったものが38万円に増額されます。ただし国民健康保険などで一部支給額に違いあり)。
 この3万円という金額は、補償制度において分娩機関が運営組織((財)日本医療機能評価機構)に掛金として1分娩当たり3万円を支払うとされていることに対応しています。分娩機関が運営組織に支払わなければならない掛金3万円の分だけ出産費用が増額される可能性があるため、それを公的医療保険の財政で賄い、妊産婦に新たな負担を負わせないようにするものです。

●補償制度の余剰金は損保会社へ
 公的医療保険の出産育児一時金の額を3万円増額すると決めるに当たり、去る平成20年9月12日、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会で審議がなされていますが、審議経過の中で注目すべき内容が明らかになっています。補償制度に投入される上述のような公的医療保険の資金を元手にして、損害保険会社が多大な利益を上げる可能性があるという点です。
 すなわち、分娩件数は現在、年間100万件余りですが(平成19年の出生数は厚労省の統計で108万9,818です)、これに3万円を掛けた合計300億円くらいが補償制度の収入に当たり、ここから事務経費として52.4億円が支出されます。
 他方、補償対象者数は年間500〜800人と推計されています。1人当たりの補償金額が一時金・分割金合わせ合計3,000万円ですので、1年間の補償対象者に必要な補償金額の合計が150〜240億円と推計されます。
 補償対象者が推計上限の800人であっても損失が生じないように3万円という掛金額や出産育児一時金増額分が決められていますので、逆に、補償対象者が下限の500人程度に止まれば、1年当たりで90億円もの余剰金が補償制度の運営上生じる予定です。
 そして、この余剰金はすべて、補償制度の運営組織から保険料収入を得る損保会社の利益になってしまうということなのです。
 産科医療の崩壊を一刻も早く阻止するという理由で、民間の損害保険を活用する形で産科医療補償制度が立ち上げられましたが、投入される公的資金によって損保会社が多大な利益を上げる可能性があるという問題が浮かび上がって来ました。

●補償制度の収支を注視する必要
 上述の医療保険部会では、出席委員から、補償制度は民間の損害保険が活用されてはいるが、公的資金が注ぎ込まれており、その財務については透明性確保が必要だとの意見が出されていました。厚労省は、このような出席委員からの意見・疑問に答える形で、補償制度の収支状況については運営組織内の産科医療補償制度運営委員会に報告され公表することとしており、透明性の高い運営を行う、遅くとも5年後を目処に、制度内容について検証し、保険料の変更等について適宜必要な見直しを行う、と説明しています。今後の補償制度の収支状況を注視・監視していく必要があります。
 また、これまで損保会社には、医師賠償責任保険等の運営上多くの医療事故事案に関わってきていながら、審査過程の不透明、審査結果の理由に関する説明不十分、事故再発防止に役立つ医療事故情報の不提供といった問題点が指摘されてきました。損保会社が公的資金を原資に多大な利益を上げるようであれば、その分、医療安全実現に向けた公的活動を行うよう強く求めていく必要もあると思います。
(2009年1月 センターニュース250号掲載)
日誌 その27 動き始めた産科医療補償制度 〜果たして原因分析のあり方は?
●産科医療における無過失補償制度、いよいよ始動
 本年7月下旬より、(財)日本医療機能評価機構内の産科医療補償制度運営部において、分娩機関からの補償制度への加入申請受付が始まっていましたが、10月1日より妊産婦情報の登録手続が開始されました。
 分娩機関が補償制度に加入しても、評価機構に自らが妊産婦管理を行っている妊産婦の情報を登録しなければ、出生した児に重度脳性麻痺が発生しても補償対象外とされ、損害保険会社から保険金が支払われません。この意味で、妊産婦情報の登録は補償制度上重要な手続です。産科医療における無過失補償制度がいよいよ動き始めました。

●すでに分娩機関のほとんどが加入
 このような妊産婦情報の登録手続開始と同時に、産科医療補償制度のホームページが立ち上げられています(http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/)。分娩機関は妊産婦情報の登録をこのホームページ内の専用Webシステムにて行うことになっています。
 上記ホームページでは補償制度に加入したすべての分娩機関名が公表され、誰でも検索できるようになっています。
 分娩機関の全国的な加入状況や都道府県別の加入状況のデータもホームページに掲載されています。10月15日現在、全国3,259の分娩機関のうち、92.9%に当たる3,029の分娩機関が補償制度に加入したとのことです。評価機構では平成20年度中の分娩機関加入率を65%程度と見込んでいたようでしたが、それをはるかに上回る高率で制度加入が実現しているようです。

●補償は、来年1月1日以降出生の児が対象
 本年8月20日までに加入申請がなされた分娩機関では、来年1月1日以降に出生した児が補償対象となります。
 補償対象の認定申請は、原則として児の満1歳の誕生日から満5歳の誕生日までの間になされることになっています。例外的に児が重度脳性麻痺との診断を受けた場合、児が生後6ヶ月に達した日以降に認定申請ができるとされています。
 したがって、認定申請が実際になされるのは早くとも来年の7月1日以降ということになります。

●果たして原因分析のあり方は?
 産科医療補償制度運営部の中に運営委員会が設けられ、本年7月14日に第1回会合が持たれました。上記ホームページ上に会議録や配付資料が公表されています(このように運営委員会の会議録や配付資料のホームページ上での公表は、歓迎すべきです)。
 上記会合では、(社)日本産婦人科医会のワーキンググループ作成の、原因分析の実務運用に関する報告書が資料として配付されています。
 この報告書では、プロスペクティブに診療当時行うべきであった適切な分娩管理等は何かという観点で分析すべしとの主張が展開されています。原因分析報告書の記載例も添付されていますが、プロスペクティブに見て「現在一般に行われて適切な医療がなされたにもかかわらず、児の脳性麻痺発症を回避することができなかった事例と判断される」ため、今後の産科医療向上のために検討すべき事項も「特になし」とされてしまっています。プロスペクティブにヒューマン・エラーの有無や医療が適切であったか否かという点ばかりに焦点を当て、そのために掘り下げた検討を回避しようとする姿勢・傾向が見られます。
 事故原因分析は、分娩にかかる医療事故により脳性麻痺が発生する事態の再発をできる限り防止するためになされるものです。レトロスペクティブに根本原因にさかのぼって分析がなされる必要があります。
 今後原因分析委員会において実際に原因分析がどのようになされていくのか。原因分析の体制とともにそのあり方にも注目していく必要があります。
(2008年11月 センターニュース248号掲載)
日誌 その26 法案大綱案、公表される 〜医療死亡事故の原因究明・再発防止制度
●法案大綱案につき検討中
 厚労省が去る6月13日に公表した、医療死亡事故の原因究明・再発防止の役割を担う医療安全調査委員会の設置法案(仮称)大綱案について、当センターも意見書を提出すべく検討中です。
 常任理事会での議論内容を踏まえ、厚労省が本年4月に公表した第三次試案から大綱案がさらに後退してしまったのでは?という問題点に絞り述べたいと思います。

異常死が医療機関内の報告だけで対外的届出不要とされてしまう点
 7月号センターニュースの本欄でも述べましたが、第三次試案では、医療機関が対外的な届出を行った場合に初めて、医師法21条に基づく異常死の届出を不要とするとされていたのに対し、大綱案では、死体を検案した勤務医が医療機関の管理者に医療事故死等だと報告するという内部的な手続だけで医師法21条の異状死届出が不要とされ、勤務医からの報告後、管理者が対外的に届出をしたことを要しないとされています。
 しかし、このような医療機関内の手続では、大綱案のように、管理者に、報告を受けたことや勤務医との協議経過、医療事故死等への該当・非該当の判断をした理由などを記載した記録を作成・保存させたとしても、なお不透明感は払拭できません。記録の作成・保存によって手続も煩雑になってしまいます。そもそも医療事故死等と疑われるものも含めて広く届出をさせ原因究明を図る制度趣旨からして、死体を検案した医師が医療事故死等に該当すると判断した場合には、管理者に重ねて届出の要否を判断させる必要はないはずです。勤務医自身が対外的に届け出る負担も、ホットライン、FAX、ウェブサイト、メールアドレス等を整備することで大きく軽減することができます。
 したがって、勤務医に直接対外的届出をさせるなどして、第三次試案のとおり、勤務医あるいは医療機関の管理者のいずれかにより対外的に医療事故死等の届出がなされた場合に初めて、医師法21条に基づく所轄警察署への異常死の届出が不要とされるべきです。
 なお、当センターは、第三次試案が、医療機関の管理者が故意の届出懈怠や虚偽届出を行っても体制整備等を命ずる行政処分を科すに止め、刑事罰は科さないとしていた点について、刑事罰の対象とすべきだとの反対意見を述べていましたが(本年5月8日付け意見書)、医療事故死等に該当するか否かにつき大綱案のように医療機関の管理者に勤務医とは別個独立の判断をさせてしまうのであればなおさらのこと、故意・重過失の届出懈怠や虚偽届出に対し厳格に刑事罰の制裁を科すべきでしょう。

●調査チームが法律関係者の参画を得て構成されるか不明確な点
 第三次試案では、地方委員会の下に事例毎に置かれる調査チームについても法律関係者の参画を得て構成するとされていたのに対し、大綱案では、中央委員会や地方委員会の委員と異なり、調査チームを構成する臨時委員、専門委員については、「法律その他その属すべき中央委員会又は地方委員会が行う事務に関し優れた識見を有する者」のうちから任命されることが明記されていません。
 しかし、調査チームの調査結果に透明性・公正性・中立性を確保するためにも、調査チームにおいて適正・的確に診療経過等の事実経過の認定を行うためにも、そして、医療事故調査に付随する質問、調査等の処分権限が適正に行使されるためにも、調査チームに患者側代理人業務に精通した弁護士を中心とした法律実務家の参画が必須であり有用です。第三次試案のように法律関係者が調査チームにも参画することを今後の法案化や法律成立後の運用に際して明確化ないし実現化していくべきです。
(2008年9月 センターニュース246号掲載)
日誌 その25 法案大綱案、公表される 〜医療死亡事故の原因究明・再発防止制度
●法案の大綱案、公表される
 厚労省は、去る6月13日、医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案を公表し、意見公募(パブコメ)をしています。
 この大綱案は、厚労省が、本年4月に公表した「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案」(第三次試案)の内容を踏まえ法律案の概要をまとめたものです。


●届出義務の範囲は変わらず
 当センターは、第三次試案についてのパブコメで、医療死亡事故の原因究明・再発防止制度が公正、透明かつ実効的になされるためには事故の届出が適切になされることが必要であり、届出義務の範囲を「…に該当すると、医療機関において判断した場合」とする定義では、医療機関において恣意的な解釈のなされる余地が残ることから、「医療機関において判断した場合」との文言を削除するよう修正を求めていました。
 しかし、残念ながら、大綱案においても、上記文言と同趣旨の「医療事故死等に該当すると認めたとき」との文言が残されています。

●異状死届出義務との関係は?
 医師は、死体を検案して異状があると認めたとき、24時間以内の所轄警察署への届出義務が課され(医師法21条)、この義務違反には刑事罰(50万円以下の罰金)が科されることになっています(同法33条の2−1)。
 第三次試案では、この異状死届出義務は、医療機関が新制度に基づき医療死亡事故の対外的な届出を行った場合に免除されるとされていましたが、大綱案では、この点若干変更されています。すなわち、異状死体を検案した医師が勤務医である場合は、医療機関の管理者にその旨を報告しさえすれば異状死届出義務を免れ、その後、報告を受けた医療機関の管理者が医療死亡事故と認めず対外的に事故の届出をしなくとも、死体検案をした医師の異状死届出義務が免れるとされているのです。
 これは、異状死届出義務は死体検案を行った医師個人の義務で、24時間以内という時間制限があるため、当該医師が医療機関の管理者にしかるべき報告をした以上、その時点で異状死届出義務を免れることにしておかないと、その後の管理者による届出の有無で異状死届出義務違反に問われるか否かが左右されかねない、との考えによるものかもしれません。
 ただ、本当に当該勤務医が医療機関の管理者に報告したか否かは、医療機関の内部での出来事であるため、どうしても不透明感が残ります。医療機関の管理者には、勤務医から報告を受けた場合、勤務医との協議の経過や医療事故死等と認める認めないの判断をした理由を記載した記録を作成・保存する義務が課されるようですが、前述のとおり医療機関の届出義務の範囲につき恣意的な解釈の余地が残る中で、その届出義務に違反しても行政処分の対象にしかされないという大綱案の内容では、新制度の下、これまでの異状死届出義務を大幅に緩め、事故の届出が適切になされないことになってしまうのではないかとの強い懸念があります。

●患者・遺族の視点から多くの意見を
 法律制定へ向けいよいよ大詰めです。
 医療事故の原因究明・再発防止により医療安全を確保するという新制度の目的・理念に適ったあるべき制度となるよう、当センターも大綱案の内容をさらに検討し、厚労省に意見を提出していく予定です。
 まだ第三次試案についても意見公募中です。患者・遺族の視点からの意見を是非多く厚労省に届けましょう。
(2008年7月 センターニュース244号掲載)
日誌 その24 評価機構内に運営組織発足 〜産科医療無過失補償制度
●運営組織発足
 産科医療における無過失補償制度について、4月1日、(財)日本医療機能評価機構内に「産科医療補償制度運営部」が設けられ、同制度の運営組織が発足しました。
 去る1月23日付けで産科医療補償制度運営組織準備委員会の報告書が提出され、制度の骨格がまとまったところでしたが(報告書や制度の概要については、3月号の本欄を参照ください)、本年度内の制度創設に向けて、要となる組織が立ち上がったというところです。

●事務局体制
 評価機構内の上記運営部の中には、事務局として次の3チームが設けられ、次のとおり制度運営に関する事務を分担することになっています。
・総合調整チーム:制度全般の企画調整・運営統括、会計管理、庶務、広報等に関する事務
・審査チーム:補償対象の判定のための審査に関する事務
・安全対策チーム:事例の原因分析、再発防止に関する事務
3チームのうち、総合調整チームはこの4月から業務を開始していますが、審査チーム、安全対策チームの業務開始は、制度創設後になります。

●原因分析、再発防止の体制は?
 医療事故の被害者、家族は、単に経済的負担の補償だけを望んでいるのではなく、事故の原因が十分な調査により究明され、再発防止のための取組みが行われることによって、医療の安全性が確保され、同様の苦しみを負う患者や家族がいなくなることを心から願っています。1月23日付け報告書でも、事故原因の分析を行い同種事故の防止に資する情報の提供を、経済的負担の補償と並ぶ制度目的と位置付けています。
 ところが、原因分析、再発防止に関わる様々な事務を取り扱う安全対策チームに配属される職員数は、当初、わずか7名だとのことです。
 制度創設当初は控えに人員を配置したということがあるのかもしれません。本制度における運営組織としての収入は、分娩機関から支払われる保険料(その中に運営組織分の事務手数料等が含まれる)に依存していますが、分娩機関の保険加入が強制ではないため、加入率が完全に予測できない面も確かにあります。
 しかし、もともと本制度は、日本医師会が創設を提案したことに端を発しています。1月23日付け報告書でも原則としてすべての分娩機関が本制度に加入する必要があると謳っています。制度創設当初から少なくとも6〜7割の加入率が見込まれているようです。そうすると、1月23日付け報告書の推計によれば、制度創設当初から、1ヶ月当たり30〜40人程度の補償対象者について、原因分析等を行う必要が出てきます。事務局職員が7名で果たして十分でしょうか。原因分析委員会、再発防止委員会の委員がそれぞれ何名選任されるのかはこれから決まりますが、形だけの原因分析、再発防止に止まるのではないかとの懸念が、次第に現実味を帯びてきています。
 評価機構には、事務局体制を含めた人的体制の充実・拡充を是非検討いただきたいと思います。
(2008年5月 センターニュース242号掲載)
日誌 その23 産科医療無過失補償制度の骨格まとまる −準備委員会報告書の概要−
●準備委員会が報告書とりまとめ
 産科医療補償制度運営組織準備委員会(準備委員会)は、厚生労働省の委託事業として(財)日本医療機能評価機構に設置され、昨年2月から、産科医療において創設すべき無過失補償制度の内容について議論を行ってきていましたが、本年1月23日、報告書をとりまとめました。
 報告書で創設すべきとしている産科医療無過失補償制度の骨格は、以下のとおりです。

●無過失補償制度の骨格

【制度目的】
・分娩医療事故で脳性麻痺となった児、家族の経済的負担の速やかな補償と、事故原因分析、事故防止に資する情報の提供などにより、紛争防止、早期解決、産科医療の質向上を図ることを目的。

【仕組み】
・分娩機関と妊産婦との補償契約に基づき分娩機関から児に補償金支払い。
・分娩機関は、上記補償金支払による損害担保のため、運営組織が契約者となる損害保険に加入し、保険料を支払う。
・分娩機関の保険料負担に伴い、分娩費用引上げを想定。国は、出産育児一時金を保険料相当額引き上げる。
・国は補償内容につき標準約款で公示し、各分娩機関はこれに即して補償約款を定める。

【補償対象者】
・原則として、出生体重2,000g以上かつ在胎週数33週以上で脳性麻痺となった場合で、重症度が身体障害者等級1級および2級に相当する者。
・在胎週数28週以上で、(1)(2)いずれかに該当する児は、個別審査。
(1)低酸素状況が持続し臍帯動脈血中の代謝性アシドーシス(酸性血症)の所見が認められる場合(pH<7.1)。
(2)胎児心拍数モニターで特に異常のなかった症例で、通常、前兆となるような低酸素状況が、例えば前置胎盤、常位胎盤早期剥離、子宮破裂、子癇、臍帯脱出等により起こり、引き続き、【1】突発性で持続する徐脈、【2】子宮収縮の50%以上に出現する遅発一過性徐脈、【3】子宮収縮の50%以上に出現する変動一過性徐脈、以上のいずれかの胎児心拍数パターンが認められ、かつ、心拍数基線細変動の消失が認められる場合。
・先天性要因(【1】両側性の広範な脳奇形、【2】染色体異常、【3】遺伝子異常)、新生児期の要因(分娩後の感染症)により脳性麻痺となった場合は除外(分娩時に感染したと疑われたり、分娩後に感染したと明らかでない場合、「分娩後の感染症」に該当しないとみなす)。
・推計では年間500〜800人程度と見込む。

【補償水準】
・一時金:数百万円を対象認定時に支給。
・分割金:総額2,000万円程度を目処とし、20年分割で原則として、生存・死亡を問わず、定期的に支給(対象認定時に経過年分を支給)

【審査】
・補償対象か否かは、運営組織が審査。
・具体的には、産科医、小児科医が申請書類に基づき書類審査した後、判断困難事例中心に審査委員会が審査し最終決定。
・審査委員会は、毎月定期開催。産科医、小児科医、学識経験者等で構成。

【損害賠償金との調整】
・補償金と損害賠償金の二重給付防止のため、分娩機関に損害賠償責任がある場合は、分娩機関が損害賠償に関する金銭を自ら全額負担するとの考え方に基づき補償金と調整。

【原因分析】
・運営組織が実施。
・具体的には、産科医が報告書案を作成した後、原因分析委員会で検証・協議し最終確認。
・原因分析委員会は、毎月定期開催。産科医、助産師、学識経験者等を中心に構成。
・報告書は分娩機関と児・家族にフィードバック。
・分娩機関から運営組織への書類、データの提出を制度化。提出書類の種類、標準的に必要な記載事項、提出要領等を分娩機関に周知徹底。

【再発防止】
・運営組織内の再発防止委員会が、再発防止策の検討や公開の方法等につき協議・検討。再発防止策等を広く一般に公開、提言。
・再発防止委員会は、年数回程度開催。産科医、小児科医、助産師、患者の立場の有識者、学識経験者、関係団体等をメンバーとする。

【創設時期】
・平成20年度内を目指す。

●形だけの原因分析、再発防止とならないように
 報告書が、無過失補償制度の目的として、脳性麻痺児や家族の救済と、事故原因分析を通じた産科医療の質向上を掲げたこと、原因分析報告書を児・家族にフィードバックするとしたことなどは評価できます。
 しかし、想定件数が平成18年8月の日本医師会原案より増えている中、制度の要である運営組織がどのような規模、体制となるのか、まだ明確ではありません。当該分娩機関が再発防止策を採ったかどうかの検証も予定されていません。1件1件の原因分析が十分になされうるのか。制度目的とされた原因分析・再発防止が形だけに終わってしまわないか。そんな懸念が拭い去れません。今後のより詳細な制度設計にも引き続き注目が必要です。
(2008年3月 センターニュース240号掲載)
日誌 その22 医療事故全国一斉相談受付について
●全国一斉相談受付とは
 平成19年12月8日、医療事故全国一斉相談受付が行われました。
 この全国一斉相談受付は、・医療事故被害の実情を把握する、・医療被害者の法的救済を図る、・医療事故に関する社会の関心を高める、などを目的として、当センターが全国各地の医療問題弁護団・研究会、弁護士グループ等に呼び掛け、その協力を得て2年毎に実施されてきました。初めて実施されたのが平成3年10月。平成19年で9回目です。当センターは、この全国一斉相談受付の呼び掛けや、相談結果の集計などを事業の重要な一つとして行ってきました。

●事前広報が重要
 今回(第9回)の全国一斉相談受付の相談件数は、集計の結果、合計419件でした。
 第1回から今回までの相談件数の推移と、最高裁から発表されている医事関係訴訟の新受件数(地裁で新たに提訴された件数)の推移とを重ね合わせたグラフは、次のとおりです。
 全国一斉相談受付の件数が、年によって非常にバラツキがあるのが分かります。相談件数の多寡は、医療事故被害の実情やそれに対する社会の関心などを反映するというより、マスコミなどを通じた事前の広報の程度に左右されてしまう面が大きいようです。
 今回、私も愛知県の医療過誤問題研究会の一員として午前中2時間だけ相談を担当させていただきましたが、私に回ってきた相談電話は1件のみ。その内容も、必ずしも純粋な医療事故とは言えないものでした(ただ、全く相談がなかったわけではありません。私より修習期の若い弁護士が率先して(?)相談電話を取ってくれていたのです)。
 それでも、最終的に愛知県の窓口には、計41件の相談が寄せられました。昼の時間帯にTVでニュース報道され、午後、相談件数が増えたようです。全国では静岡県の44件に次ぐ件数でした。やはりマスコミ報道の影響は大きいようです。

●第10回へ向けて
 このように、相談件数自体は、事前の広報の程度に大きく左右されてしまうようで、これによって医療事故被害の実情を把握するには限界があります。平成3年当時と比べ、医療事故に関する社会の関心も随分高くなったのではないかと思います。
 しかし、だからといって全国一斉相談受付の意義が失われるわけではありません。
 医療事故被害に遭いながら、適切な相談窓口を知らず、きちんとした法的救済を受けられずに事実上泣き寝入りしてしまっている被害者の方はまだまだ多いのではないでしょうか。また、この全国一斉相談受付が、全国に患者側弁護士のネットワークを構築し、維持継続していく上で、貴重な機会になっている面もあります。
2年後は第10回記念(?)の全国一斉相談受付となります。事前の広報をどのように行えば効果的なのか。要検討です。
(2008年1月 センターニュース238号掲載)
日誌 その21 ADRでの医療紛争解決 −その現状と今後の課題−
●医療紛争ADRの動向
 東京三弁護士会は、平成19年9月から、紛争解決センター(東弁)、仲裁センター(一弁・二弁)の中に医療紛争を対象にした部門を創設しました。
 この医療紛争ADRの特徴は、三会共同で、医療紛争の経験豊富な患者側弁護士15名、医療機関側弁護士15名の仲裁委員候補者名簿を作り、この候補者の中から患者側1名、医療機関側1名の計2名が仲裁委員に加わり、話し合いを仲介するというものです。
 平成19年6月には、早稲田大学紛争交渉研究所(所長和田仁孝教授)が、医療紛争ADRを立ち上げるべくNPO法人「医療紛争処理機構」の設立を目指しているとの報道もありました。
 本年4月からADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)が施行されたこともあり、医療紛争ADRを立ち上げ、医療紛争をADRで解決していこうという動きが盛んになってきているようです。

●医療紛争の特殊性とADRでの紛争解決
 交通事故紛争では、(財)交通事故紛争処理センターや(財)日弁連交通事故相談センターといったADRがよく知られ、相当に活用されています。
 しかし、これまで医療紛争の解決に際しADRはさほど利用されて来ませんでした。
 医療紛争の場合、過失や結果との因果関係に争いのない事案が少なく、医療機関側の責任の有無自体が争われることも比較的多いと思います。そのため、両当事者の主張の隔たりが大きく、対決的にもなりやすいという側面があります。
 また、そのように争いのある事案を理解し適切な紛争解決を図るには、前提として医学の専門的知識が必要となることもしばしばです。だからといってADRの仲裁委員に医師を選任して必要な専門的知識を補おうとするのは、もともと多忙な上、診療科ごとにさらに専門分化されているため、なかなか事案に即した医師を確保すること自体難しいという問題と、医師には互いにかばいあう傾向があるのではとの中立性の観点からの懸念・問題があります。
 さらに、ADRでその事案にふさわしい解決案を提示しても、医療紛争の場合、ADRの裁定に保険会社が拘束される(財)交通事故紛争処理センターのような制度がありません。そのため、裁判外での紛争解決が保険会社の意向や判断に大きく左右されてしまう面があります。
 逆に保険会社が有責と認め、損害賠償責任に争いがない医療紛争については、ADRを利用するまでもなく当事者間の交渉で解決してしまう例も少なくないのではないかと思います。
 このような諸事情から、これまで医療紛争の解決にADRがあまり利用されて来なかったのではないかと思います。

●ADRの活用可能性と今後の課題
 仲裁委員の専門的知識を補い、中立性をどう担保するかという問題点を、医療紛争の経験豊富な患者側弁護士と医療機関側弁護士を仲裁委員に加えることで克服しようとする東京三会の試みは注目に値します。
ADRは、口頭中心の比較的簡略な手続でなされます。そのため、迅速な解決につながりやすくなります。また、当事者の要望や不満が権利義務の枠外にあるような場合であっても、ときに話し合いを通じて柔軟な解決を図ることが可能です。仲裁委員が話し合いを仲介するため、両当事者の対立の先鋭化を防ぎやすい面もあります。手続の簡略さや解決の迅速さに比例し、費用も少なくて済みやすいと言えます(ただし、紛争が解決した際に受けた利益に応じ手数料が必要となることがあり、注意が必要ですが…)。
 このようにADRでの紛争解決には利点も多くあります。
 これからの医療紛争のADRとして残された課題は、損害賠償責任の存否に争いのある医療紛争について、保険会社も巻き込みつつ、いかに適正かつ迅速に紛争解決できるような仕組みを作ることができるかという点にあると思います。その意味で、現在検討されている診療関連死の死因究明制度がどう構築されていくのかが注目されます。
 医療紛争解決に携わるわたしたち弁護士も、以上のようなADRの利点・特性やその限界を十分理解し、現状でも、保険会社が有責と認めている事案における賠償額の調整や、医療機関側の見解がはっきりしない事案における説明要請、回答の催促などでは、ADRの活用も十分考慮に入れることが必要でしょう。
(2007年11月 センターニュース236号掲載)
日誌 その20 平成18年の医療過誤訴訟の概況〜最高裁の統計より
●厚労省検討会での検討進む
 厚生労働省は、診療関連死の死因究明のあり方について、本年3月に同省が公表した試案をたたき台とし、幅広く各界有識者を集めて議論、検討を行うべく、同年4月、「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」(座長:前田雅英首都大学東京法科大学院教授。以下「検討会」)を発足させました。
 検討会は、本年4月20日を第1回とし、以後3週間に1回程度の頻度で精力的に開催されています。これまでは、寄せられたパブリックコメントの集約、遺族、医師、リスクマネージャーからのヒアリング、診療関連死の調査分析モデル事業の現状報告(第2回)、法医学会、病理学会、検察OBからのヒアリング(第3回)、診療関連死の調査分析モデル事業からの提言(第4回)などが順次行われてきて、議論、検討がなされてきています。
 検討会での配布資料や議事録等が厚労省ホームページ上で公表されていますので、ご参照ください。

●当センターの意見の概要
 厚労省は、検討会設置に先立ち、診療関連死の死因究明のあり方についてパブコメを募集し、当センターも去る4月19日に厚労省に宛てて意見書を提出しました。
 当センターが厚労省に診療関連死の死因究明のあり方として述べた意見の概要は、次のとおりです。
○真相究明、再発防止、医療安全を制度の基本理念とする。
○調査組織の設置は国が行い、中央に統轄機関を置いた上、都道府県単位あるいは地方ブロック単位で支部を設置する。
○調査組織の所管事務は、・診療関連死の死因・臨床経過の中立公正な究明、・再発防止策の策定、・遺族・医療機関双方に対する速やかな・・の結果報告、・再発防止策の実施状況の検証とする。
○医療機関が第1次的に自らの責任で十分な院内事故調査を行う。国は、院内事故調査委員会の構成(委員の半数以上を外部委員とし、その中に医療専門家や医療安全に造詣の深い法律家・市民などを含める等)や調査手順(遺族等からの事情聴取を含め、遺族等に経過報告し、意見陳述機会を確保する等)につき公正を担保しうる基準を法令等で定める。調査組織は、院内事故調査の上記基準適合性などの監視・監督、調査報告書の検証を行い、上記・〜・を行い、調査結果、再発防止策の公表も行う。調査組織には当該医療機関への立入調査権限を与える。調査組織は、院内事故調査が不公正・不適切と判断した場合は自ら調査を行う。かかる場合、国は当該医療機関に保険医療機関指定取消等の厳格な処分を科す。
○自ら院内事故調査委員会を設置困難な小規模医療機関の場合は、法人格を有する学会等が院外事故調査委員会を設置する。調査組織は、上記基準適合性などの監視・監督、調査報告書の検証等、上記同様の事務を行う。
○調査組織は死因調査のため解剖システムを構築する。死因調査に当たっては解剖実施を原則とする。
○調査組織の構成も公正さ・透明性確保が求められ、医療専門家と医療安全に造詣の深い法律家・市民などを構成員とする。
○診療関連死につき死亡から24時間以内の調査組織への届出を医療機関管理者に法的に義務付ける。同義務付けがなされた場合に医師法21条に除外規定を設ける。届出義務ある診療関連死の範囲は、日本学術会議平成17年6月公表の異常死の定義(遺族等が担当医の死因説明の合理性に疑義持つ場合も含める)を参考に画定する。
○診療関連で重大結果(重篤で永続的な障害等)が生じた事例も、同様の原因調査、届出義務の対象に含めるよう検討を継続する。
○遺族等からの申出による調査開始も可能とする。
○調査組織の調査結果を参照しつつ、裁判に至ることなく迅速に賠償を実現する無過失補償制度などの仕組みを別途検討する。

●今後の議論展開に注目
 死因究明から遺族等の被害救済へとどうつなげていくのか、患者側も医療側も納得していないという現在の訴訟による医療紛争処理をどう変えていくことが可能かなど、検討すべき課題は多く、また困難なものも含まれます。
 中立・公正で遺族等にとって納得のいく死因究明がなされるよう、今後も検討会での議論、検討から目が離せません。
(2007年8月 センターニュース233号掲載)
日誌 その19 平成18年の医療過誤訴訟の概況〜最高裁の統計より
●新受、既済、未済の件数
 平成18年の新受件数(地裁で新たに提訴された件数)は912件。平成16年をピークに平成17年から2年連続減少し、平成18年は概ね平成14年の水準に戻りました。

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●診療科目別割合
 新受件数のうち診療科目別の割合については、外科が平成17年に比べ7.1ポイント減少したところが少し目立ちます。

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●平均審理期間
 平成18年の既済事件の平均審理期間は25.1ヶ月。審理期間の短縮化傾向は依然継続中で、平成15〜17年が短縮幅やや鈍化の傾向を示していたのに対し、平成18年は再び短縮幅を伸ばす傾向を示しています。

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●判決と和解の比率
 平成18年の既済事件の終局区分のうち判決は35.3%、和解は53.3%。判決割合が減り、その分和解割合が増える傾向が続いて、この10年間では最も判決割合が減り、和解割合が増えています。

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●認容率
 判決の勝訴率(一部認容を含む)は35.1%。平成15年から徐々に低下していっており、ここ10年間では平成11年に次いで2番目に低い率になりました。

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(2007年6月 センターニュース231号掲載)
日誌 その18 診療関連死の死因究明のあり方 −厚労省がパブリックコメントの募集を開始−
●厚労省が意見募集中
 厚生労働省は、平成19年3月、「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」と題する試案を公表し、同年4月20日まで意見を公募しています(詳細は、電子政府の総合窓口 パブコメ欄を参照ください)。

●公表された試案の概要
 厚労省が公表した診療関連死の死因究明のあり方に関する検討課題やその方向性に関する試案の内容は、概略次のとおりです。
○診療関連死の死因究明を行う組織(調査組織)
・行政機関又はその中に置かれる委員会を中心に検討
・調査・評価委員会(仮称)と同委員会の指示の下で実務を担う事務局から構成
・検討課題は、死因究明のための現行の機構や制度(ex.監察医制度)との関係、調査組織の設置単位(全国単位、地方ブロック単位、都道府県単位)、調査実務担当者の人材育成のあり方など
○診療関連死の届出制度のあり方
・検討課題は、届出先(国又は都道府県が届出を受け付け、調査組織が調査する形か、調査組織が自ら届出を受け付ける形か)、届出対象となる診療関連死の範囲、医師法21条の異常死届出制度との関係など
○調査組織における調査のあり方
・検討課題は、死亡に至らない事例を届出・調査の対象とするか、遺族など医療機関側以外からの申出で調査を開始するか、解剖の必要性の判断基準など解剖の実施の仕方、電話受付から解剖実施まで迅速に行う仕組み、調査終了の基準、院内事故調査委員会等との関係や一定規模以上の病院等に対する院内事故調査委員会等の設置の義務付けの可否、調査過程・調査報告における遺族等に対する配慮など
○再発防止のための更なる取組
・検討課題は、調査報告書を通じて得られた知見や再発防止策等の集積・還元のあり方、再発防止策の医療機関における実施についての行政指導のあり方など
○行政処分、民事紛争及び刑事手続との関係
・検討課題は、調査結果・調査報告書が国による行政処分、当事者間の民事紛争、刑事手続でどう取り扱われるべきか

●医療被害者・遺族の視点から多くの意見を
 医療被害者・遺族は「五つの願い」(原状回復、真相究明、反省謝罪、再発防止、損害賠償)をもっています。診療関連死の死因究明のあり方は、この医療被害者・遺族の願いに密接に関わる重要な問題で、多くの検討課題が含まれます。
 当センターも、昨年の総会で「不審な死をどう裁く」と題するシンポジウムを開催し、診療関連死をめぐる法的問題や死因究明をどう再発防止につなげていくかなどを議論しました(詳しくはシンポ報告集や2006年7月号の本欄を参照ください)。
 厚労省では、平成19年度に診療関連死の死因究明のあり方について有識者による検討会を開催する予定で、寄せられた意見も踏まえ検討を進めていくとのことです。当センターとしても厚労省へ意見を提出する予定ですが、どなたでも意見を送ることは可能ですので、是非、医療被害者・遺族の願いをより実現する方向で検討がなされるよう、たくさんの意見を厚労省へ届けましょう。
(2007年4月 センターニュース229号掲載)
日誌 その17 予防的手術実施に当たっての説明義務 −最高裁平成18年10月27日判決
●意見書を自民党検討会に提出
 医療事故情報センターは、昨年12月27日、自民党医療紛争処理のあり方検討会に宛てて「産科医療における無過失補償制度」に関する意見書を提出しました(http://www3.ocn.ne.jp/~mmic/052ikennsyo.htm)。

●意見書提出の経緯
 日本医師会は、昨年8月に「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」を制度化するための原案(日医原案)を取りまとめ、これを平成19年度予算の概算要求に対する要望として厚生労働大臣に提出しました。このような日本医師会の動向については昨年8月号や11月号の本欄も参照ください。
 このような日本医師会の要望を受け、自民党は、翌9月より上記検討会を設けて制度化に向けての検討を進め、昨年11月29日、「産科医療における無過失補償制度」の枠組みを公表しました(http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2006/seisaku-027.html)。
 今回の意見書は、以上の経緯を踏まえ、日医原案に含まれる問題点などを患者側の視点で指摘し、患者のための制度として制度具体化を行うよう、自民党に求めたものです。

●意見書の概要
 提出した意見書の概要は次のとおりです。
*医療事故の被害者は、単に金銭的な補償だけでなく、事故原因の究明と再発防止を願っている。制度目的として、i)脳性麻痺児とその家族に対する経済的な補償の実施に加え、・)分娩に関わる医療行為による脳性麻痺発生の原因究明と再発防止策の実施をも明確に掲げるべき。
*事故原因の分析が形骸化しないよう、原因究明のための事実調査を行う組織は、都道府県単位で設置するべき。
*事故原因の究明のためには、基礎資料となる診療記録の質の向上が必要。診療記録の標準化のためのガイドラインを設けてその遵守を徹底するとともに、診療記録の保存に関する関連法規の整備が必要。
*事故原因究明のための事実調査の結果を記した報告書は、脳性麻痺児やその家族に交付するべき。また医療機関にも交付し、実際に再発防止策が実施されたか否かを検証するべき。
*分娩に関連する医療行為以外の要因が唯一の原因となって脳性麻痺が発生したことを明白に確認できない症例については、一定の生下時体重や在胎週数を満たさない場合であっても、補償の対象とすべき。
*医師賠償責任保険等の引受保険会社に対しては、公費投入を正当化しうるだけの、保険の運用に関する改革(収集した医療事故情報による事故再発防止、保険審査結果の当事者への説明など)を求める必要がある。

●今後の動向
 厚生労働省は、来年度中に制度の運用開始を目指し、本年2月中に日本医療機能評価機構に無過失補償制度の運営委員会を設け、そこで補償の対象や金額、事故原因の究明のあり方など、制度の詳細をとりまとめる意向だと報じられています。
 検討の場が自民党から日本医療機能評価機構に移されるようですが、引き続き、制度の具体的内容が真に患者のためのものとなるよう注視していかねばなりません。
(2007年2月 センターニュース227号掲載)
日誌 その16 予防的手術実施に当たっての説明義務 −最高裁平成18年10月27日判決
●はじめに
 最高裁は、平成18年10月27日、未破裂脳動脈瘤の予防的手術に関し、担当医に説明義務違反がないとした原判決を破棄差戻しする判決を下しました(最高裁HP中の最高裁判所判例集参照)。

●事案の概要
 事案は、概略次のとおりでした。
 平成8年1月、左内頚動脈分岐部に動脈瘤が認められた患者に対し、担当医は、1)放置しても6割は破裂しないので治療しなくても生活を続けられるが、4割は今後20年の間に破裂するおそれがある、2)治療するなら、開頭手術かコイル塞栓術、3)開頭手術では95%が完治、5%は後遺症が残る可能性あり、4)コイル塞栓術では後にコイルが患部から出てきて脳梗塞を起こす可能性あり、と説明。患者は、開頭手術を行うことを希望。
 手術前日のカンファレンスで、動脈瘤体部が脳の中に埋没するように存在していること等から開頭手術は困難と判断し、まずコイル塞栓術を試し、うまくいかないときは開頭手術を実施との方針へ変更。患者には、開頭手術は危険なのでコイル塞栓術を試してみようとの話がカンファレンスであったことを告げ、コイル塞栓術には開頭不要との利点があり、これまで十数例すべて成功している、うまくいかないときは無理をせず、直ちにコイルを回収してまた新たに方法を考える、コイル塞栓術には術中を含め脳梗塞等の合併症の危険があり、合併症により死に至る頻度は2〜3%、と説明。患者はコイル塞栓術に同意。
 翌日の術中、コイルの一部が瘤外に逸脱し瘤を塞栓できず、コイル塞栓術中止。コイル回収が試みられたが、回収できず。開頭手術で瘤内のコイルは除去できたが、内頚動脈内に移動したコイルの一部を除去できず。逸脱したコイルによる左中大脳動脈の血流障害から脳梗塞を発症し約2週間で患者は死亡。

●本判決の内容
 本判決は、最高裁平成13年11月27日判決(乳房温存療法事件。民集55・6・1154)の医師の説明義務に関する一般論部分を引用した上、「医師が患者に予防的療法(術式)を実施するに当たって、医療水準として確立した療法(術式)が複数存在する場合には、その中のある療法(術式)を受けるという選択肢と共に、いずれの療法(術式)も受けずに保存的に経過を見るという選択肢も存在し、そのいずれを選択するかは、患者自身の生き方や生活の質にもかかわるものでもあるし、また、上記選択をするための時間的な余裕もあることから、患者がいずれの選択肢を選択するかにつき熟慮の上判断することができるように、医師は各療法(術式)の違いや経過観察も含めた各選択肢の利害得失について分かりやすく説明することが求められる」と判示。
 その上で、上記事案について、開頭手術では神経等損傷の可能性あるが、コイル塞栓術より術中の瘤の破裂に対処しやすいこと、コイル塞栓術では、神経等損傷の可能性少ないが、動脈塞栓が生じて脳梗塞が発生する可能性や、動脈瘤が破裂した場合は救命困難との問題があり、かかる場合いずれにせよ開頭手術が必要になることや、カンファレンスで判明した開頭手術に伴う問題点について分かりやすく具体的に説明した上で、開頭手術とコイル塞栓術のいずれを選択するのか、いずれの手術も受けずに保存的に経過をみることとするのかを熟慮する機会を改めて与える必要があったと判示しました。

●本判決の意義
 本判決は、複数の選択肢がある場合には患者が熟慮の上で判断できるよう説明することを求めた判決ですので、その射程は、未破裂脳動脈瘤の予防手術に限らず、予定手術の術前説明全般に及ぶ可能性を秘めています。今後の下級審に与える影響が注目される重要判決です。
(2006年12月 センターニュース225号掲載)
日誌 その15 看護師による助産行為問題の新たな動向について
●違法な医療慣行
 去る8月24日、神奈川県警により、横浜市内の堀病院やその関係先に捜索差押えが行われ、これが大きく報道されました。容疑は、産婦に対する内診行為を看護師や准看護師に行わせていたという保健師助産師看護師法違反です。
 報道によれば、捜索を受けた病院側は、産婦に対する内診行為を看護師などに行わせていた旨認めているとのことです。
 弊センターは、一昨年来、内診行為は医師・助産師しか行うことができず、助産師の資格を有しない看護師に内診行為を行わせることは保助看法に違反し、そのような違法な医療慣行は早急に改められるべきだと述べてきました(弊センターホームページ掲載の厚生労働大臣日本産婦人科医会に対する申入書厚生労働省内の検討会宛の意見書をそれぞれ参照ください)。今回の報道によれば、保助看法に反する違法な医療が、年間出産数が国内有数の約3,000人にも及ぶ病院で大々的に行われていたということです。誠に残念であり、また、問題の根の深さも感じます。違法な医療慣行が早急に改められるよう、改めて国には、医療機関などへの一層の指導の徹底とともに、助産師の就業促進を図るなどの対策を取ることが求められます。

●日本産婦人科医会の見解
 ところで、この警察による病院への捜索について、日本産婦人科医会は、去る8月30日付けで、次のような見解を公表しています。「本会としては、『法解釈上、少なくとも、…分娩第・期の内診は助産に該当しない』と考えるので、厚生労働大臣には、現行の枠内でも分娩第・期の内診は出来るように、あるいは、出来ないのであれば、保助看法の考え方を変えるように、本会会長として、要望し続けてきた。」
「今回の堀病院に対する、保助看法違反の容疑に対する家宅捜索に関しては、…(その容疑が)本会が求めてきた、分娩第・期の内診行為だけであったとすれば、警察当局の、今回の大掛かりな捜査は、極めて不当である。」「今回の事件の有無にかかわらず、本会の姿勢は、決して変わるものではない。」

●見解の不当性
 しかし、弊センターが意見書などで指摘してきているとおり、分娩進行が正常範囲から逸脱しているか否かは、内診を構成する多数の診察項目の相関・対応関係を総合して判断されるもので、内診は単なる計測に止まらない高度な医学的判断を本質とする診断行為です。したがって、このような診断行為は、それについて十分な教育を受け、国家の資格試験によって知識・技術があることを確認された者によりなされる必要があります。このことは分娩第・期(分娩開始から子宮口全開大まで)においても変わるところはありません。分娩第・期における内診のみを保助看法3条にいう「助産」から除外する解釈に合理性はなく、日本産婦人科医会の上記見解は不当と言わねばなりません。
 助産師数の絶対的不足が言われ、それが上記見解の実質的根拠のようです。しかし、助産師試験の過去30年間の合格者の累計は4万4,000人を超えると推計されます。助産師資格保有者の就業促進を図ることこそが正しい解決策と言うべきです。
 日本産婦人科医会の動向も含め、今後もこの問題には注目していきたいと思います。
(2006年10月 センターニュース223号掲載)
日誌 その14 和解条項アンケートの結果報告
●アンケート実施の趣旨
 医療事故事案は、通常の民事事件に比べ、和解で解決する例が少なくありません。平成13、14年頃からは、医事関係訴訟の既済事件終局区分のうち、和解の割合がより一層の増加傾向を示しています(当ニュース本年6月号本欄参照)。
 ところが、このような医療事故事案の和解や示談に際し、昨今、医療機関側が謝罪したり再発防止の約束をしたりする事例も増えてきている一方で、医療機関側から和解内容を公表しないようにとの要望が出され、その旨の条項が合意される事例もあるようです。
 そこで、弊センターは、医療事故事案での和解や示談において入れられている、賠償金支払条項以外の和解条項の実態・内容を調査すべく、去る6月1日付けで正会員の方々にアンケートを実施いたしました。
 なお、できるだけ簡易に回答いただけるよう、アンケート内容は、次の・・につきごく簡潔に質問をさせていただきました。
・代理人として関与した医療事故事案のうち、平成17年1月1日以降に成立した和解や示談について、その条項中に賠償金支払条項以外の条項が入れられたことがあったか否か。あったとすればその条項内容。
・賠償金支払条項以外の条項を入れることについての、最近の傾向、執務方針などの意見(自由記載)。

●アンケート結果
 8月15日現在、60名の方々からご回答いただきました。うち平成17年以降に成立した和解や示談に賠償金支払条項以外の条項が入れられたことがあったのは39名、なかったのは21名でした。
 賠償金支払条項以外の条項が入れられたと回答された方から、謝罪条項、再発防止条項、その他の条項の例が42件分寄せられるとともに、非公表条項その他の条項が17件分寄せられました。
 また、賠償金支払条項以外の条項を入れることにつき最近の傾向や執務方針など数多くのご意見もお寄せいただきました。

●アンケート結果を踏まえて
 回答数が必ずしも多くないため、実情をどこまで把握できたか分かりませんが、アンケート結果から以下のように感じました。
・医療事故事案に熱心に取り組む患者側弁護士の方々には、謝罪条項・再発防止条項を積極的に意義付け、できる限りこのような条項を和解や示談の際に入れてもらえるよう努力されている方が多い。
・どのような文言、形式で、医療機関側に謝罪や再発防止の誓約をしてもらうかについて、各患者側弁護士が事案毎に様々な配慮・工夫を凝らしている。
・「みだりに」「正当な理由なく」「第三者に 公表しない」という抽象的文言による非公表条項は、公表禁止範囲が不明確で、公表に対する萎縮効果をもたらしかねない。非公表により当該事故の教訓が社会に還元されないこととなる。かかる条項を入れるのはできる限り慎重であるべきだ。
・仮に医療機関側に非公表の強い要望があっても、公表に当たり当該医療機関が識別されないよう配慮することで足りないか、他の医療機関における同種事故の再発予防のためにマスコミへの公表も禁止されないよう配慮すべき事案ではないか、少なくとも同種事故事案の解決の参考に供するため、研究会や勉強会などで公表することまで禁止されないよう配慮すべきではないか、などを十分検討する必要がある。
(2006年9月 センターニュース222号掲載)
日誌 その13 平成17年の医療過誤訴訟の概況〜最高裁の統計より
●新受、既済、未済の件数
 平成17年の新受件数(地裁で新たに提訴された件数)は999件。平成16年より100件余り減り、平成15年の水準に戻りました。増加が頭打ちの状態になってきたようです。

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●診療科目別割合
 新受件数のうち診療科目別の割合は、平成16年、平成15年と比較しても大きな変化は見られませんでした。

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●平均審理期間
 平成17年の既済事件の平均審理期間は26.8ヶ月。
 審理期間の短縮化傾向は続いていますが、平成15年より短縮幅がやや鈍化しつつあります。

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●判決と和解の比率
 平成17年の既済事件の終局区分のうち判決は37.4%、和解は50.0%。判決の割合が減り、その分和解の割合が増える傾向が見られます。

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●認容率
 判決の勝訴率(一部認容を含む)は37.8%。やや低下気味ですが、ここ10年間ほぼ4割前後を推移しており、大きな変化ではないようです。

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(2006年6月 センターニュース219号掲載)
日誌 その12 医療過誤に対する行政処分の動向 −民事訴訟判決に基づく処分数は増えず−
●行政処分数が過去最多
 平成18年3月1日、厚生労働省により、医師34名、歯科医師24名、計58名に対する行政処分が発表されました。平成17年7月に発表された医師27名、歯科医師6名、計33名に対する行政処分と合わせ、平成17年度中に合計91名の医師・歯科医師に対し行政処分がなされたことになり、過去最多とのことです。
 ただ、報道によれば、厚労省は、このような行政処分増加の要因について平成16年以降法務省から判決結果の情報提供を受けられるようになったため処分漏れがなくなったことにあると分析しているようで、実際、発表された処分理由を見ても、多くが、医療行為と関係なく犯罪を犯し刑事事件の有罪判決を受けた事例であることが窺われます。

●民事訴訟判決に基づく処分
 既に本欄でもご紹介しているとおり、平成14年12月に、医道審議会医道分科会で、刑事責任を問われなかった医療過誤についても、明白な注意義務違反が認められる場合などは、行政処分の対象とするとの方針が打ち出されていますが、今回の58名のうち刑事責任を問われなかった医療過誤について処分がなされたのは、わずか1名のみでした。旧富士見産婦人科医院の医師らに対する行政処分に続く2例目とのことで、具体的には、美容外科の医師が、全身麻酔下で豊胸手術を行った際、麻酔管理を十分行わなかった過失により患者を植物状態に至らしめたと民事訴訟判決(東京地方裁判所平成15年11月28日判決)で認定され、医療過誤を犯した後、医師が診療録や麻酔記録に虚偽記載をなしたとの認定も同判決でなされた事例でした。

●棚ざらし状態が継続
 最高裁公表の統計データで、医事関係訴訟で一部認容も含めた認容判決は、平成16年は、年間約160件なされている計算になります(判決数は年405件、認容率は39.5%)。このように医療過誤が民事訴訟判決で認められた数からすると、平成14年12月に前記のような方針が打ち出されてから3年余り経過してようやく2例目というのは、やはり明らかに少ないと言えます。厚労省では患者から行政処分を求められた事例の多くに調査の手がついていない状態が続いているようです。

●行政処分の動向には今後も注目
 国民の医療に対する信頼を確保し、適切な医療提供を期するという医師に対する行政処分制度の趣旨に照らし、少なくとも患者から行政処分を求める申立てがあった事例については、医療過誤の原因について迅速かつ的確な調査を行った上、当該医師に対する行政処分の要否について適切な結論を導き出す必要があります。
 報道によれば、厚労省は今国会で医師法などを改正し、これまで任意で行ってきた医師からの事情聴取やカルテなどの提出、医療機関への立入りなどを強制的にできるようにし、平成19年度から担当職員も増員して抜本的な体制整備に乗り出すとのこと。今後も行政処分の動向には注目していきたいと思います。
(2006年 センターニュース217号掲載)
日誌 その11 医療法改正の動向
●医療提供体制に関する審議会意見
 厚生労働省の設置した社会保障審議会医療部会は、平成17年12月8日、医療提供体制に関する意見をとりまとめました(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/12/s1208-3.html)。この意見内容を踏まえて近々厚労省において医療法改正案が策定され、医療法の改正がなされると見込まれています。

●意見の概要−患者の権利、医療安全との関連で
 審議会意見のうち、患者の権利や医療安全に関連すると思われる点の概要をいくつかご紹介します。
 まず第1点として、医療法の全体的な構造を、これまで施設規制法の性格が強かったものを、患者の視点に立ったものへと見直すとされています。
 第2点として、患者・国民の選択を支援する観点から医療や医療機関に関する情報提供を推進するとしています。より具体的には、・都道府県が医療機関から一定の情報を届け出させてインターネット等で公表する、・広告規制制度を見直し、個別列記ではなく、一定の性質を持った項目群ごとに規定する包括規定方式を導入し、広告可能な内容を相当程度拡大したりする、・その他、インターネットによる情報提供にガイドラインを設けてその普及を図る、入院時の入院診療計画の策定、患者への交付・説明を義務づける、EBMの普及を図る、といった様々な情報提供推進策を実施する、とされています。
 第3点として、医療安全対策を総合的に推進するとしています。具体的には、病院、診療所、助産所に対し、安全管理体制、院内感染制御体制、医薬品、医療機器の安全使用・管理体制についての基準を整備する、助産所に対し産科の嘱託医師の他に連携医療機関を定めるよう義務付ける、医療事故等事例の原因究明・分析に基づく再発防止策の検討を行う、といったことが挙げられています。
 第4点として、医療従事者の資質の向上を図るとしています。具体的には、医師や看護師などで行政処分を受けた者に対して再教育の受講を義務づけるとともに、長期の医業停止処分等の見直し、戒告の新設等の見直しを行う、専門医の育成のあり方について検討する、などとされています。
 意見書は、その他、医療機能の分化連携の推進、母子、救急、災害、へき地の各医療体制の整備、医療法人制度改革、医療を支える基盤の整備などにも言及されています。

●意見の方向性−患者の視点、患者のため
 「患者の視点に立った、患者のための医療提供体制の改革を基本的な考え方とすべき」
審議会ではこの共通認識のもとで議論がなされたとのことです。意見書の医療法改正の方向性も、自分が受ける医療や医療機関のことを知りたい、安全な医療を受けたいと願う患者の利益に概ね適ったもので、肯定的に評価できると思います。

●今後の注目点
 今後は、実際の法改正が、患者の視点に立ち、患者のために、どのような内容でなされるか注目です。
 また意見書では医療関連死の原因究明制度の具体化に向けた検討を進める必要ありとされていますが、同制度に基づく原因究明結果が、単に再発防止策の検討に用いられるだけに止まらず、患者・遺族の被害救済のためにも活用されるような、真に患者・遺族の視点、患者・遺族のための制度設計が望まれます。
(2006年2月 センターニュース215号掲載)
日誌 その10 厚労省検討会へ意見書提出看護師助産問題の動向−
●厚労省検討会へ意見書提出
 当センターは、去る10月27日付けで、医療過誤問題研究会、医療問題弁護団と連名で、厚生労働省の「医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法等のあり方に関する検討会」に対し意見書を提出致しました。

●意見書提出の経緯
 この検討会は、患者の視点に立ち安心安全な医療を確保するとの観点から、看護職員に関する複数の重要検討課題について一定の方向性を出し、社会保障審議会医療部会の取りまとめに役立てるために本年4月より設けられたものですが、検討事項の一つには「産科における看護師等の業務」が挙げられていました。
 この検討事項は、昨年10月に日本産婦人科医会が厚労省医政局長宛に出した要望書に端を発し、当センターが昨年11月に厚生労働大臣宛意見書を、本年5月に同医会宛申入書をそれぞれ出していた、看護師による産婦への内診実施を認めるべきか否かという問題が念頭に置かれたものでした(前者意見書提出経緯につき当ニュース平成17年1月号本欄を参照ください)。
 そして、検討会では、去る9月5日開催の第9回会合で上記事項につき検討がなされ、その際日本産婦人科医会から検討会に同日付けで、看護師に産婦内診を許容するのが必要であり、現行法解釈上も可能だという趣旨の意見書が提出されました。
 当センターは、分娩に関わる母子の安全を図るためには保健師助産師看護師法の正しい解釈とその遵守徹底が必要だとの立場から、これまでこの問題に関わって参りましたが、検討会において誤った現行法解釈論や立法論が取りまとめられることのないよう、この度、2つの弁護団と共同で検討会宛に急ぎ意見書を提出するに至ったものであります。

●意見書の概要
 今回提出した意見書では、
1)産婦の内診が、多数の診察項目から得られる多様な情報を総合的に分析して分娩進行の正常・異常を判断する高度な診察行為で、医師の指示の下でも看護師に実施させることが許されない絶対的医行為に該当すると解すべきこと
2)立法論的にも、看護師に産婦内診を許容する方向での法改正は、母児の安全という見地から妥当でないこと
3)助産師の就業促進等をこれまで以上に推進し、看護師による内診実施という違法な医療慣行を早急に改めるよう強く指導を行うことが、国としての正しい施策であること
 以上を理由を付して明らかにしました。

●安心安全な医療という視点からの検討を
 日本看護協会や日本助産師会から検討会に参加している委員や、市民団体「陣痛促進剤による被害を考える会」からも、相次いで上記意見書と同旨の意見書が検討会宛に提出されるに至っています。
 患者の視点に立ち安心安全な医療を確保するとの観点から問題を検討することが検討会の設置目的です。この設置目的に沿った検討が改めて強く求められていると言えます。
(2005年(2006年 センターニュース213号掲載)
日誌 その9 義務的報告制度、第2回報告の内容
●第2回報告
 日本医療機能評価機構医療事故防止センターは去る7月29日付けで医療事故情報収集等事業第2回報告書を公表しました。
 医療事故の義務的報告制度(任意参加医療機関からの報告を含む)については、本欄でこれまでご紹介して来ましたが、本誌206号の本欄でご紹介した第1回報告に続く2回目の報告です。
 第2回報告では、本年4月〜6月の3ヶ月分の報告も含め、制度発足の昨年10月から9ヶ月分の報告の概況と、個別テーマについての検討状況とが公表されています。

●9ヶ月分の報告の概況
 第2回報告書によれば、544の医療機関(ただし本年6月30日現在)から9ヶ月間に合計889件の事故報告があり、報告義務医療機関(275施設・病床数総計14万7,947床)からの報告が889件中790件(88.9%)を占めているとのことです。任意参加医療機関からの事故報告が極めて少ない状況にはまだ変わりがないようです。
 また、今回の報告では9ヶ月間の報告件数別の報告義務医療機関数が明らかにされています。これによると、報告義務医療機関275施設中125施設(45.5%)については9ヶ月間で報告件数ゼロのようです。他方、9ヶ月間で41件以上の事故報告をした医療機関が2つあったとのことです。わずか2つの医療機関(0.7%に相当)が報告義務医療機関からの報告件数のうち1割を超える事故報告をしている一方、半数近い報告義務医療機関からは事故報告が全くありません。医療機関ごとの事故報告状況に相当バラツキのあることが明らかとなっています。これが、医療機関ごとの事故発生件数の違いをそのまま反映したものであるのか、それとも事故報告体制の違いに基づくものであるのか、検証を十分に行う必要があると思います。

●個別テーマについての検討状況
 第1回報告以降、1)一般性・普遍性、2)発生頻度、・患者への影響度、3)防止可能性・回避可能性、4)教訓性といった観点から個別テーマが設定され、そのテーマに絞った分析・検討がなされています。そして、第2回報告では、(i)手術における異物残存、(ii)薬剤に関連した医療事故の2テーマについて、報告事故ごとの発生原因の分類整理などがなされています。
 ただ、事故発生を防止するための具体的方策の提言には至っていません。制度発足から9ヶ月余り経過したにすぎない段階ですから、無理なのかもしれませんが、9ヶ月間に訪問調査が行なわれたのが2件に止まっているようであり、分析調査の体制が十分であるのか、疑問がないとは言えません。

●根本原因の分析に基づく提言を
 医療事故の発生予防・再発防止の観点から事故分析を行うに当たっては、事故発生直前の人為的ミスなどの直接的要因ではなく、医療プロセスや医療システムの欠陥などの根本原因(Root Cause)にまで掘り下げた分析が必要だと言われています。そしてそのためには、労を惜しまず詳細な事実調査を行うことが必要となります。
 医療事故防止センターによる更なる調査検討を期待しつつ、今後の報告・提言内容を見守りたいと思います。
(2005年 センターニュース211号掲載)
日誌 その8 医事関係訴訟委員会の答申内容は不十分
●医事関係訴訟委員会の答申とは
 平成17年6月、医事関係訴訟委員会(以下「委員会」)が最高裁に答申を出しました(最高裁HP→お知らせコーナー→医事関係訴訟委員会について→7医事関係訴訟委員会答申について)。
 委員会は、平成13年6月に最高裁内に設置された機関です。医事紛争事件を専門家の協力を得て適正かつ合理的期間内に解決するという目的の下、同事件の係属裁判所等の依頼に基づく最高裁の求めに応じ鑑定人等の選定を行うとともに、同事件の運営に関する一般的事項を調査審議し最高裁に意見陳述する任務を負っており、今回の答申は本来この意見陳述に当たるものです。

●委員会に注目して来た
 委員会については、この嘱託日誌でも何度か取り上げ、その動向には注目して来ました。
 また、当センターは医療問題弁護団(東京)などと共同で、平成15年4月、委員会に対する要望を意見書の形で提出しました(http://www3.ocn.ne.jp/~mmic/043ikennsyo.htm)。その内容は、医事紛争事件を「適正」に解決するためには鑑定人による鑑定の質が確保される必要があり、鑑定の「質」を確保するためには、透明性の高い鑑定環境を確保し、医療界に相互批判を認める非封建的な文化を醸成させる必要がある、そのためには、単に鑑定人を選定するだけでなく、・選定した鑑定人による鑑定書の公表、・鑑定人候補者の推薦依頼をした学会に対し、推薦手続の透明化と鑑定書内容の評価制度の確立を促すこと、・委員会自身による鑑定書内容の評価、をなされたい、というものでした。

●答申の内容は
 この度出された答申は、そのほとんどが、鑑定人候補者推薦依頼システムの構築とその円滑な運営を目指して活動したという委員会の活動報告です。医事紛争事件の運営に関する一般的事項については、基本的に審議経過が述べられているだけです。そして当センターなどが上記のとおり要望した点については、委員会の意見として全く反映されていません。
 審議経過に触れた箇所では、委員会が鑑定書を公表したり、その内容を評価したりしたらどうかとの意見が出たと紹介されています。しかし、それも、鑑定をより一層多くの医師に引き受けてもらうためには、鑑定を行うことが医師としての評価につながるようにする必要があり、そのためには鑑定書の公表や内容評価を行うのがいいという趣旨です。結局、個別事件の鑑定内容を委員会が評価するのは危険だとの意見が出たりして、上記意見も委員会意見としてまとまっていません。

●一方に偏り不十分
 医事紛争事件でなされる鑑定の中には、誠実性、論理性、科学性を欠く、いわば「質」に問題ある鑑定が少なからず存在し、それが事件の「適正」な解決を阻害しているという現実があります。委員会の答申では、この問題を克服するための意見が何ら述べられませんでした。個々の鑑定内容の評価には抵抗があるとしても、少なくとも鑑定書を公表する方針は打ち出せたのではないか。事件を「合理的期間内に」解決すること、鑑定人の確保が困難で、かつ時間が掛かり過ぎるという、鑑定のいわば「量」の問題を克服することにばかり目を奪われたもので、答申内容は一方に偏り不十分だと言わねばなりません。
(2005年 センターニュース209号掲載)
日誌 その7 医療事故調査の在り方について
●医療問題弁護団による意見書の発表
平成17年5月、東京の医療問題弁護団(http://www.iryo-bengo.com/)によって、「医療事故調査の在り方に関する意見書」が発表されました(詳細は、同弁護団のホームページをご覧ください)。
 医療事故が発生した場合に当該医療機関内で行われる医療事故調査は、これまで各医療機関ごとの様々な考え方に基づき行われ、同調査のために医療事故調査委員会が設置される場合も、その組織形態や運営方法などは区々でした。
 上記意見書は、このような医療事故調査の現状に鑑み、医療事故調査や同調査委員会のあるべき姿について詳細な検討を加えたものです。

●意見書の内容
 公表された上記意見書の概要を一部ご紹介します。
・医療事故調査の目的は、事故原因究明により、・当該医療機関における事故の再発防止だけでなく、・他の医療機関における同種事故の発生予防、さらには・被害者らの被害救済をも図る点にあると捉えるべき。
・医療法施行規則によって、医療機関は医療事故が発生した場合にはすべて医療事故調査を実施すべき義務があり、重大な事故事例では医療事故調査委員会を設置して調査を実施すべき義務がある。
・医療事故調査では、被害者らから初期の段階で意見聴取すべき。
・医療事故調査委員会を設置する場合、少なくとも外部委員として患者側弁護士や事故調査手法に知見を有する有識者が加わる形態で組織されるべき。委員会開催要項を事前に医療事故被害者らに伝え、同被害者らが求めれば、原則として議事の傍聴を認めるべき。認めない場合は速やかに議事録を同被害者らに交付すべき。
・医療事故報告書は被害者らに交付し、事故原因等につき説明すべき。
・医療事故調査の結果は原則公表すべき。公表に当たり被害者らのプライバシーに配慮すべき。

●政府への要望書の提出
 医療問題弁護団では、上記意見書公表とともに、厚生労働大臣及び文部科学大臣宛に、・全国の医療機関が医療法施行規則に基づき、医療事故調査を実施するように、そして重大な事故事例については医療事故調査委員会を設置して調査を行うように指導されたい、・医療事故調査の在り方につき適切なガイドラインを作成し全国の医療機関に周知徹底させ指導されたい、との要望書を提出しています。

●医療事故調査の実態を引き続き注視しよう
 弊センターも、「院内事故調査委員会について考える」と題して去る5月21日総会記念シンポジウムを開催致しましたが、上記意見書・要望書は誠に時宜を得たものだと思います。また、医療事故調査のあるべき姿を考えるに当たり非常に参考になります。
 医療事故の再発・発生予防、医療事故被害者らの被害救済という医療事故調査のあるべき目的に照らし、各医療機関における医療事故調査あるいは同調査委員会の実態が適切かについて、引き続き注意深く監視していく必要があると思います。
(2005年6月 センターニュース207号掲載)
日誌 その6 医療過誤に対する行政処分の動向
            −民事訴訟判決に基づく処分と処分された医師に対する再教育−
●民事訴訟判決に基づく行政処分
 医道審議会医道分科会は、平成14年12月、刑事事件とならなかった医療過誤についても、明白な注意義務違反が認められる場合などは、免許取消しや医業停止といった行政処分の対象とするとの方針を打ち出していましたが、去る平成17年3月2日、乱診乱療が問題となった富士見産婦人科事件の医師4名について、民事訴訟の判決が昨年7月に確定したのを受けて、初めて刑事訴訟の判決なしに行政処分を行うよう答申をなし、同日、厚生労働大臣は免許取消しを含む行政処分を行いました(なお、免許取消処分を受けた医師から処分取消訴訟が提起されています)。

●民事訴訟判決待ちでいいか
 一歩前進と言えますが、問題はなお残っています。
 富士見産婦人科事件での行政処分は、民事訴訟の判決確定を待ち、問題発覚から25年も経過してようやくなされたものです。国民の健康な生活を確保するため、医業を行う資格を厳格に定め、資格者の行う医業の内容等により資格の剥奪・停止といった規制を行う医師法の趣旨に照らすと、医師としての適性を欠く者に対する厳正な行政処分が遅滞なくなされる必要があります。訴訟の結果待ちという受け身の姿勢では、事件が風化してからの処分となるおそれも多分にあります。また、患者から寄せられた多数の被害申立てが事実上たなざらしという現状もあります。
 人員拡充を含め、迅速かつ適正な処分を可能とするような厚労省・医道審の組織・体制作りが総合的に行われる必要があります。

●被処分医師の再教育義務付け
 他方、去る平成17年2月22日、厚労省内の「行政処分を受けた医師に対する再教育に関する検討会」で、同省が、医療過誤などで行政処分を受けた医師に再教育を義務付ける方針を打ち出した旨報道されました。
 従来、行政処分後の再教育制度はなく、医業停止の処分を受けた医師も停止期間が経過すれば無条件に現場復帰できていましたが、これが改められることになったようです。
 医師法の趣旨・目的に照らすと望ましい方針とも思えます。

●原因・背景の究明を忘れずに
 ただ、医療過誤の原因・背景として、個々の医師の資質の問題というより病院の診療体制などが問題とされるべき場合もあります。真に医療過誤の再発防止を図り、国民の健康な生活を確保するためには、過誤の原因・背景をきちんと究明する必要があります。この点を疎かにして個々の医師に責任を押し付けることにならないよう十分注意しなければなりません。
(2005年4月 センターニュース205号掲載)
日誌 その5 不当な開示拒否がなされないよう監視を! −個人情報保護法による診療情報開示−
●個人情報保護法による診療情報開示
 個人情報保護法が本年4月から施行されます。個人情報取扱事業者が本人から当該本人が識別される保有個人データの開示を求められたときには、遅滞なく書面の交付等の方法により当該保有個人データを開示すべき義務を負うことになります。この個人情報取扱事業者には多くの医療機関が含まれ、保有個人データには患者の診療情報が含まれますので、多くの場合、患者が医療機関に対し自己の診療情報の開示を求める法的権利が認められることになります。

●限界・問題点−個別法制定の必要性−
 ただ、同法による診療情報開示には、いくつかの限界あるいは問題点があります。
 第1に、保護の対象たる個人情報が「生存する」個人に関するものに限定され、亡くなった患者の診療情報はこれに含まれません。
 第2に、義務付けられる個人情報取扱業者から、取扱個人情報数が過去6ヶ月のいずれの日においても5,000を超えない業者が除外されており、この除外要件に該当する医療機関は法的義務を負いません。
 第3に、開示により本人又は第三者の権利利益を害するおそれがある場合(法25条1項1号)や当該業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合(同2号)には、全部又は一部を開示しなくてもよいとされており、これらを理由に医療機関より開示を不当に拒まれるおそれがあります。
 このように個人情報保護法による診療情報開示では、患者の自己決定権や、患者や遺族のプライバシー権・知る権利の保障という観点から、明らかに不十分です。同法成立時の衆参両議院の附帯決議でも、医療に関わる分野は国民から高いレベルでの個人情報保護が求められているとして、政府に対し個別法制定の早急な検討を要請しており、弊センターも、厚生労働省宛に、去る平成16年11月30日付けで個別法の制定等を求める意見書を提出したところでした。

●個別法制定は当面見送りに
 ところが、厚労省内の検討会では、12月24日付けで「医療分野の個人情報については、…現段階においては、…個別法がなければ十分な保護を図ることができないという状況には必ずしもないと思われる」との取りまとめがなされてしまいました。非常に残念です。
 同検討会では同日付けで「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」も策定されました。その中で、・亡くなった患者の診療情報開示についても生存患者に対すると同様に遺族に対し行う、・取扱個人情報数が5,000以下の医療機関に対しても個人情報保護法上の義務を遵守するよう努力を求める、とされてはいますが、法的拘束力はありません。やはり、今後も粘り強く個別法制定を求めていく必要があります。

●不当な運用の監視を
 また、上記ガイドラインでは、診療情報開示をしなくてもよいとされる、開示により本人又は第三者の権利利益を害するおそれがある場合の具体例として、患者と家族との人間関係が悪化するおそれがある場合や患者本人に重大な心理的影響を与えるおそれがある場合を挙げています。かかる場合に開示しなくてもよいとするのは、患者の自己決定権、プライバシー権や知る権利に基づく重要な利益が医療機関の安易な判断で制限されるのを容認するもので不当というべきです。上記のような理由で診療情報開示が不当に拒まれることのないよう不断に監視していくことが必要だと思います。
(2005年 センターニュース203号掲載)
日誌 その4 より多く、より良質な情報を −医療に関する広告・広報の現状−
●広告規制の緩和−より多くの情報を
 医療に関する広告は、医療法で、限定的に認められた事項以外は、原則として禁止されています。これは、不当な広告がなされた場合、それにより受ける被害が他の分野に比して甚大となるおそれがあり、また、広告文言では提供される医療サービスの質を専門性ゆえ事前に適切に判断するのが極めて困難であるため、医療の利用者保護の見地からなされているものです。
 ただ、利用者が医療機関や医師選択の判断を主体的に行うに当たり必要かつ有益な判断材料となる情報が、広告規制によって制限されるのは、好ましくありません。
 そこで、近年は広告規制が緩和され、例えば医師の専門性に関する情報を市民に提供できるように、一定の条件を満たした団体の認定する資格名(○○科専門医など)を広告することができるようになっています。

●広告規制の限界
 他方、近年インターネットがめざましく普及する中、そこに開設された医療機関のホームページなどを通して多くの医療情報が提供されるようになり、利用者の利便が向上している面がありますが、そのようなホームページは、利用者が自らの意思で情報を得るためアクセスするものだからという理由で、原則として医療法で規制される「広告」には該当しないと扱われています。そのため、ホームページ上で虚偽あるいは誇大な表現がなされていても、事実上野放し状態となっています。

●より良質な情報を
  そのような中、医療機関などが医療情報を提供するに当たり遵守すべき倫理規約を策定し、これを遵守しているウェブサイトに認証シールを発行することによって、利用者がインターネットを通して良質の医療情報にアクセスできるようにしようとする試みが、NPO法人日本技術者連盟内の医療健康情報認証機構で今秋より始められたと報じられました。注目すべき取り組みだと思います。
 また、東京都では、医療に関する広告に該当しないとされるホームページなどによる「広報」を対象にガイドラインを策定し、医療に関する情報提供に一定の指針を設けようとの試みも進められています(ガイドライン素案は東京都のホームページで公開されています)。
  ホームページなどで医療に関するより良質な情報が提供されるよう、われわれも情報を鵜呑みにすることなく、厳しく見極めることが必要だと思います。
(2004年 センターニュース201号掲載)
日誌 その3 医療関連死の死因究明を行うモデル事業実施へ−厚労省平成17年度予算概算要求−
●死因究明モデル事業の実施へ
 厚生労働省が、去る8月末に提出した平成17年度予算概算要求の中に、医療安全対策事業の一つとして、診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業を新たに行っていく旨盛り込んでいます。具体的には、医療機関から診療行為に関連した死亡等の調査依頼を受け付け、法医学者・病理学者合同で解剖を実施するとともに、専門医による事案調査も実施し、それらの結果に基づき、因果関係及び再発防止策を総合的に検討するモデル事業を行っていくとのことです。

●これまでの医療安全対策 −医療事故情報の収集−
 これまで厚労省は、医療安全対策事業として、ヒヤリ・ハット事例を収集し、それを基に医療事故につながりうる要因などを分析し、その結果を提供する、医療安全対策ネットワーク整備事業を行って来ました。この事業は平成13年10月から始められ、当初は対象が大学病院や国立病院などに限られていたものの、今年度からは対象を全医療機関に拡大して行われています(ただし任意参加)。また、現在厚労省では、大学病院や国立病院などに重大な事故事例情報の提出を義務付ける医療法施行規則一部改正省令案の検討を行っており(提出を義務付ける事故事例情報の範囲については、本誌・190の嘱託日誌を参照ください)、この改正が実現すれば、ヒヤリ・ハット事例に止まらず、重大な事故事例情報も収集されることになります。
 このように、これまでは、医療事故情報の収集事業は実施されて来ていましたが、個別事案につき専門家の助力を得て事故原因の科学的な調査・究明を行い、それを事故再発防止に役立てるといった取り組みはなされて来ていませんでした。今回の概算要求では、まさにそのような取り組みをモデル事業として進めていくとされたものです。これまで専門性・密室性の壁に阻まれて単に「不審な死」で終わってしまっていた医療関連死の真相が少しでも究明されることが期待されます。

●所 感
 概算要求を見る限り死因等の調査依頼をなしうるのは医療機関に限られていますが、報道では、患者の遺族も医療機関を通じて調査依頼を行うことができるとのことでした。「再発防止策を総合的に検討する」ためには、患者遺族からも広く調査依頼を受け付けるべきで、真相解明を望む遺族の意向が医療機関によって無視されたり拒否されたりすることのないよう配慮がなされることを希望します。
(2004年10月 センターニュース199号掲載)
日誌 その2 手術症例数情報の公開−平成16年度社会保険診療報酬等の改定−
●平成16年度社会保険診療報酬等の改定
 平成16年4月より、社会保険診療報酬等が改定されました。改定された点の中で特に注目すべきは、患者の視点の重視、国民に対する情報提供の推進という観点が盛り込まれ、年間手術症例数などの情報が公開されるようになった点です。

●手術症例数などの届出
 これまで特定の手術については、それが行われる保険医療機関が厚生労働大臣の定める施設基準に適合するか否かで、点数が算定されたり、所定点数より30%減算されたりすることになっていましたが、施設基準の見直しがなされ、当該手術を年間何例実施しているか、当該手術に関し10年以上の経験を有する医師が何名常勤しているか、という手術症例数、医師経験年数といった点で一定の基準を満たす施設については、所定点数に5%が加算され、他方、手術症例数や医師経験年数の基準をともに満たさない施設については所定点数が30%減算されるようになりました。保険医療機関は、そのような施設基準が設定された手術について地方社会保険事務局に年間手術症例数を届け出ることとされていますので、地方社会保険事務局に情報公開請求することによって、特定の保険医療機関分だけでなく、当該地方社会保険事務局の管轄区域内の各保険医療機関から届出がなされた年間手術症例数の一覧情報も入手できるようになっています。

●手術症例数の院内掲示と患者への説明の充実
 また、点数が減算されない施設の要件として、手術症例数を病院内に掲示することや、患者に対して、当該手術の内容、合併症、予後等を文書を用いて詳しく説明を行い、併せて、患者から要望のあった場合、その都度手術に関して十分な情報を提供することが挙げられるようにもなりました。このように患者に対する直接的な情報提供の推進も図られるようになっています。

●所 感
 従来、医療の安全や質に関する情報の公開がほとんどなされて来なかった中で、年間手術症例数などの情報が公開されるようになったことは、基本的に歓迎すべきことで、評価できると思います。ただ、手術症例数が多ければ当該手術に関する医療技術や医療の質が高いということに直ちに結びつくわけでもありません。患者は、公開され入手した情報を冷静に見極める必要があると思います。
(2004年8月 センターニュース197号掲載)
日誌 その1 どうぞよろしくお願い致します
●堀さんと2人体制
 この4月より、当センターの嘱託として週8時間、センターの業務のお手伝いをさせていただくことになりました。
2000年11月に堀さんが嘱託弁護士に就任されてから3年半経過しました。当初の契約期間は2年だったとのことです。皆様もご存じのとおり堀さんの嘱託弁護士としての働きが素晴らしく、余人をもって代え難いということで、これまで期間が延長されて来ました。しかし、いつまでも堀さんをセンターに長時間拘束しているわけにも参りません。誰かいないのか…。
 そのような経緯で私にお声がかかり、今後も堀さんには嘱託弁護士として残っていただけ、2人体制だとのお話もあり、つい、「分かりました」とお請けした次第です。
 というわけで、これまで同様堀さんにもセンターの嘱託弁護士としてご活躍いただきながら、堀さんの担当されてきた業務を少しでも補助し分担することで、センターの発展にささやかながら貢献できればと考えております。

●簡単な自己紹介
 弁護士10年目、修習期は47期になります。これまでは必ずしも医療過誤事件を中心に扱ってきたわけではありませんでした。今後より一層勉強していきたいと思っております。

 どうぞご指導ご鞭撻をよろしくお願い致します。
(2004年6月 センターニュース195号掲載)


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