- ブラジリアン・ポップの逆襲 -

カエターノ・ヴェローゾ Caetano Veloso

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<カエターノ・ヴェローゾ>
 カエターノ・ヴェローゾは、1960年代末、世界中で巻き起こっていた学生運動の嵐の中、「トロピカリズモ運動」というブラジルにおける重要なムーブメントのリーダーとして登場しました。その後も彼はブラジリアン・ポップ(MPB)発展の牽引車として活躍を続け、90年代に爆発したブラジリアン・ポップの世界的なブームの立て役者となりました。彼の音楽の歴史はそのままブラジリアン・ポップの現代史でもあります。

<ブラジル音楽、収奪の歴史>
 ブラジルは、植民地時代から世界に通用する数々のスターを生み、サンバやボサノヴァという偉大なサウンドを生み出しながら、それはいつの間にか他の国(多くはアメリカ)に奪われてしまっていました。世界的スターになっても、カルメン・ミランダのようにアメリカへと移住してしまったり、ボサノヴァのようにいつの間にか、「ジャズ」の亜流にされてしまったり、先進諸国の文化的植民地の位置から脱却することはできませんでした。

<トロピカリズモ運動>
 歴史的に繰り返されてきたアメリカへの文化流失をくい止め、ブラジル独自の文化、芸術を育てるために、カエターノ・ヴェローゾを中心にブラジルの若者たちが始めたのが、「トロピカリズモ運動」でした。この運動は、1960年代から70年代にかけて、音楽活動だけではなく、演劇やファッションなど、芸術全般に拡がりをみせてゆきました。しかし、その運動は、一面では反米思想、民主化思想でもあり、それはこの当時ブラジルを支配していた米国よりの軍事政権にとって、まさに「反政府運動」と同義でした。軍に睨まれたカエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジルは、しだいにその活動の場を失い始め、ついにヨーロッパへの亡命を余儀なくされてしまいました。そして、リーダーを失った運動は、必然的にその勢いを急速に失っていったのです。

<「トロピカリズモ2」>
 それから25年が過ぎました。ブラジルにはやっと民主化の時代が訪れ、その動きに合わせるように1993年、「トロピカリズモ2」というアルバムが発表されました。作者はもちろん、カエターノ・ヴェローゾ、そして長年の相棒ジルベルト・ジルでした。ブラジルを離れても、ニューヨークの前衛ロック系アーティスト、アート・リンゼイとのコラヴォレーションなど、新しい試みを続けていた彼は、再びブラジル音楽界における革新運動のリーダーとしての活躍を開始しました。彼の新たな挑戦は、かつての「トロピカリズモ運動」の継続と再評価だけに止まらず、現在進行形の若手ミュージシャンたちによる新しいブラジリアン・ポップの流れと結びつくことにより(今や超大物となったパーカッショニスト、カルリーニョス・ブラウンもカエターノのバックをつとめていた)、世界中を驚かせる新展開を見せることになりました。

<ミクスチャー・サウンド先進地のリーダー>
 もともとブラジルは、ミクスチャー・サウンドの先進地でした。それはもちろん、この国が世界でもっとも混血化が進んだ国だっただからであり、それがあらゆる文化において現れていたからです。そして、彼の作品は、まさにそんなミクスチャー・サウンドの宝箱です。
 サンバ、ボサ・ノヴァ、をベースに、ロック、ヒップ・ホップ、レゲエ、ジャズ、サルサなど、あらゆるポップ・サウンドの要素が敷き詰められ、その上に優しくゴージャスなオーケストラ・サウンドがかぶせられるという具合に、世界中の音楽が見事に織り込まれています。そして、それはけっして大鍋のゴッタ煮料理ではなく、じっくりと煮込んだ後、裏ごしされた極上のスープのように仕上げられているのです。それは、ジャンル分け不能のブラジリアン・ミクスチャー・サウンドなのです。

<「リーブロ」>
 「リーブロ」は、そんな彼のミクスチャー感覚を生かした数々のアルバムの中でも、最高傑作と呼ぶに相応しい作品です。それは、聴く曲ごとにその輝きを変え、聴くものを魅了する「音の万華鏡」です。これだけ多種多様な音楽を、さらりと違和感なくまとめ上げるアーティストは、20世紀末の、彼以外には考えられなかったでしょう。
 彼はけっして売らんかな的な曲作りはしません。彼がもし英語圏のアーティストだったら、ビートルズやボブ・ディランのような存在になっていたかもしれないと言う評論家もいますが、あくまで前衛的な曲作りにこだわる彼は、けっしてスーパー・スターにはならなかったでしょう。おまけに、彼がそれぞれの曲につける詞は、けっしてポップではありません。アルバム・タイトルに「リーブロ(本)」と名付けるだけあって、まさに文学的香りの高い歌詞が添えられています。
 多くの評論家が、彼のことを「マイルス・デイビス以来の天才」と評価していますが、それはけっして過大評価ではないはずです。
「”リーブロ”を聴かずして、20世紀ポップスを語るなかれ!」

さらに詳しいカエターノ・ヴェローゾ特集はここから!
カエターノ・ヴェローゾ



ロック系
"Being There" Wilco (アメリカン・ニュー・ルーツ・ロックの代表的バンド)
"Blue Moon Swamp" John Fogerty
C.C.R.のリーダー、忘れた頃に登場、ルーツ・ロックの流れにもピッタリ)
"Fashion Nugget" Cake
"The Fat Of The Land" Prodigy
(イギリスから登場したデジタル・ロックの新鋭、テンション高し!)
"Heavy Soul" Paul Weller
(今やブリティッシュ・ロック界の重鎮、貫禄の一枚)
"Homogenic" Bjork(相変わらずのビョーク節!)
"I Can Hear The Heart Beating As One" Yo La Tengo
(心地よいサイケ・ギター・サウンド!いい味だしてます)
"Lift The Lid" Jools Holland
(元スクィーズ、ニューオーリーンズ、R&B、スカなど、ファンキー・ルーツ満載)
"New Forms シェア・ザ・フォール" Roni Size & Reprazent
(ドラムン・ベース時代の到来を告げた決定的作品)
"OK Computer" Radiohead
(REMとのつながりも感じさせる精神的な正統派ロック・バンド)
"Other Songs" Ron Sexsmith
"Pop" U2(ひさびさU2のパワーが炸裂、ライブツアーもすごかった)
"Shleep" Robert Wyatt
(元ソフト・マシーン、プログレ・ジャズ・前衛系の癒しロック、驚き!感激!)
"Slip Stitch And Pass" Phish
"Time Out Of Mind" Bob Dylan(どっこいディランは生きていた!)
"Vanishing Point" Primal Scream
(ヒップ・ホップ系サイケデリック・ロック、映画「バニシングポイント」が元)
"Whatever And Ever Amen" Ben Folds Five
(ポップなファンキー・ピアノマン、古くて新しいスタイル)
"When I Was Born For The 7th Time" Corner Shop
ソウル、ヒップ・ホップ系
"Erykah Badu Live" Erykah Badu
(ジャージーなヒップ・ホップ系ソウルの新星のクールなライブ)
"Love You To Tears" The O'Jays
"Silentintroduction" Moodymann
"The Turning Point" Underground Resistance
レヴァート、スウェット、ギル」 LSG
サルサ系
"A Toda Cuba le Gusta" Afro Cuban All Stars
(キューバン・サルサ・ブームのきっかけとなったバンド)
"De Vacaciones" Vocal Sampling
(アカペラ・サルサという新しいスタイル、キューバから登場)

"Black Woman & Child" Sizzla
ブラジリアン・ポップ(MPB)系
未知との遭遇の日」 Lenine
(北東部レシーフェ出身、ヒップ・ホップ系ロックのMPB版の傑作)
アフリカン・ポップ系
"Zap Mamma 7" Zap Mamma
ジャズ系
"Forever's A Long,Long Time" Orquestra Was
(ヒップ・ホップ、ロック界の名プロデューサー、ジャズにチャレンジ)
アジアン・ポップ系
"Plays The Slack Key Guitar" 山内雄喜
(ハワイアン・スラック・キー・ギター、和製ライ・クーダー?)
J−ポップ系
アイ・クッド・ビー・フリー」原田知世
宇宙 日本 世田谷フィッシュマンズ
A」 電気グルーブ(いよいよブレイク和製テクノ・ビート)
狼惑星」 ギターウルフ(世界もびっくり、ワイルド・ギター・サウンド)
硝子の少年」 Kinki Kids
現在時刻」 K-Dub Shine
"Go! Go! Heaven" SPEED
ジュニア・スウィート」Chara
ショッピング」 井上陽水奥田民生
チキン・ゾンビーズ」 ミシェル・ガン・エレファント
(けっして新しくないけど、実にかっこいいモッズ・サウンド)
トロポポーズ」シアター・ブルック
ファンタズマFantasma」 コーネリアス(世界に通じるサンプリング・ポップの傑作)
ザ・パワー・ソース」 ジュディ・アンド・マリー
"Peachberry" 森高千里
ヘブンズ・キッチン」Bonnie Pink
"HOME" 山崎まさよし
"Levelers Ching Dong" ソウル・フラワー・モノノケ・サミット
"Clover" スガ・シカオ (ジャパニーズ・ファンク&ソウルの本格派)



ソウル、ヒップ・ホップ系
Erykah Badu " Baduizm"
J−ポップ系
カジ・ヒデキ 「ミニ・スカート」
川本真琴 「川本真琴 」
くるり 「もしもし」
中村一義金字塔」(世の中にはいろんな人がいる、だから驚きがある)
ファンタスティック・プラスチック・マシーン「ファンタスティック・プラスチック・マシーン」
ロリータ18号「髭忍者」


Epic Soundtracks(元レッド・クレイオラ) 11月22日  ? 37歳
Glen Buxton(Alice Cooper) 10月19日 肺炎 49歳
Jeff Buckley  5月29日 水死 30歳
John C.Walters(ドクター・フィールグッド)  6月16日 肝臓癌 52歳
John Denber 10月12日 飛行機事故 53歳
Laura Nyro  4月 8日 卵巣癌 49歳
Michael Hutchence(INXS) 11月27日 自殺 37歳
Nicolette Larson 12月16日 脳腫瘍 46歳
Ronnie Lane  6月 4日 多発性脳脊髄硬化症 51歳
Townes Van Zandt  1月 1日 アル中から心臓発作 52歳
Harold Melvin(With The Blue Notes)  3月24日  ? 57歳
LaVern Baker  3月10日 病死 67歳
Lawrence Payton(Four Tops)  6月20日 肝臓癌 40歳
The Notorious B.I.G.  3月 9日 射殺 24歳
Nusrat Fateh Alie Khan  8月16日 肝臓病 48歳
Fela Kuti  8月 2日 エイズの合併症 58歳
Chico Science  2月 2日 自動車事故 30歳
Tony Williams  2月23日 心不全 51歳
Tom Parker大佐プレスリー・マネージャー)  1月21日 卒中 81歳


地球温暖化防止京都会議開催
対人地雷全面禁止条約調印、化学兵器禁止条約発効
ユネスコによるクローン人間など禁止の世界条約
世界同時株安、NY株は最高値800ドル台突入
第23回主要先進国首脳会議(デンバー・サミット)ロシアが初参加
<アメリカ>
地雷禁止NGOジョディ・ウイリアムス、ノーベル平和賞受賞
第二回火星探査衛星より画像が送信される
<ヨーロッパ>
英国で、クローン羊誕生が発表される(生まれたのは1996年)
英国総選挙での労働党圧勝を受け、ブレア政権が発足
ダイアナ元皇太子妃、交通事故死
スコットランド議会の創設が英国議会で可決承認される
欧州連合(EU)の単一通貨(ユーロ)発足
ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国発足
フランスの海洋探検家、ジャック・イブ・クストー死去
ロシアのピアニスト、スビャトラフ・リヒテル死去
<アフリカ・中東>
エジプトで観光客をターゲットにしたテロ事件発生
ザイール、モブツ大統領亡命しコンゴ民主共和国発足
ナイジェリア、シエラレオネに軍事介入
ソマリア和平合意
イラン大統領に現実路線のハタミ氏就任
イスラエル、東エルサレムの集合住宅強行着工
<アジア>
アジア通貨危機
インド大統領にカースト出身のナラヤン氏就任
中国共産党全国大会で株式制導入などを発表
香港が中国に復帰
金正日氏、朝鮮労働党総書記に就任
マザー・テレサ女史が死去
<日本>
動燃再処理施設で爆発事故発生
神戸連続児童殺害事件発生
日米防衛協力のための指針合意(日米ガイドライン協定)
消費税5%になる
北海道拓殖銀行が業務停止となる
山一証券が自主廃業する
脳死を人の死と見る、臓器移植法案成立
サッカー・ワールド・カップに初出場決まる

<芸術、文化、商品関連>
「マーティン・ドレスラーの夢」スティーブン・ミルハウザー著(ピューリツァー賞受賞)
「小さきものたちの神」アルンダティ・ロイ著(ブッカー賞受賞)
「コールド・マウンテン」チャールズ・フレイジャー著(全米図書賞)
「ポケット・モンスター」放映開始、翌年からはアメリカなど海外でも放映開始
トヨタのハイブリッド・カー「プリウス」発売開始、ゆっくりと世界的ブームになる
キャノン「IXY」発売
「たまごっち」が大ブームとなる


<音楽関連>
サラ・マクラクランの提唱による女性アーティストだけのフェスティバル・ツアー、リリス・フェア開催(女性アーティスト時代の象徴的イベントとして大ヒット)
クラシック・ギター奏者のナルイソ・イエペス死去
ギドン・クレーメルのアスロル・ピアソラ作品集の大ヒットで世界的ピアソラ・ブーム
第一回フジ・ロック・フェスティバル開催

<1997年という年> 橋本治著「二十世紀」より 2004年11月追記
 1997年8月、タイの通貨バーツが暴落。その後香港の株式市場、ニューヨークの株式市場へと飛び火し、日本、韓国も含め、アジア全体が経済恐慌にみまわれる。
「二十世紀最末葉の地球上には、『金貸し』と『金を借りる必要のない人』と『金がなくて困っている人』の三種類がいて、しかも『金がなくて困っている人達』は、金を借りたくても返すあてがないから、借りることができない。そうなったらどうなるのか?つまりは、金貸しの失業である・・・」
「借りる能力のある人間は、もうそんなにいない。しかい、貸す側には、莫大な資金がある。その資金はどこから来たのか?それは、19世紀帝国主義から続く、二十世紀資本主義の”遺産”なのである」
「世界には資金の需要があって、そこに貸した金は必ず大きな利潤を得て戻ってくるーそれが帝国主義の19世紀から20世紀まで続いた世界経済である。そうして、世界は豊かになった。・・・しかし、二十世紀の最後になって、もう投資の先はなくなってしまった。だからこそ、あまりにも巨額な資金が、『損だけはしないように』という計算式に基づいて、世界中をうろつき回り、経済そのものを混乱させるのである。それが、1990年代に歴然としてしまった経済の形なら、もう我々には、「経済」というものを考える必要がないのだ。そこで考えられるべきことはただ一つ。『まじめに働いている人間の生活を脅かす経済不安を作り出すような、ヘッジファンドを取り締まれ』だけである」
<作者からのコメント>
 この部分の橋本さんの記述には大拍手です!経済学の大権威だかなんだかしらないけど、ヘッジファンドなんてものを考えた学者は、「お金の価値」は分かっても、「労働の意味」を知らない人間に違いありません。そう考えてくると、今の経済学に存在価値は本当にあるのでしょうか?世の中から経済学者がいなくなると、世界は破綻してしまうのでしょうか?そんな素朴な疑問がわいてきます。「経済学」が発展して、世の中は豊かになったのでしょうか?人々は幸福になったのでしょうか?
 僕にとっては、はっきり言って「経済学なんかクソ食らえ!」です。


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