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空飛ブウサギ物語 作:teruhiko

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【プロローグ】   第1話へ 第2話へ

(クークー、クークー。)
ここはウサギたちが多く住む、スギノサワ。
雪が降りしきる中、1羽の赤ちゃんウサギが誕生しました。
しかし、とても寒い日だった上に難産だったのでお母さんウサギのララは今にも死んでしまいそうでした。
「ララ!だいじょうぶか!!」
お父さんウサギのジョンが一生懸命小さな鼻でララの背中をさすりました。
「ジョン…この子をちょっと見て…」
「しゃっべったりしてはだめだ!静かにしていなさい!!」
「この子の背中…」
「なにっ、背中がどうした?あっ!!」
ジョンが赤ちゃんウサギの背中を見てみると、なんとそこに羽がついているではありませんか!!
それは今にもちぎれそうな小さな羽でした。
「こ、この子はもしかして、昔から言い伝えられているあの…」
ジョンはとても驚きました。しかしそのとき、
「ジョン…この子はきっと、言い伝えの空飛ブウサギよ…だからわたしはきっと死ぬ運命にあるんだわ…」
「何言ってるんだ!!おまえを絶対に死なせるもんか!!」
「ジョン…わたし…この子を産んで…とても良かったわ…」
そう言い残すと、ララは静かに目を閉じました。その顔はとても幸せそうでした。
しかしジョンは、ショックを隠しきれず、
「ララ!おい起きるんだ!ララ!この子を産んだせいでおまえは死んでしまうのか!
俺はこれからどうしたらいいんだ!ララー!」
こうしてお母さんウサギのララが亡くなり、ジョンは一人で赤ちゃんウサギを育てることになりました。
しかしジョンはとても悩みました。なぜなら、この子の背中に羽が生えているからです!
しかも言い伝えで言われている、あの空飛ブウサギかもしれない!
そこでジョンは言い伝えについて詳しく知ろうと思い、スギノサワで一番の長老ウサギ、ボボ長老をたずねることにしました。
「ボボ長老、この子を見てください。」
「おお、この子はまさしく…それではもしかしてララは…」
「はい。死にました。やはりこの子のせいでララは死んだんでしょうか?」
「おそらくそうじゃろう…」
「わたしは一体これからどうしたらいいのでしょう!この子をどのように育てたらいいのでしょう!」
「わしにもよう分からん…ただ、言い伝えによれば、空飛ブウサギには必ず悲しい出来事が付きまとうということじゃ。
そして、それを乗り越えるまでは、空飛ブウサギは飛べないそうじゃ。そして飛べるようになったその時、奇跡が起こるそうじゃ。
だからジョン!おまえがこの子を守ってやらなきゃならん。」
「そ、そうですか…わたしが守ってやらなければならないのですね…。」
「ジョン、おまえはこのサワでは、一番の弱虫じゃが、きっとこの子を守ってくれるじゃろう。頑張るんじゃ。」
ジョンはこのサワで一番の弱虫でした。そして、ララが亡くなってからその弱さはますます強くなっていました。
「わたしにできるでしょうか?」
「だいじょうぶじゃ。おまえに自信がなくても、きっとこの子がおまえに勇気を与えてくれるじゃろう。
ところで名前はつけたのか?」
「いいえまだです。」
「そうか、この子はたしか…オスじゃったな。よしわしが付けてやろう。名前は…クリスというのはどうじゃ?
もうすぐクリスマスが近いじゃろ。わしはきっとこの子がクリスマスの日にきっと素晴らしい贈り物を
みんなに与えてくれそうな気がするのじゃ。本当はわしらがこの子に与えなきゃならんのじゃがな。ハハハハ。」
ジョンはとても複雑な気持ちになっていました。クリスには素晴らしい能力がある。しかしその反面悲しい出来事が付きまとう。
ジョンはどちらかというと悪い面ばかりを気にしていました。
それでもジョンは一生懸命クリスを育てました。今までは全部ララにまかせっきりだった木の実採りや、掃除などなど
今度からはジョンが全部やらなければなりません。ジョンは毎日毎日が戦いの連続でした。
木のみ採りは特に危険がいっぱいです。蛇に追いかけられることが何度もあったり、木の上にある実を採ろうとして
登るまではよかったが、怖くて降りてこられなくなったり、毒キノコを間違えて食べてしまい、おなかをこわしてしまったり…
ジョンはそれでもクリスを育てようと必死でした。なぜならジョンはクリスの体を洗う為、優しくなめてあげるたびに思うのでした。
(この子はわたしが守ってやらなければならない…)
ジョンは特にその小さな柔らかい羽を優しくなめあげました。
しかしジョンの努力にもかかわらず、悲しい出来事はもうすぐ起こるのでした。

【第1話】

空飛ブウサギの誕生はスギノサワ全体に広がりました。
いつもいつもいじめられていたジョンでしたが、クリスがうまれてからは、
サワのウサギたちはみんなジョンを励ましてあげたのでした。
クリスの誕生に対してもそうでしたが、それ以上にあの弱虫ジョンがたくましく成長している姿を見て
励ましたくなっていたのでした。
「よう、ジョン!元気か!ララがなくなってから大変だな。クリスは元気か?」
隣に住む、ダダが話しかけてきました。彼だけは以前からジョンのことをいじめたりはしていませんでした。
「ああ元気だよ。」
「クリスのことはサワ中大騒ぎだぜ。おまえのこともみんなとても感心している。
でも中にはあんまりいい顔をしていないやつもいるらしいから用心したほうがいいな。
クリスのせいでもし悪いことが起きたらどうするんだって言ってるらしいぜ。
まあ、今はみんながクリスのことを祝福しているから手は出してこないと思うがな。
確かにララは死んでしまったが、俺はクリスがみんなに幸福をもたらしてくれると信じてる。」
「俺もそう思うよ。実際俺はクリスのおかげで、勇気を与えられた。だから何があったってもう怖くはない。」
「そうだ、その調子だ!がんばれよ!」
「いつもいつもありがとう。」
励ましてくれる人は多くいましたが、ダダからの励ましはジョンにとって一番うれしかったのでした。
こうして、ジョンとクリスのもとに訪ねてくるウサギが多くいましたが、ある時、意地悪ウサギのゼットが訪ねてきました。
ゼットはジョンに対していつもいつも意地悪をしていたウサギでした。彼はこのサワで唯一の医者をやっていて、
サワのみんなにいつも頼られてしまっているせいか、とても傲慢な性格でした。
「よう、ジョン君。元気してるかい?」
「な、なにしにきたんだよ。」
ゼットの突然の訪問にジョンは少し戸惑いました。
「なにしにきたんだよはないでしょ。せっかくお祝いに来てやったのに。このサワでは第一子が生まれた時は
お祝いするとゆうのがしきたりじゃないですか。」
「そんなしきたりあったっけ…」
「ありますとも!これだから三流家庭の出身はこまりますな〜。それよりクリス君はどこにいらっしゃるのかな。」
「そこで眠ってるよ。」
「お〜なんとかわいらしい。クリス君はきっとお母さん似だな。お父さんとは似ても似つかない。
どれちょっと診察してあげよう。うまれたばっかりはとても病気にかかりやすいからな…」
「いいよどこもわるくないから。あとで診察代としてどんぐり100個とか要求するんじゃないだろうね。」
「ご心配なさらずに。これはあくまでもご奉仕ですから。ん〜どれどれ…ふむふむ…
ちょっとおかしいですな…どこも悪くない…」
「悪くないならおかしくないじゃないか!」
ジョンは腹立たしい気持ちでした。以前だったらその気持ちさえ出てこなかったのに…
「いやね…最近伝染病がっはやってまして、しかもクリス君が生まれた日ぐらいから…
いやいやただの偶然かもしれませんがね。でも赤ちゃんとゆうのはとてもデリケートな体ですから、
伝染病にかかっていてもいいはずなのに…おかしいですね…何か言い伝えと関係があるのかも…」
「用が済んだらさっさと帰ってくれ!!」
ジョンは強い口調で言いました。
「はいはい。それじゃあ失礼しますよ。あの弱虫ジョンがここまで強くなるとは…たいしたもんです。」
ようやくゼットは帰っていきました。ジョンとしてはゼットを追い出すことができてとても満足でした。
しかしジョンの心には1つ引っかかるものが残りました。
(伝染病がはやっている…何か言い伝えと関係あるのだろうか…)
確かに最近ジョンの調子も悪くなっていました。しかしクリスのためにと必死に頑張ってきたため
そんなことは気にならないくらいでした。
(自分が調子が悪いのにクリスはなんともない…確かに変だ…
いやいや、クリスが健康なことはいいことじゃないか。健康でいることが何よりも大切なんだ!!
もうすぐクリスマスが近い。クリスのためにプレゼントを用意してやろう。これからもクリスが健康でいられるように
あったかいふとんを用意してあげるんだ。)
ジョンは少しでもいいほうにいいほうにと考えていました。
そしてジョンはふとんをつくるため、鳥の羽を集めたり、柔らかいイタチの毛を集めたり、
時には自分の毛を抜いたりしながら一生懸命ふとんをつくってやりました。
しかしその一方で、ゼットが言っていたようにサワ全体に伝染病が広がりつつありました。
サワで始まって以来の伝染病だったので、多くのウサギたちは恐怖におののきました。
「ゼット先生、どうしてこんなことが起こるのでしょうか。」
多くのウサギたちが、ゼットのもとに相談しに来ました。
「やはりあの空飛ブウサギのせいだろう。言い伝えによれば空飛ブウサギというのは、多くの不幸をもたらすそうだ。
だいたい、ウサギに羽が生えること自体が変なんだ。みんなであの親子をこのサワから追い出してしまおう。」
「そうだそうだ!あの親子を追い出してしまえ!このままじゃ、このサワは全滅してしまうぞ!」
「待ってよ!あの子が原因だなんて分からないわ。」
「何だ、おまえはこのサワが全滅してもいいというのか!」
集まったウサギたちは大混乱に陥ってしまいました。
「こんなことしててもらちがあかない。ゼット先生にどうしたらいいか決めてもらおう。
ゼット先生、一体どうしたらいいでしょうか?」
「やはりあの親子をみんなで追い出すしか手立てはなさそうだ。原因がわからないことだし…それから様子を見るとしよう。」
こうしてジョンとクリスの親子が追い出されることが決まってしまいました。
そしてサワ中のオスウサギたちが、ジョンのところに押し寄せてきました。
「やい!ジョン!おまえたち親子はここから出て行け!その空飛ブウサギのせいでサワ中大混乱なんだ!」
「出て行くもんか!この子は不幸なんかもたらすわけがない!この子はみんなに幸せを与えてくれる子なんだ!!」
「なんだと!出て行かないのなら力づくでも出してやる!おいみんな!やっちまえ!」
「な、なにするんだ!」
多くのウサギたちがジョンの住む巣に入って来たので、巣はぐちゃぐちゃになり、クリスのために作っていたふとんも、
踏み潰されてばらばらになってしまいました。
「やめてくれー。それだけはこわさないでくれー。」
ジョンが言う言葉に耳を傾けることなく、ジョンとクリスはウサギたちによって強引に運ばれていきました。
そして連れてこられたのは、サワからちょうど反対側の山奥でした。
「二度と戻ってくるなよ!」
ウサギたちはそこから去って行きました。
ジョンは疲れ切ってしまい、身動きもとることができず、ただただおいおいと泣くばかりでした。
「ごめんよ…クリス…ごめんよ…」
クリスマスまで、あと3日の出来事でした。

【第2話】

ジョンとクリスはとても寒い中に取り残されてしまい、ジョンは伝染病がますますひどくなっていたのでした。
「ゴホゴホ…おれはこれからいったいどうしたらいいんだ…」
雪が一面に広がる光景は、とても美しく見えましたが、澄み切った空気は突き刺さるように感じられ、
あたりは昼間なのに薄暗く、怖いくらいに静かでした。
ジョンは、クリスを抱きかかえながら、クリスの体を温めてやりました。
ジョンは心の中でいろいろなことを思い巡らしていました。
(あたらしい巣を探さなくちゃ…)
(サワにもどりたいな…)
(クリスのプレゼントはどうしよう…)
(もうおれはだめかもしれない…)
(クリス…守ってやれなくてごめんな…)
寒さがだんだんと増してくるたびに、ジョンの気持ちは、絶望感でいっぱいになりました。
何もすることができず、3日3晩飲まず食わずでジョンとクリスはただそこにジーッとうずくまっていました。
ただ時間だけが静かに流れてゆき、トナカイの鈴の音と共にやってくるはずのクリスマスの日が
何の知らせもなくやってきてしまいました。
するとジョンはなにかを感じて突然立ち上がりました。
(今日はクリスマスだ…何とか新しい巣を探そう…)
ジョンはクリスのためにクリスマスプレゼントとしてせめて巣だけは見つけておいてやろうと思ったのでした。
しかし巣を探すといってもそれは簡単なことではありません。
本来ならウサギたちは、自分で牧草を探し、自分で作らないと行けないので、
探すとしたらほかの誰かが作ったあと、どこかへ引っ越して残したものを探さなくてはなりません。
しかしここは誰も寄り付かないところですし、作るとしても今は冬なので牧草がありません。
ましてや、今のジョンの体の状態では、作ることなどできるはずがありません。
ジョンは最後の力を振り絞って、歩き出したのでした。
何度も何度も、倒れては起きあがり、倒れては起きあがりしながら、森の中を歩いていました。
長い時間歩いてイモリ池のほうへ着いた時、ジョンの目に新しい巣が飛び込んできました。
しかし実は、ジョンは幻を見ていたのでした。あまりにも疲れていたのと、巣を何とかして
見つけたいという思いがあったからでした。
(や、やっとみつけたぞ…)
そう思うと、ジョンは安心したせいか、その場で倒れこみました。
そこは冷たいイモリ池の氷の上でした。
しかしジョンはその冷たさを感じることができませんでした。
なぜなら、ジョンはもうすでに眠りについてしまったからです。
しかし苦しい道のりを歩いてきたにもかかわらず、その横顔は何かとても満足そうでした。
するとその時です!クリスの目からなにか光るものが流れてきました。
そうです!クリスは涙を流していました。まだ何もわからないはずのクリスが、
涙を流しているのです。
その涙が流れ落ちると同時に今度は、空からなにか光るものが降ってきました。
それは真っ白な雪でした。しかも雪は普通は冷たいものですが、その雪はなぜか暖かく感じられるものでした。
クリスの涙を象徴するかのように雪は降りつづけました。そして、雪はジョンとクリスを暖かく包んでくれました。
ジョンとクリスの姿が見えなくなるくらい雪が積もった時、なんともう死にかけていたジョンが目を覚ましました。
(何だろうこの雪は…あったかい…あれっどうしたんだろう…病気が治っている!)
ジョンの病気はこの不思議な雪によって治されていたのでした。
そして、ジョンはクリスが涙を流していることに気がつきました。
(クリスがきっと俺を救ってくれたんだ!)
そう思うと涙があふれ、ジョンはクリスを優しく、しかし気持ちはぎゅっと強く抱きしめてやりました。
そのころ、スギノサワのほうでも奇跡が起こっていました。
「なんだこの雪は!」
「伝染病が治っているぞ!!」
「奇跡だ!奇跡だ!」
サワのウサギたちは大喜びでした。次々と伝染病で死にかけていたウサギたちが、
元気を取り戻していったからでした。
そこへサワの長老ボボが、やってきて、みんなに言いました。
「やはりわしの言ったとおりじゃ。こんな雪が降ったのはどうしてだと思う?
この不思議な雪が降ったのもあの空飛ブウサギのおかげじゃ。わしはクリスマスの日に
クリスがわしらに、プレゼントを与えてくれるじゃろうと信じていたんじゃ。
今それが実現したんじゃ!!」
ボボの話を聞いてサワのウサギたちは、クリスを追い出してしまったことを後悔しました。
そしてもう一度ジョンとクリスを連れ戻そうと言う話し合いがもたれました。
しかしその様子を見て、あのゼットがサワのみんなにこう言いました。
「ボボの言うことはみんなでたらめだ!空飛ブウサギは疫病神に決まっている。
あの空飛ブウサギがいなくなったおかげで助かることができたんだ!
あいつが戻ってきたら又何が起こるか分からないぞ!」
ゼットの話にはとても説得力がありました。
確かに、伝染病が流行りはじめたのは、クリスがうまれてからだったし、クリスたちがいなくなってから
3日後にすぐみんな治ってしまったのですから、クリスは疫病神と思われても仕方がありませんでした。
本当にクリスは疫病神なのでしょうか?クリスの涙と、あの不思議な雪とは何か関係があるのでしょうか?
ジョンとクリスを連れ戻そうというウサギはだんだんと減り、クリスがこの奇跡を起こしたんだと
信じるものは、ボボ長老と、隣に住んでいたダダだけになってしまいました。
ダダとボボはジョンとクリスを連れ戻したいのは山々でしたが、今のサワの状況では連れ戻したとしても
また追い出されるに違いありませんでした。
ジョンとクリスは結局サワに戻ることができないまま、新しい地を求めて旅立つのでした。

…つづく

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