<精神研ニュース H13年4月13日 より抜粋>


研究論文ニュース2

Visuospatial imagery is a fruitful strategy for the digit span backward task: a study withnear-infrared optical tomography
(視覚空間的イメージングは数字逆復唱テストに有用な攻略法である:近赤外光断層イメージングシステムによる研究)
Hoshi Y, Oda I, Wada Y, Ito Y, Yamashita Y, Oda M, Ohta K, Yamada Y, Tamura M(2000)Cognitive
Brain Research 9, 339-342

脳機能解析研究部門 副参事研究員 星 詳子


 近赤外分光法(near-infrared spectroscopy, NIRS)は、近赤外光(波長700〜1.300nm の光)を生体あるいは物質に照射し、組織内や物質内を透過してきた光を検出し、その検出された光の強度から組織中のヘモグロビン、ミオグロビン、そしてミトコンドリア内チトクロームオキシダーゼの濃度変化を計測する方法である。NIRS は集中治療室などで患者の脳内酸素化状態をモニターする方法として装置化に向けての研究が進められてきたが、本法は神経活動にカップリングした脳血行動態の変化を測定することもでき、近年新しい脳機能イメージング法として注目されつつある。

 近赤外分光装置には光源として連続光を用いるタイプと、短パルスレーザー光を用いて時間分解計測を行うタイプがある。連続光型装置は変化の相対値をリアルタイムで長時間に渡って連続的に測定することができるが、変化の絶対値を求めることはできない。これは、絶対値を算出するのに必要な生体組織中における光路長(照射された光が検出されるまでに飛行した距離)をもとめることができないためである。現在市販されている装置は連続光型で、これらの装置を用いて脳の活動部位を検出することは可能であるが、機能の局在をpositron emission tomography (PET) などの様に画像として示すことはできない。

 画像化には絶対値の算出が必須である。一方、ピコ秒領域の短パルスレーザー光を用いて時間分解計測を行い、光子の脳組織内における平均飛行時間を計測することにより光路長は決まり、絶対値を求めることができる。そこで、光計測による脳機能局在の画像化を目指して、通産省と新エネルギー産業技術推進機構(NEDO)の7 年間のプロジェクトによって開発されたのが、64 チャンネル時間分解光断層イメージングシステム(光CT)である。このシステムは64 箇所の部位で時間分解計測を行い、それぞれの部位において変化の絶対値を算出し、それらの値をもとに画像再構成を行う。現在使用されているレーザーのパワーでは大人の頭部断層像は難しいが、皮質レベルにおける機能局在の画像を提示することができる。

 本論文は世界で初めての光CT によるcognitive study の結果を報告したものである。64 チャンネルのうち14 チャンネルを用いて前額部を測定し、ワーキングメモリータスクの一つであるdigit spanbackward (DB) task によって活性化される部位の検出を試みた。このタスクは読み上げられた数字を逆順に復唱するもので、3桁より始めて順次桁数をあげていき、できなくなると3 桁へ戻り再び桁数を上げていくのを1.5 分間行った。コントロールタスクとしては、順方向に復唱するdigit span forward (DF)― 7 ―task を用いた。光脳機能計測では酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)が脳血流変化の最も良い指標であるため、ここではoxy-Hb による画像を示した。被検者8例中4例は、写真上側に見られように左側背外側前頭前野(dorsolateral prefrontal cortex、DLPFC) でDF task に比べて有意なoxy-Hb の増加を示した。一方、他の4例は右側のDLPFC でoxy-Hb の増加を示した (写真下側) が、右側でoxy-Hb の増加を示した被検者の方が、左側で増加を示した被検者より大きな桁数まで復唱することができた(6.5 ± 1 桁vs.3.8 ± 0.5 桁)。

 DLPFC はワーキングメモリーに関与しており、一般に左は言語性ワーキングメモリーを、右側は視覚空間性ワーキングメモリーを担っていると言われている。従って、DB task はDF task に比べてよりワーキングメモリーに関与する部位を賦活すると結論できる。また、DB task を遂行するには数字を言語として覚える方法と空間的配列で覚える方法があるが、今回の結果は後者の方法をとった方が大きい桁
数まで覚えられることを示唆していた。光CT は特殊な検査室を必要とせず、小児から高齢者まで幅広い年齢層に用いることができる。従って、光CT は精神神経学領域の研究に新しい道を開くと期待される。



光CT が捉えたdigit span backward task 中の前頭部賦活部位。コントロールタスク(digit span forward task)中の酸素化ヘモグロビン濃度変化に対する差画像。

左右どちらかのdorsolateral prefrontal cortex (DLPFC)で、酸素化ヘモグロビン
濃度の増加が認められた。