中期的な将来、野生絶滅にいたる可能性が高い海水魚を
守るために、基礎的なデータが必要です!

 ある野生生物の地理的分布について、分布の周辺域に生息する小さな地域個体群は遺伝的にある程度の適応を遂げ、種分化している可能性が高いと考えられています。そのため、分布の地理的範囲が限定される分布の狭い種は、絶滅にさらされやすいと考えられます。今後、分布が限定されると考えられる海水魚について、分布域の地理的限界、分布の周辺域に生息する地域個体群の詳しい生態の情報が重要になってきます。
 今や、私たちをとりまく海はまちがいなく病んでいます。しかし、
絶滅に瀕した種の観点から、私たちがダイビング中に見る海水魚の地理的分布の詳細や、種が置かれている状況について、ほとんど知られていません。海は広く、つながっているから彼らは安全なんだと断言できない状況になってきているのです。

レッドリスト・カテゴリー

 世界のいたるところで多くの野生生物が危機的状況にさらされています。絶滅のおそれがある野生生物について、その種がどのような状態に置かれているのかを、一定の基準にしたがってリストアップする作業が進められています。これまで、国際自然保護連合(IUCN)が定めたレッドリスト・カテゴリーという基準が、野生生物について絶滅の危険性の大小を明らかにする判断基準に採用されています。1996年に採用された新しい基準およびカテゴリーでは(Baillie et al., 1996)、報告者の主観による判断をのぞくため、絶滅の危険性を客観的に評価することを原則に、5つの定量的な評価基準(AからEまで)が設けられました。
 この新しい基準が採用された「
The 1996 IUCN Red List of Threatened Animals(生存を脅かされた動物のレッドリスト)が、国際自然保護連合(IUCN)から出版され、1996年レッドリストと呼ばれています(Baillie et al., 1996)1996年レッドリストでは、初めて海水魚類が約100種類以上も記載され、これまでのレッドリストに比べて、生物の多様性の保全という観点から、亜種・地域個体群が置かれている状態について科学的根拠に基づいた情報が重視されています。しかし、絶滅に瀕した種の観点から、海水魚類についての情報は不足しているのが現状です。

海水魚の地方版レッドリスト

 海水魚について、分布の北限や南限など分布の周辺域に生息する地域個体群が、どのような状態に置かれているのかを明確にする必要があります。
 そのための第一歩は、自分の観察フィールドを持っている熱心なフィッシュ・ウォッチャーでもある私たちダイバーが、魚類生態・分類学の研究者らと協力するネット・ワークを構築することでしょう。次は、科学的なモニタリング手法をもちいて、自分のフィールドで観察される海水魚の種類数や個体数、その海域に固有な種、種類数や個体数の季節変化など魚類相についての基礎的なデータを集めることです。得られたデータを整理・分析し、
1996年レッドリスト・カテゴリーに照らして、注目している海水魚がその海域で置かれている状態を評価してみましょう。それが浅海性海水魚類の地方版レッドリストです
 あなたのフィールドを守るためにも、ぜひ海水魚や生息環境について調べてみましょう?私たちが三宅島でどのように動き始めたか、簡単に紹介します。

 そこで、科学的根拠に基づいた海水魚の三宅島版レッドリストをつくるために潜水調査を始めました。そのためにまず、三宅島沿岸の浅海性魚類相を把握する調査の水準を確保するため、さまざまな注意点があります。
 身近に魚類学研究者がいれば、ぜひ相談してください。あるいは、私たちにご連絡をください、応援します。種の同定・調査方法や材料・調査地点の選択などを統一させた、できれば数年間の調査結果が必要です。整理された観察記録は、「生物季節」や「浅海性魚類目録」、「チェックリスト」などと呼ばれる資料で、「
1996年レッドリスト・カテゴリー(Baillie and Groombridge 1996)の新基準」を適用する基礎的なデータとなります。
 注目している海水魚について、年間を通した継続的な生活史に関する観察記録
(種数や個体数の経年変化をふくむ)が必要になります。

 しかし、「三宅島産浅海性魚類チェックリスト」をつくる上で、海水魚類の分類について、種によっては分類学者の見解が大きく違っています。また、DNA鑑定による最新の分類方法もあり、属や種の同定作業で困難を感じることがあります。私たちは故ジャック・モイヤー博士の考え方から学びたいと考えています。それは、遺伝的なものであるという産卵生態の比較による属分類の試みと、写真・動画像試料、魚類学研究者らのコメントなどにより種の同定を行い、標本を採集することなく、データを整理するのです。
 最新版の三宅島チェックリストは固有番号を付けた画像と共に、三宅島自然ふれあいセンター・アカコッコ館に電子データが保存されました。
 ダイバーとしての観察ポイントでは、遺伝的なものであるという産卵のタイミング・産卵習性・求愛行動・婚姻色などの比較による分類です。また、できるかぎり標本を採集しない方針で、種の同定作業を進めています。
 今後、その海域の漁業協同組合の方々や漁師さんから協力が得られ、水揚げされた魚類・めずらしい海水魚などの写真撮影、標本として提供されるシステムを構築できれば、それは貴重なデータとなりますね。

 さらに今後、フィリピン海域・台湾の東海岸・琉球諸島や薩南諸島の海域・大東島の海域・四国太平洋岸・紀伊半島南部の海域・伊豆諸島南部の海域など、黒潮の経路にそった日本南岸域における魚類相データが比較分析され、分布が限定されると考えられる種について、分布の地理的限界が科学的に明確にされることが期待されます。
 絶滅のおそれのある種という観点から、海水魚についてほとんど知られていないことは、紛れもない事実なのです。
海水魚の分布域の地理的限界を正確に知ることが、絶滅の危機にさらされやすい海水魚やその生息地を保護する活動を進める上で、とても重要なことになってきているのです

三宅島産浅海性魚類チェックリストへのご協力もお願いします

 温帯に属している三宅島(北緯345分、東経13931)が位置する伊豆諸島南部の海では、優占種である海藻類がサンゴ類と空間をめぐって静かながらも激しい種間競争をしています。暖流である黒潮の影響によるサンゴ類と海藻類が豊富に繁茂している、起伏に富んだ岩礁域やサンゴ類に覆われた岩礁斜面は、さまざまな種類の魚にとって隠れ場所として適しています。岩礁域の海底には、砕けたサンゴの破片や火山れきが混ざった砂地があり、底棲性の魚にとって生息場所として適しています。
 
このような三宅島の海にみられる環境の多様性は、黒潮の経路に沿った宮崎県日南の南部沿岸・鹿児島県の太平洋岸・高知県の太平洋岸・和歌山県紀伊半島の南岸などでみられる環境の多様性とよく似ています。さらに、伊豆諸島南部の海洋生態系の特徴は、暖流である黒潮、太平洋プレートとフィリピン海プレートの境界に沿った地殻変動の両方の影響を受けていて、この海域に独特な海洋生物相を示すことが知られています。
 さまざまな海中社会のドラマを見せてくれる私たちをとりまく海は、今やまちがいなく病んでいます。私たちは、希少性の高い海水魚保護などの諸活動に活用するために、伊豆諸島三宅島で見られる浅海性魚類について、写真・動画像資料に基づいたデータベース化を行なっています。今後、伊豆諸島南部に固有な種や分布の限定される種を発見するためには、まず当地域の魚類相を把握する必要があります。そして、生物多様性の重要な海域であることが認められたなら、開発される前にその海域を保護する必要があります。
 
記載されてない海水魚を三宅島で撮影された方で、日時・ポイント・水深・水温・生息環境・行動習性・潮流の有無・写真・ビデオなどの資料を提供いただける方は、ぜひ、「三宅島産浅海性魚類チェックリスト」へのご協力をお願いします。

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e-mail n34north@lagoon.ocn.ne.jp 日本海水魚保護ネットワーク事務局までご連絡ください.