- レフ・セルゲイビッチ・テルミン -

<奇妙な映画>
 テルミンという奇妙な楽器を発明した奇妙な男をめぐる奇妙な物語をドキュメンタリー映画化した作品です。当然、作品全体が奇妙な雰囲気に包まれていますが、それ以上に不思議なロマンにあふれた魅力的な作品です。

<奇妙な人物たち>
 もちろん、テルミンの発明者、ロシア人のテルミン博士の奇妙さは群を抜いています。彼の青く澄んだ目に見つめられると女性たちは、皆吸い込まれるような気がしたと言いますが、まさにカリスマ的人物の典型です。しかし、彼の発明品「テルミン」をカーネギー・ホールでオーケストラと共演するところまでもっていった美しき女性演奏者クララ・ロックモア女史もまた、カリスマ的人物です。彼女が演奏したからこそ、あの奇妙な楽器は芸術と認められることができたのかもしれません。明らかに彼女が弾くテルミンの音色は、他の演奏者たちのものとは異なり「芸術」と呼ぶに値する魅力をもっていました。
 そして、テルミンに魅せられ高校時代からその試作を繰り返し、そこから新たな電子楽器を発明するに至った人物、ムーグ氏も登場します。(あの有名な元祖コンピューター楽器、ムーグ・シンセサイザーの開発者のことです)

<奇妙な音色>
 テルミンの歴史的価値は、シンセサイザーの元祖であるという事実だけでも大変なものです。にも関わらず、なぜ今テルミンは幻の楽器になってしまったのか?(それどころか、ゲテモノ的扱いを受けていると言っていいでしょう)
 ひとつには、テルミンの音自体がもつ奇妙な音質のせいもあるでしょう。考えてみると、我が家にもテルミンとよく似た楽器?があります。それはプラスチック製のオモチャの剣についています。その剣の根もとに小さなダイヤルがついていて、そのダイヤルを回すとキュイーンという電子音が出る仕掛けになっているのです。もちろん、ダイヤルのひねり具合で音の高低がかわるので、ある種の電子楽器と言えなくもありません。アナログ式電子音発生マシーンという意味では、テルミンといっしょと言っていいはずですし、音質も似ています。(テルミン博士すいません)その点、テルミンの音は電気的ノイズと言ってもよいものです。それは、優れた演奏者の存在によって、初めて楽器と呼べる存在になりえるのです。

<奇妙な映画のための音楽>
 かつてテルミンが活躍した1950年代、その最大の活躍の場が、B級SF映画とB級恐怖映画だったという事実は、テルミン自体がB級楽器としての扱いを受けていた結果だったのかもしれません。 このB級映画にはヒッチコックの初期の作品「白の恐怖」も含まれています。(当時ヒッチコックは、明らかにB級映画の監督としての扱いを受けていました)
 そんなヒッチコック映画の音楽を担当していたバーナード・ハーマンもまた奇妙な人物でした。彼はクラシック畑出身のエリート作曲家でしたが、現代音楽の世界に進んだ後、映画音楽の分野に進出しました。そんな彼がテルミンという前衛的な楽器を選んだのはある意味必然だったのかもしれません。と言っても、実際の映画での使われ方は、楽器としての仕様というよりは、特殊効果音の発生装置だったと言うべきなのかもしれませんが・・・。

<ビーチ・ボーイズとテルミン>
 もちろんテルミンは、効果音だけに使われていたわけではありません。なんとあのビーチ・ボーイズも、テルミンを曲の中で使っています。それも彼らの大ヒット曲「グッド・ヴァイブレーション」でです。全米ナンバー1に輝いたあの名曲は、構造的な斬新さからポピュラー音楽の歴史を変えたと言われていますが、その不思議な魅力の重要な脇役としてテルミンが使用されていたのです。改めて聴くと、ああそうか!とわかるはずです。
 そうそう、この映画にも、ゲストとしてブライアン・ウィルソンが出演していますが、やっぱりこの人も奇妙です。(彼も含め多くの出演者の奇妙さに比べると、同じゲスト出演のトッド・ラングレンが普通の人に見えてくるから不思議です・・・ちなみにトッドは口テルミンの実演のみの出演でした・・・これも充分奇妙ですね)

<結論>
 テルミンとは、「グッド・ヴァイブレーション Good Vibration」ならぬ「オッド・ヴァイブレーション Odd Vibration」の発生装置であり、選ばれた者だけが、そこから美しい調べを取り出すことができるのです。
 もちろん、この映画はテルミンという楽器が主役なのではなく、それを発明したテルミン博士のドラマチックな人生こそが主題です。そして、その波瀾万丈のドラマが実に面白いのです!例えて言うなら、ウディ・アレンの「カメレオン・マン」やロバート・ゼメキスの「フォレスト・ガンプ」の実話版といった感じです。詳しくは、映画(ビデオ)を見ましょう!

「テルミン Theremin - An Electric Odyssey -」 1993年公開(日本公開2001年)
(監督)スティーブ・M・マーティン Steve M.Martin
(音楽)ハル・ウィルナー Hal Willner
(出演)レフ・セルゲイビッチ・テルミン
    クララ・ロックモア
    ブライアン・ウィルソン
    トッド・ラングレン    
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